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堂々の最高傑作!! 「村上海賊の娘 #1~4」 著者:和田竜 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:95/100
作品情報
著者 和田竜
出版日 2013年10月22日

小説の概要

 
 この作品は、戦国時代の天正4年(1576年)、現在の大阪湾木津きづ川で起こった第一次木津きづ川口かわぐちの戦いを題材とした歴史小説です。
 
 信長包囲網に加わったため織田の軍勢に兵糧攻めを受け餓死寸前の大坂本願寺(石山本願寺)の一向宗の門徒たちに兵糧を届けるべく、反信長である中国地方の毛利家と戦国最大の勢力を誇る水軍(海賊)である村上水軍が、木津きづ川の河口を封鎖する織田の水軍、真鍋水軍(海賊)と激突するというストーリーです。
 
 瀬戸内海を支配する村上海賊と、泉州(現在の大阪府南部)で暴れ回る真鍋海賊、凶暴な二つの海賊による海戦を描く内容となっています。
 
 出来るだけ史実に忠実でありつつも、村上海賊の総大将である村上武吉の娘、きょう姫という歴史上似たような人物は存在するものの詳細は一切不明なほぼオリジナルに近い女主人公を史実と絡ませ、村上海賊と真鍋海賊、海賊同士が友情を深め、互いを認め合いつつ豪快に殺し合うという和田竜さんらしさが炸裂する作風です。
 
 文庫版は4巻までありますが、シリーズものではなく、単に分厚い本を分冊しているだけで4冊まとめて1作となります。
 
 作家和田竜の技術の粋を集めた極上のエンタメ歴史小説に仕上がっており、集大成かつ間違いなく和田竜作品の中でもダントツの最高傑作です!!
 

和田竜らしい戦国愛が濃密に詰まった超大作

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 この小説を読む前にまず尻込みするのが、通常の小説3~4冊分ほどに相当する凄まじいまでのボリュームです。文庫版一冊平均340ページほどで、それが4冊分で約1350ページほどになります。
 
 過去の和田竜作品はどれも約400ページあるかないかくらいで、本が分厚いという印象は皆無だったのに、今作でいきなり4倍となるため読むのにある程度の根気が必要です。なぜなら、1巻目がひたすら舞台設定と登場人物の紹介を行う長い説明パートとなり、本格的に面白くなるのが2巻以降なためです。
 
 はじめに過去作丸々1作分に相当するページ数の説明を読み続けなければならず、ここは事前に『秀吉と武吉』という村上海賊と毛利家の関係が本作より詳細に語られる小説を読んでいたこともあり非常に長く感じました。
 

 
 しかし、後々重要となる大坂本能寺の一向宗の門徒や、本願寺に協力する鉄砲傭兵集団である雑賀さいか党、織田の配下である泉州侍や真鍋海賊などのお披露目が一通り終え、ようやく織田信長軍vs反信長連合軍の戦いの火ぶたが切って落とされる2巻目以降は怒濤の盛り上がりを見せます。
 
 とりあえず、最初の400ページくらいは説明パートと割り切って読み進める必要があり、ここだけ過去の和田竜作品には存在しなかった手間があります。
 

実質主人公ですらある真鍋海賊の大将

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 本作で最も印象に残るのが村上海賊の姫である景ではなく、最大の敵として立ちはだかる真鍋海賊の大将、七五三兵衛しめのひょうえでした。
 
 和田竜さんが持つ戦国時代観を色濃く象徴するような人物で、このキャラクター造形を成立させたことで和田竜という作家は次の表現ステージに昇ったなと思えるほどです。
 
 七五三兵衛しめのひょうえという人物は和田竜という作家の作風そのものが擬人化したような人物で、その破天荒な振る舞いが周りの人間の考えや行動に影響を与えてしまうという点はまさに和田竜さんの小説と読者の関係そのものでした。そのため、和田竜小説の中で和田竜の権化のような傑物が暴れ回るという構造がややメタ的にすら見えます。
 
 七五三兵衛しめのひょうえや真鍋海賊はじめ泉州(大阪)の侍たちが持つ俳味はいみという何よりも洒落しゃれっ気をこよなく愛する気質や、そこから生じる裏表のないカラッとした陽気さや残忍さが余すことなく表現され尽くし、和田竜さんの作家性がこれでもかと発揮され、和田竜濃度は過去最高でした。
 
 特定の地域で生まれ育った人間が備える気質でキャラクターを活き活きと輝かせる手腕は過去作に比べても抜きん出ており、『のぼうの城』に登場する坂東ばんどう武者たちを遙かに凌駕し、間違いなく過去最高の暴れっぷりだと思います。
 
 本作を読むことで、和田竜さんが戦国時代やそこで戦に興じる人々を通して目指すことは、今では失われた俳味はいみやそれに近い戦国の気質や気性のようなものを現代に蘇らせることなのだなと今更ながら気付けました。
 

豪快な海戦と、それを支える緻密な構成力

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 過去作同様に、本作もまた痛快娯楽小説としてお手本のようなプロットの手並みで、抜かりのなさには心底惚れ惚れしました。
 
 ほぼ全てと言っていい名前がある登場人物にそれぞれの個性を生かした見せ場が用意され、しかも各々が背負う苦悩や戦いに挑む際の動機付けも完璧に描写され尽くし、一人たりとも何を考えているのか分からない、物語的に不要な人物がいないという徹底ぶりは見事としかいいようがありません。しかも戦いの中で己の悩みや葛藤を乗り越えて人として一皮剥け、その人が普段見せる表情とは異なる顔が浮かび上がる様まで描き切るという恐るべき構成力で、この適切な情報の詰め込み具合には感服します。
 
 さらに、この小説が真に凄いのは、これら細かいテクニックがテクニックだけで終わらず、そのまま作品の発する、家名を守るため小さく生きるのではなく自分らしく豪快に生きなければ家というものが魂の抜けた空虚な箱になってしまうという本作最大のメッセージに集約し胸に突き刺さってくることです。
 
 全編通して和田竜という作家はここまで豪快さと繊細さを併せ持つ化け物なのかという嬉しい驚きに満ちており、読めば読むほど作者の術中にハマり、登場人物の生き様や死に様に一喜一憂するばかりでした。
 
 ただ、気になる点も少々あります。
 
 主人公の景が七五三兵衛に完全に喰われてしまいイマイチ印象に残らないことや、過去作の『小太郎の左腕』と同じくある人物が塞ぎ込んだ状態から復活するくだりがやや雑なこと。服と一緒に過去の自分を脱ぎ捨て新しい自分に生まれ変わるというくだりは、映像だったらそれだけで意味を汲み取りますが、小説だとやや弱く感じます。
 

 
 それに、敵を恐ろしく描こうとするあまり村上海賊が腰抜け集団に見えることや、天才中の天才である毛利家の頭脳、小早川隆景たかかげが結局ただ単に読みを外しただけにも見えてしまうなど、諸手を挙げて完璧とは言い辛い箇所もあります。
 

戦闘狂の真鍋海賊に対して村上海賊は怖くて逃げ回るばかりでどこが瀬戸内海で恐れられる海賊なんだという違和感しか残りません

最後に

 
 史料の調査含め娯楽作品として一切の隙が無い情報量や構成力、戦国の人々の気質を表現しきった人物描写力と、過去作の優れた箇所をより進歩させ超大作に仕上げた、和田竜という作家の集大成と呼ぶに相応しい文句なしの大傑作!!
 

和田竜作品