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【歴史】世界の歴史はお金でできている |『お金の流れでわかる世界の歴史 -富、経済、権力はこう「動いた」-』| 感想 評価 レビュー 書評

本の情報
著者 大村大次郎
出版日 2015年12月11日
難易度 易しい
オススメ度 ☆☆
ページ数 約212ページ

本の概要

 
この本は、元国税調査官の著者が世界史を政治ではなくお金の流れ(主に税金)で読み解いていくという変わったアプローチの歴史本です。
 
栄華を極めた大帝国が税金の徴収を下請けに丸投げした結果中抜きされ税収が不安定になり崩壊していくという国家の衰退にありがちなパターンの解説や、イスラム教が爆発的に普及した原因はキリスト教徒がイスラム教に改宗すると税金が安くなったからなど、これまで自分が当たり前だと思っていた歴史認識が根底から覆される快感がありメチャクチャ面白い一冊でした。
 
この本を読むと、国家運営において税金の徴収を誰に任せるのかという判断がいかに重要なのか理解できたり、なぜ封建制は王より諸侯のほうが力を持ってしまうのかという疑問がお金の流れで読み解けたりと、歴史をより柔軟に捉える視点を獲得できます。
 

税金を制するものが権力を制する

 
この本を読んで最も為になるのは歴史上の多くの出来事は税金によって引き起こされると分かることです。
 
アメリカ独立戦争もフランス革命も原因は増税だし、古代エジプトや古代ローマが衰退したのも税金を徴収する者の腐敗だし、後発のイスラム教が巨大な宗教になったのもキリスト教より税の優遇があったからと、あらゆる歴史の裏側に潜む金の流れを暴くことで歴史とはいかにお金で動いてきたのか明らかとなり、世界史を違った角度で捉える柔軟性が身に付きます。
 
中でも個人的に最も興味を惹かれたのは税金の徴収のやり方を間違えると国が滅ぶという、税金(お金)の集め方の重要性です。
 
国が滅ぶ時とは税金を徴収する者たちが腐敗し私服を肥やし始める時であるという切り口が新鮮で、確かに世界中の政情不安定な国や財政難が深刻な国を眺めると大体公務員が腐敗しているところだらけで、徴税が国の存続に多大な影響を与えるというのは腑に落ちました。
 
それに加え、お金の流れを追うと見えてくるのが封建制では王より諸侯のほうが力が強くなってしまうという歴史の必然です。
 
なぜ平安時代に寺院や武士が強大な力を持ったのかや、なぜ室町時代末期に幕府の将軍より地方の戦国大名のほうが力が強くなるのかといった、君主と臣下の力関係が逆転する構造が税金を軸に考えると簡単に理解でき封建制の仕組みがスッと頭に入ってきます。
 
この本を読みお金の流れで歴史を見るという視点を獲得すると、これまで歴史の勉強でイマイチ納得できなかった、なぜ突然この時代にこの集団が強大な権力を握るに至ったのかという経緯が一発で分かるので、歴史上の人物や年表を暗記するくらいなら、まず先にお金で歴史を見るという考え方を学んだほうが遙かに有益とすら思えます。
 

最後に

 
歴史を勉強する際はどうしても「今は違うけど昔はこうだった」と現在と過去を切り離して考えがちですが、お金の流れで歴史を追うと「現代とまったく同じ構造だ!!」という類似点のほうが多く発見でき、より自分事として歴史を捉えられます。
 
良くも悪くも歴史とは“お金・税金の歴史”であり、人類の歴史と税金とは絶対に切っても切れない縁で結ばれていることが分かる一冊でした。
 

一部の人間が富を独占し貧富の差が行くところまで行った時に国は滅ぶという何千年に渡り幾度も繰り返されてきた歴史が現在にもそのまま当てはまってしまい、昔の出来事と割り切れない怖さが残ります

 

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