えんみゅ~ -えんためみゅーじあむ-

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名画に見る男のファッション 〈レビュー・感想〉 絵画のファッションが教えてくれる常識を疑う姿勢

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ファッションの当たり前をひっくり返される衝撃

 
 この本の内容は、古くはルネサンスから最新だと20世紀初頭頃までの絵画に描かれる男がどのような服装をしているかに注目し、そこからその時代の上流階級の間で流行していた奇抜なファッションや、絵画が描かれた時代の背景を読み解いていくというものです。
 
 正直、一つ一つの文章量はやや短めで、ボリュームもあっさりなためあっという間に読み終わってしまい、その点は物足りなさを感じました。
 
 ただ、基本は怖い絵シリーズや名画で読み解くシリーズなどと同様のフォーマットなので、本を読み終える頃には同じ絵画でも異なる見え方をし、その絵が描かれた時代の人々の生活に思いを馳せたくなるという中野京子さんらしい知的で爽やかな余韻が残ります。
 
 新聞や雑誌で連載されたバラバラなものをまとめたもので、別段一つ一つの内容にそれほど関連性はないのに、本全体としては一貫したテーマが透けて見え、読む前と後でファッションや歴史の見え方が変化するのは毎度さすがだなと頭が下がるほど楽しく読めました。
 
 この本で何に衝撃を受けるかというと、昔の男がどれほどファッションに命を燃やし、日常生活に支障をきたしてまでも身を飾っていたのかというその溢れんばかりの情熱です。
 
 この本を読むと、長い歴史上、現代の男ほどファッションに美意識を持たない、外見に注意を払わない時代はないのではないかと思うほど、昔の男に比べ自分は服装に関してこだわりが欠けているのだと気付かされます。
 
 中野京子さんの本を読んでいると昔の貴族や王族の男は脚線美にこだわっていたなどという男のファッションに関わる話がちょこちょこと語られていたものの、正直ほとんど興味を持たず流して読んでいました。そのため、この本を読むと、それらもろもろの記憶が繋がり、なるほどこういうことを主張したかったんだなと合点がいきました。
 
 昔からファッションに対して強い情熱を持っているのは女のほうだと思い込んでいたため、昔は男が女よりもど派手に着飾り、流行に敏感で、見映えをよくするために努力を惜しまなかった時代があったという話を読むと、当たり前だと思っていた常識がただの思い込みだと気付き、ファッションというものに対する考え方が180度変化します。
 
 長ズボンというのは、半ズボンばかり履いて自分の美しい足を見せびらかす貴族に対し反発して生まれた反体制の象徴であるという話や、17世紀や18世紀のフランスでは貴族が巨大なカツラを被るために髪の毛を剃っていたとか、雑学としての面白味も充分あります。
 
 しかし、一番刺激的だったのはやはり昔はファッションへの情熱に男も女もまったく関係がなく、誰もかれも自分を美しく見せようとたゆまぬ努力をしていたという事実でした。
 

最後に

 
 ボリュームは控え目ながら、ファッション雑学や、絵画の服装から当時の人々の生活がうっすら透けて見える歴史の面白味が味わえるのはもちろん、本の中でも少しだけ触れられているIT長者など現代の資産家が派手な格好をしないというのが歴史的に見るとどれほど奇妙なことなのかが分かるなど楽しく読めました。
 
 この本を読んだらファッションという自分を飾る行為は現実の服からSNSなどネット空間に移行したのかなと考えさせられるなど示唆に富む内容で、読む前の何となくのイメージを遥かに上回るほど得る物が多くありました。
 
 
名画に見る男のファッション (角川文庫)

名画に見る男のファッション (角川文庫)