著者 | 中野京子 |
出版日 | 2016年4月27日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆ |
ページ数 | 約200ページ |
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本の概要
この本は、古くはルネサンスから最新だと20世紀初頭頃までの絵画に描かれる男がどのような服装をしているかに注目し、その時代の上流階級の間で流行していた奇抜なファッションや絵画が描かれた時代の背景を読み解いていくという内容です。
基本は同じ著者の『怖い絵』シリーズや『名画で読み解く』シリーズなどと同様のフォーマットになっています。
ただ、一つ一つのボリュームは『怖い絵』などと比べても相当あっさりなため物足りなさもあります。
しかし、本を読み終えた後は、絵画の奥底に宿るその絵が描かれた時代の人々の息遣いが感じ取れるような中野京子さんらしい知的で爽やかな余韻は健在です。
ファッションの当たり前をひっくり返される衝撃
この本で何が衝撃かと言うと、昔の男がどれほどファッションに命を燃やし日常生活に支障をきたしてまでも身を飾っていたのかというその溢れんばかりの情熱ぶりです。
中には、長ズボンというのは、半ズボンばかり履いて自分の美しい足を見せびらかす貴族に対し反発して生まれた反体制の象徴であるという話や、17世紀や18世紀のフランスでは貴族が巨大なカツラを被るために髪の毛を剃っていたとか、雑学としての面白味も充分あります。
しかし、一番刺激的だったのはやはり昔はファッションへの情熱に男も女もまったく関係がなく誰もかれも自分を美しく見せようとたゆまぬ努力をしていたという事実です。
それに比べ現代の男ほどファッションに美意識を持たない、外見に注意を払わない時代は無いのではないかと思うほどで、昔の男に比べ自分は服装に関してこだわりが欠けているのだと気付かされます。
中野京子さんの本を読んでいると昔の貴族や王族の男は脚線美にこだわっていたなどという男のファッションに関わる話がちょこちょこと語られていたものの、正直ほとんど興味を持たず右から左へ流して読んでいました。そのため、この本を読むことでそれらもろもろの記憶が繋がり、なるほどこのようなことを主張したかったのだと合点がいきます。
この本を読む前は、昔からファッションに対して強い情熱を持っているのは女性だけだと思い込んでいました。しかし、昔は男が女よりもど派手に着飾り流行に敏感で見映えをよくするために健気な努力を惜しまなかった時代があったという事実に触れるとファッションというものに対する考え方が180度変化します。
最後に
ボリュームは控え目ながら、他の中野京子さんの著作同様に、ファッション雑学や絵画の服装から当時の人々の生活がうっすら透けて見える歴史の面白味が堪能できました。
そして、本の中でも少しだけ触れられているIT長者など、現代の資産家が派手な格好をしないのが歴史的に見るとどれほど奇妙なことなのかが分かります。
この本を読んだらファッションという自分を飾る行為の最前線は現実の服からSNSなどネット空間に移行したのかなと考えさせられるなど示唆に富む内容で読む前の何となくのイメージを遥かに上回るほど得る物が多くありました。
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