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【SF短篇小説】マルドゥックシティ犯罪レポートな短編集 |『マルドゥック・フラグメンツ』| 冲方丁 | 書評 レビュー 感想

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作品情報
著者 冲方丁
出版日 2011年5月10日
評価 80/100
オススメ度
ページ数 約352ページ

小説の概要

 
この小説は、サイバーパンク調SF小説であるマルドゥック・シリーズの短編集です。
 
6つ収録されている短編の半数以上が過去作の『マルドゥック・スクランブル』や『マルドゥック・ヴェロシティ』の補足か、次作の『マルドゥック・アノニマス』の予告のような中身なため、単独の物語としては魅力はありません。
 
全体的に過去作のキャラや新キャラの紹介、作中設定の説明が大半を占め単純な面白味にはやや欠けます。
 
しかし、マルドゥックシリーズの基本コンセプトを反復するような短編集で、読むとシリーズへの理解が自然に深まりより愛着が持てるのは確実です。
 

マルドゥック・シリーズを整理し、補足し、予告する短編集

 
まず基本としてこの短編集は『マルドゥック・スクランブル』と『マルドゥック・ヴェロシティ』の二作を読んでいることを前提として書かれているため未読の場合は容赦なくネタバレします。
 
特に事件の黒幕の正体は誰なのかという謎で引っ張り続ける『マルドゥック・ヴェロシティ』関連のエピソードは、さも当たり前のように黒幕の正体が語られるため注意が必要です。
 
収録されている短編の内容は主に3種類。
 
1つ目は本編からほぼ独立した、ウフコックたち09チームの活躍を軽快に描いた娯楽活劇風のもの。
 
2つ目は『スクランブル』や『ヴェロシティ』で起こった出来事に対する補足のような話や、特定の場面を別視点で描き直したもの(バロットとウフコックが事件発生以前に実は出会っていたという新情報や、バロットとボイルドの戦いをボイルド視点で語り直す、など)。
 
そして3つ目は『マルドゥック・アノニマス』の予告編に近い、新シリーズの登場人物や事件の概要を先んじて紹介するといったものです。
 
この中で特に良かったのは1つ目です。本編から完全に独立した小規模な事件をまだ09チームだった頃のウフコックやイースター、ボイルドたちが協力して解決する、いかにも短編らしい爽やかで軽妙な話でした。
 
この短編は楽しいだけでなく、マルドゥックシリーズの基本コンセプトやテーマ性が整理され、読むことでシリーズそのものへの理解が深まるというオマケも付きます。
 
「104」という短編は、後の裁判で不利にならないようバカげた法律を遵守しながら戦わなければならないマルドゥック・スクランブル09オー・ナイン法の厄介さがコミカルに強調され、むしろ本編よりマルドゥックシリーズが志向する面白味が明解なほどです。
 
「-200」という短編は、バロットとどこか似た雰囲気のローズという少女を登場させるのに、真の依頼人は生きることに前向きではないローズではなく、彼女を愛し生きて欲しいと願うウィルのほう。
 
それは、ウフコックが生きたいと願う者の意志を尊重するために力を貸しているという動機を鮮明にし、更には有用性を証明し続けないと廃棄される宿命のウフコックたち同様、マルドゥックシリーズとは理不尽に生命をおびやかされる者たちが過酷な現実に抗いながら生きる意味を問い続ける話なのだという作品のテーマ性をも浮き上がらせます。
 
この『フラグメンツ』を読むことでマルドゥックシリーズが何を描こうとしているのかが浮き彫りになり、より一層このシリーズへの理解が深まります。
 
シリーズの基本に立ち返る本作では、やはり誰よりも生きることに真剣なウフコックの存在感がより強調され、このシリーズの主役はウフコックしかいないと納得させてくれました。
 

ひたすら繰り返されるワンパターン展開

 
この短編集を読むことでシリーズの原点に立ち返ることが出来るという確かな魅力はありますが、単純に物語として面白いかと言われると微妙です。
 
とにかくウフコックが何かの物体に変身し、それを初めて見た人間が驚くというアイデアが何度も繰り返され、さすがに食傷気味でした。しかも、新キャラである肉体を強化されたエンハンサーたちの登場シーンも事情を知らない人間が次から次に特殊な能力を目の当たりにして驚愕し続けるというこちらもほぼ似たようなパターンが続き、正直途中から飽きました。
 
いくらなんでも過去作に出てきたキャラクターやシチュエーションをなぞる場面が多すぎで、バンダースナッチ・カンパニーや元09チームのメンバー、カトル・カールのような肉体改造を施された者が多くあまり目新しさを感じません。
 
全体的に過去作との整合性に縛られ過ぎで、そのおかげでシンプルにテーマ性は際立ちますが、過去のエピソードと関連付けたり、似たシチュエーションを多用したり、過去エピソードの補足説明だらけだったりと、新しい物語を読んでいる気はしませんでした。
 

最後に

 
語られる物語自体はそれほど面白いとは思いませんが、この『フラグメンツ』を読んだことで自分の中でマルドゥックシリーズのテーマ性が整理され、よりウフコックのことが好きになれたので結果としては大満足でした。
 

マルドゥックシリーズ

タイトル
出版年
マルドゥック・ヴェロシティ #1
2006年
マルドゥック・ヴェロシティ #2
2006年
マルドゥック・ヴェロシティ #3
2006年
マルドゥック・アノニマス #1
2016年
マルドゥック・アノニマス #2
2016年
マルドゥック・アノニマス #3
2018年

冲方丁作品

 
 
 
 
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