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忍法合戦ならぬサイボーグ合戦の開幕 「マルドゥック・ヴェロシティ #2」 著者:冲方丁 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:85/100
作品情報
著者 冲方丁
発売日 2006年11月15日
新装版:2012年8月23日

短評

 
 まだまだ序章に過ぎなかった1巻とは打って変わり、マルドゥック・スクランブル09チームと傭兵集団カトル・カールによるサイボーグ同士の激しい殺し合いが幕を開け、刺激が大幅に増した。
 
 山田風太郎の忍法帖のような肉体を強化されたサイボーグ同士の小気味よい集団戦闘に、敵が残虐な拷問や殺人を繰り返す麻薬戦争もののような恐ろしさが混じり合い、『マルドゥック・スクランブル』とは異なる魅力を打ち出せている。
 
 ただ、事件が入り組んでいる上に関係者や登場する組織の数が多く、ぼけっと読んでいるだけだと高い確率で話の筋を見失うという厄介さもある。
 

サイバーパンク+忍法帖+法律遵守の振る舞いという化学反応

 
 2巻は、前巻から引き続き、ボイルドたち09チームと同様のルーツを持つ傭兵集団カトル・カールによる残虐な拷問がされた奇妙な死体の謎と、秘密のベールに包まれたカトル・カールの雇い主の正体を追うという内容です。
 
 前巻は、廃棄処分の危機を脱したボイルドたちが自分たちの有用性を証明するべく、マルドゥック・スクランブル09法案によって証人保護のために活動を開始し始める話で、まだまだ序章といった、盛り上がりに欠ける内容でした。しかし、2巻からは自分たちと同じくサイボーグ化された傭兵集団カトル・カールとの表だった激しい殺し合いが勃発するため、面白さは格段に上がります。
 
 1巻は正直ストーリーが地味なため、ヴェロシティという作品に対する興味と言うよりは、傑作である『マルドゥック・スクランブル』の過去のエピソードだからという理由で読んでいました。
 
 ただ、2巻からはギャング映画や麻薬戦争もののような残虐な手法の拷問や殺人が相次ぎ誰がいつ殺されるのか読めない重く張り詰めた空気が漂っていたり、まるで山田風太郎忍法帖シリーズのような忍者ならぬサイボーグ同士のけれん味全開の戦闘が描かれたりと、本編とはまた異なるヴェロシティ独自の特徴が強く打ち出され、このシリーズ単体でも成立するなと思えるほどの楽しさです。
 
 ボイルドたち09チームは裁判で自分たちの行いが合法になるよう常に法に配慮した動きをしなくてはならないという制限があったり、敵のカトル・カールも傭兵として雇い主の意向には絶対に従わないといけなかったりと、互いにルールに縛られながら賢く立ち回る様がプロフェッショナル感を強調しており読んでいて知的に見えます。
 
 2巻は、山田風太郎忍法帖風のメチャクチャさ(セックスした相手を体内の凶悪なウィルスで葬る色気むんむんの女暗殺者や、股間にコンドームを被せたショットガンをぶら下げる変態サイボーグ、など)と、裁判で自分たちが不利にならないよう法律に違反してはいけないという縛りとの相性が素晴らしく、ヘタをすると片方に寄って、ただ荒唐無稽なだけとか地味なだけという状態におちいる愚をうまく回避できており、本編にも負けない無類の魅力を発揮できています。
 

終始こんがらがる黒幕捜し

 
 この巻も、前巻から引き続き人物や組織が多く、情報が錯綜し混乱しやすいのは同様です。
 
 ギャングのネイルズ・ファミリーや、製薬会社のオクトーバー社とその一族のオクトーバー家の面々。警察関係者に法曹界の検事や弁護士、労働組合連合のメンバーやら、娼婦に男娼、ボイルドたち09チームにボイルド達の肉体を改造した博士たち。傭兵集団カトル・カールに、さらにその他09チームが保護する証人たちと、とにかく大量の人物と組織が登場し、しかも思惑が組織をまたいで複雑に絡み合っているので、気を付けて読まないと誰と誰が繋がっていて、誰は誰の指示で動いているのか把握することすら困難です。
 
 しかも、主人公であるボイルドが「あの人が怪しい」とか「犯人はこんな動機で動いているのではないか?」など事件に対してあまり仮説を披露しないので、情報がいつまでも整理されず、点と点が結びついて線にならない、延々と点ばかりが増えていくもどかしい状態が続きます。
 
 そのおかげで事件の輪郭が常に曖昧で、最初から敵味方が明解な『マルドゥック・スクランブル』とは異なり、いつ誰がどのような理由で殺されるのか読めない薄気味悪さも漂いと、それはそれで本作の味にもなっており一概に否定もできません。
 
 ただ、全てを曖昧なまま放置し続けるのでどうしても人物や組織に対する印象が固まらず、ネイルズ・ファミリーやオクトーバー家の誰と誰が親子なのかとか、誰と誰が敵対しているのか分からないという状況が深刻で、全体的に登場人物や組織の存在感が薄くぼやけて見えます
 

最後に

 
 いつ誰が惨たらしく殺されるのか読めない凄惨なギャングものテイストに、サイバーパンクと忍法帖を足し、しかし裁判に備えて法は絶対に遵守しなければならないというアイデアの組み合わせがバッチリ決まっており、この巻でヴェロシティが目指していることがようやく掴め、1巻よりも断然好きになりました。
 

マルドゥックシリーズ

 

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