著者 | 三津田信三 |
出版日 | 2007年7月 |
評価 | 70/100 |
オススメ度 | - |
ページ数 | 約271ページ |
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小説の概要
この作品は、初めて住むはずなのにどこか見覚えのある新居に引っ越した少年が、新しい我が家で数々の怪奇現象に見舞われる過程で、徐々に謎の既視感の正体が明らかになっていくというミステリー仕立てのホラー小説です。
ホラー周りの設定はおざなりで、文章も特にこれといって作家の個性やこだわりが感じられない無味乾燥なものですが、主人公が体験する怪現象はどれも怖ろしく、ホラー小説としては及第点でした。
ただ、ラストのオチが信じられないほどずさんで、それまで積み上げたものを全て無に帰して終わるため後味は最悪です。
恐怖が二度襲ってくる幽霊屋敷の怪
この小説で最もゾクゾクしたのは、それまで体験した数々の怪現象の中に一つだけ異質なものが混じっていることが明らかになる戦慄の瞬間でした。
本作は、最初から少し飛ばしすぎなのではないかと思うほど怪現象が立て続けに起き、一日で三回も四回も霊のようなものに遭遇するため、正直読んでいてしつこさすら感じるほどです。
それが徐々に主人公の過去や引っ越し先の土地にまつわる事情が明らかになるにつれ、この怪現象のターゲットは無差別とか、この怪現象は主人公に警告を発しているものなど区別がされ、その過程で大量の無害な怪現象の中に実は明確に主人公だけを狙った殺意の込められたものが混じっていることが判明する際の恐怖は格別でした。
自宅や“屋敷神”が祀られる森で遭遇する怪現象も一つ一つが身の毛がよだつ怖ろしさで、初見は怪現象そのものにおののき、二度目は遭遇した怪現象の意味合いが変質することで怖さが増しと、ホラー小説として優れた二段構えの恐怖が用意され、ここはかなり好感触でした。
ダメなホラーは謎が明らかになると事前に遭遇した恐怖体験が陳腐化してしまうのに対し、この小説は謎が明らかになると事前の出来事の意味合いそのものが変わるため、かつての恐怖の記憶が新たに塗り替えられ同じ現象で二度恐怖でき、ホラー小説としては快感です。
逆の意味で衝撃のラスト
この小説最大の欠点は、それまで積み上げてきたものを完全に無に帰してしまう最低のラストです。
実はやっていること自体は同じ作者の『刀城言耶』シリーズと似た、人ならざる怪異が関係した事件なのか、人間が人為的に起こした事件なのかあえて曖昧な部分を残そうとするアプローチと同様ですが、これが驚くほど大失敗しており、単にこれまでやってきたことを全て台無しにする効果しかなく読後感は最低でした。
『刀城言耶』シリーズだと、ホラーとミステリーという二つのジャンルの融合がかなりうまくいっておりこの部分はまるで気にならないものの、本作においてはホラーとミステリー要素が互いの長所を殺し合うだけでなんの相乗効果も生んでおらず、結局“屋敷神”とか“じゅんばん”などホラー寄りの設定は何だったんだよと不満しか残りません。
最後に
小説としては、全体的に熱量が圧倒的に不足しており、文章は平凡で構成にもそれほどこだわりがなく、名作と言えるような風格は一切ありませんが、ホラー描写はしっかり怖いので最低限は楽しめます。
ただ、ホラー小説なのに最終的に怪異がミスリードの道具になり果てるラストがここ最近読んだ小説の中でもぶっちぎりワーストで酷かったため、オススメは一切しません。
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