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【劇場アニメ】つまらない不死鳥狩り |『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』| レビュー 感想 評価

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評価:75/100
作品情報
公開日 2018年11月30日
上映時間 90分
アニメ制作会社 サンライズ

アニメの概要

 
この作品は、『ガンダムUC(ユニコーン)』から直接話が繋がる続編です。
 

『逆襲のシャア』の続編の『ガンダムUC』の続編まで来るとさすがにうんざりします

 
『ガンダムUC(ユニコーン)』を見ている前提の作りなため、ユニコーンの視聴は絶対として、ルオ商会やニューホンコン、ティターンズ、アムロ・レイがグリプス戦役時に使用していたディジェといったゼータの設定やモビルスーツも再登場するため、ゼータを見ているとより理解しやすくなります(劇場版ではなくTVシリーズのほうです)。
 
ガンダムの劇場作品としてはペラペラな脚本のせいで独自の魅力というものが皆無の空虚な内容でした。
 
一部モビルスーツ同士の戦闘シーンに迫力があるものの、キャラクターはデザイン・キャラ造形ともに練り込み不足で、登場するモビルスーツも多くが過去作と被っており目新しさがありません。
 
単体の劇場用ガンダム作品としては『逆襲のシャア』や『F91』といった骨太な大傑作にはまるで及ばない凡作中の凡作でした。
 

あらすじ

 
 時代は宇宙世紀0097。連邦政府の支配体制を揺るがしかねないほどの秘密が隠されるラプラスの箱を巡り、地球連邦軍とネオ・ジオン残党軍《袖付き》が争ったラプラス事変が終結してから一年。
 
ラプラス事変の際に、パイロットの精神とサイコフレームが感応し、人智を超えた数々の奇跡を起こしたRX-0シリーズであるユニコーン一角獣ガンダムと、2号機のバンシィ黒獅子。その兄弟機でありながら実験中謎の暴走事故で行方不明となっていたユニコーンガンダム3号機フェネクス不死鳥が、ミネバ・ザビのラプラス宣言とほぼ同時期に突如地球圏に舞い戻る。
 
グリプス戦役始め、その後の二度に渡るネオ・ジオン戦争もうまく立ち回り政財界への影響力を強めた大企業《ルオ商会》のミシェル・ルオは、ある悲願達成のため地球連邦軍を利用しフェネクス捕獲へ乗り出す。
 
時を同じく、スペースノイド独立のためジオン再興を志す、ジオン共和国外務大臣モナハン・バハロも、ジオン共和国の正規軍をネオ・ジオン残党《袖付き》の過激派に偽装し、フェネクス捕獲に動き出す。
 
こうして、ルオ商会に利用される地球連邦軍と、ジオン共和国軍、両者の思惑がぶつかり合う不死鳥狩りの幕が切って落とされる。
 

ガンダムUC(ユニコーン)のお粗末なアフターストーリー

 
今作はユニコーンから話が繋がっているため、復習も兼ねてユニコーンのOVA版を全7話を一気に見返すことに。すると過去にバラバラで見た際よりストレートにメッセージが読み取れ、自分の中で作品評価が大幅に向上しました。
 
初めてユニコーンを見た時は、ファースト、ゼータ、ダブルゼータ時代のMSが大量に登場するし、シャアのそっくりさんまで出てくるなど、どちらかというと懐古趣味の成分が鼻についてあまり好ましく感じませんでした。
 
しかし、改めて見直すと懐古部分よりもガンダムというものをここまで純粋に人と人とが互いに理解し合える可能性を信じ抜く話として再構成する大胆なアプローチのほうに惹かれました。
 
主役機であるユニコーンガンダムもただの高性能MSとして描くのではなく、人の意識を革新へと導く役割を担うという自分好みな設定で、ニュータイプという人の革新や、人間が他者と分かり合える可能性を信じるという富野ガンダムの勘所をしっかり抑えており好感が持てます。
 
ここら辺は、宇宙世紀の年表の隙間を埋めて辻褄合わせをするだけのものや、ニュータイプを描かずただミリタリー的な設定をこねくり回して遊ぶだけのOVA作品よりも好きです。
 
しかし、そんな傑作のユニコーンと地続きな続編なのにも関わらず、今作は非常に出来が悪く褒める要素がほぼありません。
 
あまりにもシナリオの完成度が低すぎて、ただユニコーンを一回りグレードダウンしただけの話にしかなっておらず魅力が皆無でした。
 
根本の設定やドラマが退屈な上に、ディテールも突き詰め不足なため、そこら中穴だらけの欠陥脚本にしか見えず、これで単体の劇場用ガンダムを作ろうなんて端から無理があると思います。
 
護送中のマーサ・ビスト・カーバインを確保しフェネクスの情報を聞き出したら突然舞台が宇宙に飛んで不死鳥狩りが始まるのも唐突すぎるし、ルオ商会がティターンズから偽者のニュータイプを掴まされる可能性を考慮していないマヌケにしか見えないし、ミシェルがサイド6にフェネクスがいるらしいと言うと連邦とジオンがサイコモニターの反応に何の疑問も抱かずそこへ向かうというくだりも適当すぎて呆れました。
 
もう少しフェネクスがサイド6のスペースコロニーにいるという証言の裏を取るような画像データや映像データをでっち上げてでも説得力を高める工夫がないと安易すぎて白けます。
 
ユニコーンもサイコフレームを用いてほとんどデタラメと言っていいほど超常現象を起こし続けるような作りだったのにも関わらず、あっちは違和感を最小限に抑えるよう演出による工夫が徹底しており、奇跡が起こってもしっかり納得させる力がありました。
 
しかし、こちらは細部がボロボロなクセに超常現象ばかり起こるので、ただ単にバカバカしいだけで付き合いきれません。
 
いくら何でもここまで脚本が酷いと一本の作品としてまともに成立するはずもなく、ただ単にユニコーンの完成度に依存するだけのダメ続編にしかなっていません。
 

ガンダム作品とは思えないほど薄っぺらいキャラクターたち

 
脚本の酷さに次ぐ本作の問題点は、キャラクターデザインの手抜きっぷりとそれと関連するキャラクターの薄さです。
 
特に、ユニコーンと続けて見た際、最もキャラデザの酷さが際立つのがビスト家のマーサでした。
 
マーサはビスト家の中でも最もキャラデザに力がこもった人物で、アナハイム・エレクトロニクス社を裏で操るビスト家の女帝という、ザビ家で言うとキシリア・ザビのような貫禄が備わり、悪役として突出したオーラがありました。
 
それなのに、今作ではいくらユニコーンの頃に比べ落ちぶれたとは言え、ただのモブキャラ以下の存在感で、パッと見同一人物に見えないほど劣化しておりこれがあのマーサ・ビストなのかと落胆しました。
 
それ以外のキャラもほぼ全員印象が薄く、主役のヨナも、ライバルのゾルタンも、こんなしょぼいキャラを中心にして話が成立するはずないだろうと思うほどペラペラで誰一人まともに記憶に残りません。
 
物語の鍵となるリタも、どう見てもララァ・スンを意識しているキャラなのに、とにかく見せ方が凡庸でまったく魅力がありません。このキャラは脚本ではなく、いかに映像で他のキャラとは別格の雰囲気を醸せるかが勝負なのに、単にヨナの憧れの女の子止まりでした。
 
逆に、アムロやシャアをニュータイプへと導いた、常人とはまるで異なる世界の捉え方をしているララァを表現し切ったファーストガンダムがどれだけ優れていたのかが分かります。
 
リタとリタの象徴でもある鳥の絡め方もヘタクソすぎて、こんなにゼータ色が濃い上に鳥や鳥かごという言葉が頻出すると、ララァよりもむしろカミーユの母親を思い出してしまいます。
 

ヒルダが小鳥になるんですね、分かります

小説版との比較

 
アニメ版を見た後にアニメの脚本を元に執筆されたという小説版を読みましたが、やはり小説版も中身がスカスカでまったく面白くはありません。
 
ただ、アニメ版では一部削られている心理描写や、リタが元々スペースノイドという説明があり、ここは小説版を読むと良い具合に情報が補完され多少の不満を解消してくれます。
 
まず序盤でヨナがルオ商会の雇った傭兵部隊と共にマーサを護送する連邦軍のMS部隊を急襲する際やたら動揺しているのは実戦が初めてということと、プラス自分も連邦軍のパイロットなのに味方を殺さなければならないという罪悪感に苛まれているためという描写がされています。
 
ここは小説版のほうがヨナがなぜ冷静さを欠いているのか分かりやすいです。
 
アニメ版ではヨナの乗るディジェがジェガンやアンクシャのコックピットへの直撃を避けるように攻撃するのに、味方が容赦なくコックピットを射貫きそれに不満を訴える描写に変えられています。
 
ここは小説版を読んだ後だと映像への置き換え方が巧みなのが分かり、ぐっと印象が良くなりました。
 
それに、アニメ版と小説版で最も印象が異なるのがミシェルです。
 
小説版では自らの体を利用してティターンズのスタッフを誘惑し研究所から脱走したという設定になっています。この件で自分の体が汚れ一生消えない心の傷を負ったのに、それをヨナもリタも大して気にも止めてくれず、それほどの代償を支払ったのに結局また施設へ連れ戻されたという絶望と怒りが、最終的にはヨナを裏切り、リタをティターンズに売り、自分だけルオ商会の養子になったというエピソードに繋がります。
 
これがオミットされているアニメ版はミシェルがなぜ突然ヨナとリタを裏切ってルオ商会の養子になったのか動機が曖昧なものになっており、そのせいで三人のドラマ部分にまったく深みも緊張感もなく退屈に感じる要因になっていると思います。
 
小説版を読んだからといってアニメ版の印象が向上するワケではありませんが、読むとアニメ版で引っかかっていた部分に説明があるので、損はありませんでした。
 

どこかで見たことあるような機体とシチュエーションだらけのMS戦

 
ユニコーンの頃から感じていたものの、このシリーズは過去作のガンダムの装備やシチュエーションを真似したものだらけで新鮮味がまったくありません。
 
それに、今作で特に酷いと感じたのはやはりネオ・ジオングをもう一度出すという安易さです。一応Ⅱ(セカンド)ネオ・ジオングと名前は変わり、ストーリー上この機体が重要という点は理解できるものの、ユニコーンから二回続けてまったく同じモビルアーマーをラスボスに据えるというのは単純すぎて呆れ果てました。
 
しかも、パイロットがフル・フロンタルというカリスマ的キャラから、ただのアンジェロもどきのようなゾルタンになったため、既視感のある機体に何の思想も持たないキャラが乗っているだけという、どう面白がればいいのか皆目分からないシチュエーションで、ただただ最終決戦は虚しく退屈でした。
 

最後に

 
一部メカの作画が見応えあるものの、気合いがまるで感じられないペラペラなキャラデザやキャラ造形に、ずさん過ぎてストーリーにまったく集中出来ない欠陥脚本と、問題だらけの作品で本作で好きな要素は特にありませんでした。
 
 

 

 

 
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