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【ホラー小説】貫禄不足の凡作 |『禁じられた遊び』| 清水カルマ | 感想 評価 レビュー 書評

作品情報
著者 清水カルマ
出版日 2019年6月14日
評価 65/100
オススメ度
ページ数 約318ページ

小説の概要

 
この作品は、幼い子供が交通事故でバラバラになって死亡した母親の指を庭に埋め呪文を唱え続けると日に日に土の中で得体の知れない生き物が成長していくというホラー小説です。
 
ディスカヴァー・トゥエンティワン主催の未発表作品を現役書店員が審査・投票する“本のさなぎ賞”で第4回(2018年)大賞を受賞した小説でもあります。
 
無垢な子供が母親が生き返ると信じて死体の一部に水やりをして呪文を唱え続けると徐々に周囲で不可思議な現象が起こり始めるという設定には一定の魅力があるものの、致命的なまでに力量不足なため、文章は素人レベルで、起こる展開には何ら説得力はなく、テーマやメッセージ性は薄く、そもそもホラー小説なのに怖さが微塵もないと長所より短所のほうが気になる惜しい出来でした。
 
2023年には『リング』の中田秀夫監督による映画化が決定しています。
 

映画化に当たって原作の欠点を徹底的に改良できれば良作に生まれ変わる可能性はあると思います

ホラーなのに恐怖は皆無

 
この小説は、一応ジャンルとしてはホラーですが中身はホラーというよりサスペンス寄りで読んでいて恐怖を覚えるような箇所はほぼありませんでした。
 

恐怖に震えたい場合は読んでも無駄です

 
それよりも遙かに致命的なのが、作者のデビュー作でもあるためか文章力がライトノベル以下で到底プロが書いた小説とは思えないほど稚拙ちせつなことです。
 
庭に埋めた死体の一部が徐々に何か得体の知れないものに成長していくというアイデア一点で強引に押し切ろうとするだけで登場人物は人間的な深みに欠けており、怪奇現象には何ら根拠がないため説得力が足りず、読者を怖がらせようとする場面はどれもこれも迫力不足でまったく怖くないと、この小説独自の優れた部分が特に見当たりません。
 
さらに加えると、交通事故で死亡した美雪という女性が生前は強力な超能力を持っていたという説明が圧倒的に足りず、しかも登場人物の内面の描き方が浅いせいで怨みを中心に進む話にねっとり絡みつくような不快感が出せていないなど、やはり実力不足のせいで突飛な設定が地に足着いておらず終始ふわふわとした軽い話にしか感じませんでした。
 
『リング』でお馴染みの日本のホラー映画業界の重鎮である中田秀夫監督によって映画化が決まっているという情報を事前に知っていたので最後まで読みましたが、これがなかったら絶対に冒頭の数ページで読むのをやめていたと思います。
 
ただ、『リング』も原作小説はホラーというより呪いのビデオを見てしまった者たちが呪いを解くため奔走するタイムリミットサスペンス色が強くほとんど怖くはありません。
 
しかし、映画版ではタイムリミットサスペンス要素を減らし、原作ではほぼ出番がない貞子を前面に押し出すことでホラーに振り切っているため原作とは別の名作に仕上がっています。
 

 
この『禁じられた遊び』も、『リング』における貞子的な役割を担う、土の中で成長していく不気味な存在“美雪”を映像で表現出来たら映画版はもっと怖く出来る余地は十分あると思います。
 

実は『禁じられた遊び』も特殊な力を持った母と子の話とか、井戸と庭の土の中といった特定の場所から怨念が洩れているという設定など『リング』と共通点が多いのが特徴です

最後に

 
唯一良かったのはサスペンス小説としては話が停滞しモタモタする箇所が一切無く読みやすいことくらいです。
 
ただ、ホラー小説としては奇抜な設定に頼るのみで一つ一つの描写にこだわりは感じられず読んでいて心底恐怖する箇所は一つもありませんでした。
 
 

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