PV
評価:85/100
放送期間 | 2019年4月~9月 |
話数 | 全26話 |
アニメ制作会社 | ufotable |
アニメの概要
この作品は、少年漫画『鬼滅の刃』を原作とするTVアニメ版1期です。
ufotable作品としては監督・スタッフともに『テイルズ オブ ゼスティリア ザ・クロス』と被っており、背景の美しさやエフェクト表現、ど派手なアクションにこだわる作風が共通しています。
ただ、全体的に脚本がイマイチで話し運びはぎこちなく間延び気味で、笑いのセンスもほぼゼロと『ゼスティリア』の短所まで受け継いでしまっているのが残念でした。
しかし、そんな不満を全て吹き飛ばす、まるでそれ自体が命を宿しているかのような、温かみがあるのにスタイリッシュな斬撃エフェクト表現があらゆるバトルアニメの中でも抜きんでた出来でこれだけでも必見です。
良くも悪くもテイルズ オブ ゼスティリア ザ・クロスそっくりな作風
本作は同じくufotable作品である『テイルズ オブ ゼスティリア ザ・クロス』と同じ外崎春雄監督が手掛けているということもあり、作風がゼスティリアに似ています。
さすがに分割2クールで全カット劇場アニメ級の常軌を逸した画面の密度だったゼスティリアに比べ、こちらは分割なしの通常の2クールなためパッと見の画面の情報量は大幅に劣ります(と言うか、ゼスティリアの豪華さがどうかしているだけ)。
それでも美術まわりのこだわりは通常の2クールアニメを凌駕するほどで、手を抜いている箇所は微塵もありません。
ただ、問題は画面の美しさよりもゼスティリアと同様の脚本の出来の悪さとリズム感ゼロな会話シーンです。
ゼスティリアはかなり暗めのトーンのため全体的に重々しく、そのせいで軽快なリズムやテンポが求められず、その部分の問題はさほど目立ちませんでした。
その点本作はどちらかというとコミカルな作風なので、おどけたやり取りや派手なキャラクター登場シーン、長向上 の場面など、ことごとくリズム感のなさが浮き彫りになる箇所が目立ち、作り手の得手不得手がより丸裸になっています。
特に酷いのは壊滅的なユーモアセンスの欠如で、全26話中ほぼ全ての笑わせようとするシーンがだだスベり状態で、これほど完膚無きまでにギャグシーンがスベり続けるアニメも珍しいのではないかと思うくらいの豪快なスベりっぷりでした。
ufotableという堅めな作風を得意とするアニメ製作会社で、監督もあまり笑いを得意としておらず、しかも原作漫画も『鋼の錬金術師』のようなギャグっぽいことを大声でわめくだけの工夫もない笑わせ方ばかりと、あらゆるマイナス要素がかけ算され、見るも無惨なほどのスベり具合に達しており、笑わせようと力 む全てのシーンが苦痛でした。
唯一コメディ作品に向いている『ソードアート・オンライン』のキリト役などでお馴染みの松岡禎丞さんが伊之助 役で出演しているため、なんとか中盤以降は松岡さんの板に付いたコミカルな演技の魅力で耐えられました。
本作は序盤はufotableらしい笑いがほとんどない堅めな作風で、中盤以降は逆にシリアスさがほぼ消え失せ笑いに席を譲るため、序盤とそれ以降でほとんど別作品と化します。
そのため序盤の大正伝奇もののような妖しい空気が好きだと、中盤以降のあっけらかんとして、しかも笑いのセンスが皆無という展開は好みがパックリ別れ、別のアニメを見ているような奇妙な感覚に陥りました。
アニメ版の『るろうに剣心』で言うと序盤はOVA版のような硬派さで、中盤以降はTVシリーズのコミカルなシーンを寄せ集めたような感じです
見ている最中、この作品に限らずどうして少年マンガってここまで笑いのレベルが下がってしまったのかと真剣に悩みました。
同じく少年マンガの『ドラゴンボール』だって堅物のピッコロが界王様に修行をつけて貰う際にダジャレで笑わせてみろと予想外の要求をされ驚くとか、ギニュー特戦隊の変なポーズを見せられてフリーザがリアクションに困っている様 で笑わせるとか、きちんと笑いにひねりがあるのに本作にはそれがほぼ存在しません(冨岡義勇がしのぶにみんなから嫌われていると指摘されまったく意に介さないなど、笑いとしてきちんと成立している箇所もいくつかはあります)。
ギニュー特戦隊の変なポーズ自体が面白いわけではなく、あの凶悪なフリーザが滑稽なポーズを見せられて困っているというシチュエーションが面白いのに、最近の少年マンガはギニュー特戦隊のポーズそのもので強引に笑わせようとするような浅はかさで、もうひとひねり加えないとそもそもギャグとして成立すらしていません。
いい加減アクションやエフェクトのように、笑いにも専門の担当を置いたほうがいいのではないかと危機感を覚えるほどの酷さでした。
この作品がなぜこれほど売れているのかさっぱり分かりません
アニメ史に残るほどの見事なエフェクト仕事
ストーリーは序盤の大正を舞台とした伝奇要素が強いパートは面白かったのに中盤以降はイマイチ乗れませんでした。
しかし、アクションシーンの迫力は全話ほぼ安定しており、コチラに不満はありません(特に19話の凄まじさは鳥肌ものでした)。
優れたアクションシーンの中で最も感動するのは、激しいアクション作画を支える・・・どころか、むしろ主役と言いたくなるほど、模様、動き、色とほとんど少年マンガ原作のバトルアニメでは完璧ではないかと思うほどセンスが飛び抜けた斬撃エフェクトです。
主人公である炭治郎が水の呼吸法を使いエフェクトが画面内を駆けた瞬間、線一本一本からもたらされる快感で一気にこのアニメの虜になりました。
このエフェクトはまるで線そのものに命が宿ったかのような錯覚を起こすほどで、何度見てもまったく飽きません。
アニメ表現の一つの到達点のようなエフェクトは、浮世絵はじめ日本の伝統的な技法とCGが互いの長所を伸ばし合う理想的なスタイルで、ufotableはついにとんでもない高みに達したなと心底驚かされます。
呼吸法を使う際のエフェクト以外にも、嗅覚が優れる炭治郎が未知の匂いを嗅いだ瞬間突然画面に花模様が浮かび上がると同時にスキャットと音楽が鳴り響き、匂いという感覚を映像と声と音でたぐり寄せようとする驚異的な演出があるなど、『魔法少女まどか☆マギカ』で初めてコラージュによる異世界表現を見た際と似たような衝撃を覚えました。
この数々の斬新な映像表現はあらゆる欠点を吹き飛ばすほど優れており、ゼスティリアの単に映像が凄いとか、画面がキレイという情報量で圧倒しようとする姿勢より、線が動く快感に酔わせるという純アニメ的な手法を用いる本作のほうが断然好ましく感じます。
最後に
全体的に話は間延び気味で、コミカルなシーンは残酷なまでにだだスベりのグズグズで見るも無惨でした。
しかし、大正時代の描き方は丁寧で手抜きは一切無く、何よりも激しいアクション作画と、それを支える芸術的なまでのエフェクトの美しさは深く心に刻まれます。
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