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日本史をストーリー化してしまった脅威の歴史教科書 「一度読んだら絶対に忘れない 日本史の教科書」 著者:山崎圭一(ムンディ先生) 〈書評・レビュー・感想〉

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本の情報
著者 山崎圭一(ムンディ先生)
出版日 2019年9月17日

短評

 
 歴史上の人物(政権担当者)を中心に、前後の流れを途切れさせず全ての出来事を繋げることで日本史を一つのストーリーとして捉えるという斬新なアプローチの歴史教科書。
 
 年代や年号、歴史用語を丸暗記するのではなく、誰がどんな政策を行い、結果それ以前と以後で世の中がどのように変化したのかという原因と結果の説明を丁寧に行っているため、日本史が苦手な人間でも難なく理解することが可能な親切な作り。
 
 ただ、あまりにも権力の中枢の話にのみ焦点を絞り過ぎた弊害で、庶民の文化や暮らしがないがしろにされ、しかもいくさがない比較的平和な時代や、特徴が乏しい政治家の時代はやや退屈という問題も生じている。
 
 多少の欠点はあるが、全体としては恐ろしいほど完成度が高い一冊で、日本史を知識ではなく教養として学ぶ入門書としては最良と言ってもいいほど。
 

日本史を暗記科目ではなく壮大なストーリーとして学習する斬新な歴史教科書

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 この本は、YouTubeに歴史の授業動画をアップしている現役の高校教師であるムンディ先生こと山崎圭一さんが書いた日本史の教科書です。
 
 数ある日本史の教科書の中でもこの本が異例なのは、歴史をストーリー化し、用語を暗記するのではなく歴史を流れで体感させるというアプローチの徹底ぶりです。
 
 自分的に、歴史と言えば、794なくよウグイス平安京や、1192いいくに作ろう鎌倉幕府といった、年代と用語はなんとなく暗記しているのに肝心の用語の理解そのものは曖昧というケースがほとんどです。そのため、それが何なのか、どのような経緯でその出来事が起こったのか詳しく説明しろと言われると返答に困ります。
 

墾田永年私財法や荘園ってそもそも歴史的にどう重要なこと?って聞かれると困るような感じですね。ちなみに、本を読むとこの二つは貧富の差を生む原因となったことが自然と理解できます

 
 この本は、年代や年号が一切登場せず、読んでいて今西暦何年の出来事なのか、江戸時代であれば文政なのか天保なのかという年号の情報が意図的に伏せられています。
 
 この年代が記載されていない点は、最初は政権がどれくらい長く続いたのかや、政策が何年、何十年単位の規模なのか把握し辛いという部分が引っかかります。
 
 しかし、読んでいると年代の暗記のみに労力を割くよりも日本史を俯瞰して語ることで前後の歴史的事件の関連や繋がりを深く理解させることを優先していることが分かり、さほど気にならなくなりました。
 
 それに、なまじ年代があると年代と用語をセットで覚えそれで満足し意味を置き去りにしがちなので、あえて年代を記載せず歴史用語は意味とセットでないと覚えられないようにする意図もあると思います。
 
 このため、どちらかというとすでに日本史を一通り学習し、なんとなく年代や用語が頭に入っている人が、その情報を整理する用途に使うのが最も適していると思います。
 

流れで捉えるから明確に見える失敗のメカニズム

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 この本の主旨である人物(政策担当者)を中心に据えて歴史をストーリーとして流れで捉えるという方法が最も効果的だと感じるのは、歴史上の失策の原因が明解なことです。
 
 失敗の根っこにあたる部分までさかのぼり丁寧に解説してくれるおかげで、途中から失敗に至るパターンが傾向として分かり、失策とはこのように起こるのだという事例集として大変優れていると思います。
 

古い慣習にしがみつき新しい流れに反発する者、人の話に耳を傾けない視野が狭い者、既得権益を少数の勢力で独占しようとする者、大体この三パターンが失敗の定番ですね

 
 経済が落ち込むとストレスのはけ口として内外に敵を作り、それを攻撃することで不満を解消しようとする流れがどの時代でも完璧に当てはまる点も恐ろしさすら感じ、歴史とは愚かな失敗の繰り返しであることが容易に読み取れます。
 
 年代や年号、用語を暗記するという無意味なことより、歴史を学ぶ最大の意義である、過去の失敗を知ることで同じ過ちを繰り返さないように努めるという点において、この本は一本筋が通っているなと思います。
 

人物や用語で索引が出来ない重大な欠陥

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 この本の最大の欠陥は、普通この手の本にほぼ標準で付いている巻末の索引リストがないことです。
 
 本の頭にあるもくじのほうに申し訳程度に人物の名前は記載されているものの、巻末に索引リストがないため、人物や歴史的な用語について書かれているページに直に飛ぶことが出来ません。
 
 多分、歴史を点ではなくストーリーで理解させるというコンセプト上、ある部分だけ読むのではなく常に前後の流れを踏まえて欲しいという意図があるのだと思います。
 
 見やすいように各時代ごとにページが色分けされているので、漠然とどの時代なのか分かればそこを順繰りに調べれば簡単に見つけられるものの、さすがに巻末の索引リストくらいは充実させて欲しかったです。
 

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 このせいで、ちょっとした調べものがある際にこの本を使おうとは思えません。
 

この本に限っては電子書籍版のほうが検索機能が使える分便利かもしれませんね

最後に

 
 日本史に対して苦手意識を持つ人がつまずきそうな部分をカバーするような配慮が随所に見られるため、日本史を学び直したいと思っているのであれば最適と言えるほどの出来でした。
 
 ただ、歴史を俯瞰して流れを理解させることに特化しているため、個々の解説は薄く、この一冊だけ読んで日本史が全て分かるということはあり得ません。
 
 それでも、知識が教養に変わるという謳い文句を付ける理由が分かるほど、ストーリーとして歴史を眺めると過去の歴史に潜む普遍性が見える瞬間があり、心底読んで良かったと思える一冊でした。