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知らぬ間に始まり、一方的に終わるぶっきらぼうな殺人事件 「黒祠(こくし)の島」 著者:小野不由美 〈レビュー・感想〉

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評価:65/100
作品情報
著者 小野不由美
発売日 2001年2月

 短評

 
 邪教が信仰されよそ者を忌み嫌う孤島というシチュエーションや、特異な環境に根ざした犯人の動機、島独特の因習を利用したトリックなどアイデア自体は悪くないのに、個々の要素がまったく噛み合っておらず、最後の最後まで話がまるで盛り上がらない。
 
 それどころか、数百ページに渡り無個性な島民との会話を延々と読まされ続けるだけの展開が続き苦痛すら伴う。
 
 全体的にミステリーを書き慣れていない人が書いたような、何を面白がらせたいのか焦点を絞れていない小説になってしまっており満足度は低い。
 

モブキャラがモブキャラの人生を語り続けるだけの珍ミステリー

 
 この小説は、作家やライターの調査・取材を代行する仕事を営む主人公が、知り合いの作家が故郷に戻ると告げたまま行方不明となった件を案じ、邪教が信仰される夜叉島やしゃじまという孤島に単身乗り込み、消えた作家の痕跡を追うというサスペンスミステリーです。
 
 パッと見設定を見ると、ラヴクラフトのホラー小説や、ゲームの『ひぐらしのなく頃に』のような薄気味悪い村や集落が舞台で、その場所がひた隠しにする秘密が徐々に明らかになっていくというホラー風味の話なのかと思っていたら普通のミステリーで拍子抜けしました。
 
 邪教信仰が現存する島という設定なので知り合いの作家を捜索している過程で主人公が何かしらの妨害工作などを受け危機的状況に陥るのかと思いきや何も起きず、若干話が設定負けしています。
 
 小説内でやることと言えば、延々と島の人間に聞き込みをしていくのみ。小説の8割くらいは島民との会話シーンで埋め尽くされ、しかも会話自体に工夫はなく面白味もありません。
 
 島民Aに話を聞いたら次は島民B、その次は島民C、またその次は島民Aに戻り先ほどは主人公を警戒し隠していた情報を喋りと、それが冗談抜きで何百ページも続きます。話を聞く島民それぞれにキャラクター性が薄い上に、本編には登場しない話の中だけで語られる島民も誰が誰だか区別が付かないと、読みやすさとは無縁の散々な内容でした。
 
 個性がまるでないのっぺらぼうのような島民が、どこの誰だか知れない島民の家族構成や来歴を説明し続けるのを読んでいると段々頭痛がしてくるほどです。
 
 主人公が危機的状況に陥る展開が皆無で緊張感はなく、実はこの情報を隠していましたとか、後で事件当日の出来事を思い出しましたとか、会話はとにかくまわりくどく、ミステリーとしては動機やトリックの絡め方がぎこちなくて、読み終わっても何か事件が解決したという爽快感はゼロです。
 
 島の中をあちこち歩き回り邪教信仰に由来する特異な建造物を発見するとか宗教的な儀礼を目撃するといったこともなく、ほとんど主人公が泊まる宿や、協力的な人の自宅など、なんの変哲もない室内だけで物語が進むので、これだとわざわざ特殊な孤島を舞台にした意味があまり感じられません。
 
 探偵役の主人公も頼りがいがなく、日本中あちこち取材して回って頭がキレるという設定のわりに、ただの無個性な島民の仮説に「そうか!」とか「なるほど!」といちいち驚くので、読んでいて今どっちが推理を披露しているのか見失う瞬間が多々ありました。
 
 長々と事件について自説を披露するシーンが続くのでてっきり主人公が喋っているのだと思ったら会話相手のものだと分かり混乱するなど、途中から誰が話しているのかも見失い、〇〇が言ったとか、〇〇が相槌を打ったという会話終わりの一文でどちらのセリフなのか判断しなければならず、会話時に登場人物が浮かべているであろう表情や感情がまったく読み取れません。
 
 主人公が探している知り合いの作家についても読者には断片的な情報しか与えられないため島を捜索している最中に「この島の雰囲気は彼女らしくない」とかぽつりと言われても「その人のこと何も知らないし……」という感想しか浮かんでこず、終始知り合いの捜索という目的に興味が持てず退屈でした。ろくに登場もしない島民の話はとんでもなく長いのに、肝心の救出対象の作家のことは読者の想像に委ねられるのみで、しかも作家の半生を辿りながらその人への印象が変化していく話なのかと思いきや、わりとそこは事件のトリック用の設定であまり人間ドラマ的な意味合いは浅くガッカリします。
 
 邪教の由来や孤島のディテール自体はかなり作り込んでいるので、多分同じ内容でももっと語り方がうまい人なら数倍面白く出来ると思います。まわりくどい説明文体や、スピード感もリズム感も皆無なノロノロしたテンポなど、小野不由美さんという作家の悪い癖が全開で褒める部分がほとんどありません。
 

最後に

 
 長々とした説明だらけの会話シーンは作品に厚みを出す役割を果たせておらず、個性も何もないキャラクターは全員魅力がゼロ以下で、邪教が信仰される孤島という設定は見かけ倒しで魅力もなく、因習の犠牲になった者たちの怨嗟という部分にホラー的な悲哀があまりなくと、全体的に淡々としているだけで味気ない作品でした。