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【ホラー小説】怪異と同居が確定な物件 |『わざと忌み家を建てて棲む -幽霊屋敷シリーズ#2-』| 三津田信三

作品情報
著者 三津田信三
出版日 2017年7月19日
評価 75/100
オススメ度
ページ数 約371ページ

小説の概要

 
この作品は、烏合邸うごうていという、不可解な事件や猟奇殺人などが起こった家屋を解体し一箇所に集めた異常物件での怪奇現象が語られるホラーミステリー小説です。
 
前作にあたる『どこの家にも怖いものはいる』という作品とストーリーは繋がっていませんが主要登場人物や語りのアプローチがほぼ同じなため先に同作を読んでいたほうがスムーズに入っていけます。
 

 
いわくのある怪奇物件を強引に一つ所に集めそこに実験として様々な人を住まわせたり調査をさせたりし、残された調査記録のみを読んでいくというアイデアは前作の『どこの家にも怖いものはいる』よりも格段に勝っていました。
 
しかし、実際に読むと単純な怖さでは前作のほうが勝りラストも烏合邸に対する謎解きのようなものがなく全てが謎のまま曖昧に終わってしまうなど魅力的なアイデアの割に物足りなさが残る内容でした。
 

家そのものが人工怪異というぶっ飛んだアイデア

 
この小説は、様々な曰くのある建物を強引に一箇所に集めた烏合邸という集合住宅の中でも“黒い部屋”、“白い屋敷”、“赤い医院”、“青い邸宅”と名前の付いた四つの建物で起こった怪奇現象の記録が語られるという内容です。
 
前作にあたる『どこの家にも怖いものはいる』は、それぞれ異なる時代の接点がまるでない人物たちが怪異と遭遇したエピソードを日記やネットの書き込みなど複数のメディアに書き残しており、それらの怪奇現象の背景が徐々に繋がっていくというアプローチでした。
 
しかし、こちらは最初から謎の実験目的に建てられた烏合邸に招かれた者たちが体験したレポートという形です。そのため人物が次から次に変わっていく連作短篇のようなスタイルは同様なのにそこから受ける印象は似て非なるものでした。
 
三津田信三作品の中でも極めて珍しい、とある人物が人為的に怪異が出現する建物を作り出しその中に実験対象となる人物を放り込み怪異によってどのような変化が起こるのか観察しているというかなり人工的な舞台設定で、いつものような無関係な人間が運悪く怪異と遭遇してしまうという展開と異なり新鮮です。
 
かつて禍々しい事件が起こった建物を寄せ集めた烏合邸という怪建築物は、それ自体が単体で怪異として通用するほど濃い存在感がありアイデア自体は前作の『どこの家にも怖いものはいる』よりも遙かに好きです。
 
しかも、登場人物たちはそれぞれ自分の意志で危険な烏合邸に足を踏み入れ建物内で起こる様々な怪奇現象をレポートしなければならないという契約を交わしており、それが怪奇現象を長々と記録に残している説明と本当は逃げたいのに契約条件によって逃げることを躊躇するという縛りになっており一石二鳥でした。
 
ただ、本作の問題はアイデアは優れているのに読んでいて大して怖くもなくラストの謎解きも期待外れなことです。
 

アイデア ◎ 怖さ △ 謎解き ×

 
一番最初に“黒い部屋”のエピソードを読んでいて不安に思ったのは全然怖くないことでした。親子の日常が怪異によって壊されていくという『どこの家にも怖いものはいる』の最初のエピソードと似たような設定ながら、遙かに気味の悪さが劣っており怖いのについついページをめくる手が止まらなくなるホラー特有の中毒性がありません。
 
次いで“白い屋敷”のエピソードも怖いは怖いものの『どこの家にも怖いものはいる』の各話の平均的な恐怖に比べると微々たるものでした。
 
その後、日記スタイルが終わりテープの文字起こしとなる“赤い医院”、や、学者が機材を持ち込んで心霊現象を調査する“青い邸宅”と怖さと同時に楽しさも減っていき今回はホラーより烏合邸の謎が解き明かされるミステリーが主なのかと期待していたらラストの謎解きも中途半端と、ほとんどの出来事が謎のまま終わるため読後感は『どこの家にも怖いものはいる』にも劣るものでした。
 
通常の三津田信三作品と異なり怪異が登場するのは最初から確定しているようなホラーとしてはハードルが高めの設定なのにも関わらず、それを飛び越えるほどの意外性がありません。
 
さらに、ミステリーとしても烏合邸に対する景色が一変するほどの推理が披露されるわけでもなく設定の奇抜さに対してこんなものなのかという物足りなさを感じます。
 
特に、ラストの謎解きが中途半端なことが残念で、結局、黒・白・赤・青という建物についた色の意味は何だったんだという疑問はじめ、あらゆるものを放りっぱなしのまま終わるようでモヤモヤが残ります。
 
その癖、烏合邸の記録に触れた著者はじめ周りの者たちに現実でも怪異の危険が迫ってくるといった茶番みたいなパートが長く、ここに力を入れるなら烏合邸の謎を解明してくれとしか思いませんでした。
 

おわりに

 
ワケあり物件を寄せ集め最凶の怪奇物件を作り、人為的に怪奇現象を生み出す実験をするというアイデアは非常に優れており序盤はアイデアの魅力だけで楽しく読めます。
 
しかし、ホラー小説としてもミステリー小説としても中身が薄く、烏合邸のアイデアに力負けしており読後感はイマイチでした。
 

徹底的に謎解きをしてそれでも最後にどうやっても解けない一抹の謎だけ残ってしまうくらいがベストでした

幽霊屋敷シリーズ

タイトル
出版年
どこの家にも怖いものはいる #1 2014年
そこに無い家に呼ばれる #3 2020年
 

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