発光本棚

書評ブログ

発光本棚

【スーファミ】神秘の古代遺跡を巡る旅 |『ガイア幻想紀』| レビュー 感想 評価

プレイ動画

評価:70/100
作品情報
ジャンル アクション
発売日(日本国内) 1993年11月27日
開発(デベロッパー) クインテット

ゲームの概要

 
このゲームは、現実に存在する古代の遺跡や歴史的建造物(と、古代文明)をモチーフにしたスーパーファミコンのアクションアドベンチャーゲームです。
 
シナリオの完成度によって世界的に高い評価を受けるクインテットというゲーム会社が開発しており、中でも『ソウルブレイダー』、『ガイア幻想紀』、『天地創造』はクインテット三部作と言われています。
 
マチュ・ピチュ、ナスカの地上絵、ムー大陸、万里の長城やアンコール・ワット、ピラミッド、バベルの塔など、数々の遺跡や歴史的建造物を巡り、地球に接近する禍々まがまがしい彗星の謎を解き明かすというストーリーです。
 
少年少女が世界を旅する過程で自分と似た年齢の子供が奴隷として働かされている光景を目の当たりにしたり、食人族の村で食料にされそうになったりと、文明の光と闇を目撃することで逞しく成長していくというジュブナイルものとして作られており、メッセージ性の濃さが最大の特徴となっています。
 
古代の遺跡を巡りながら人間の愚かさや文明の光と影に想いを馳せるというゲームのコンセプトは素晴らしいものの、ダンジョンはゼルダフォロワーの可もなく不可もなくな出来で、ストーリーテリングもぎこちないなど、ゲーム全体がうまく噛み合わずギクシャクしており、突き抜けた魅力が無いのが残念でした。
 
ちなみに、キャラクターデザインが『ポーの一族』や『トーマの心臓』、マンガ版の『百億の昼と千億の夜』など数々の名作を生み出した天才漫画家の萩尾望都さんですが、パッケージや説明書以外には一切イラストが登場せず全てドット絵なので正直言われても萩尾望都デザインと分かりません。
 

 

『クロノトリガー』はメニュー画面で鳥山明っぽい絵が出るので誰が描いたか分かりますが、コチラはゲーム内において判別する手段がありません。1枚くらい元の漫画家が描いたデザインが分かる絵を入れろよと思います

世界遺産を探索できる喜び

 
このゲームの大きな売りの一つが、マチュ・ピチュやピラミッドなど実際に存在する古代の遺跡がそのままダンジョンとなっていることです。
 
ただ、謎の彗星の影響で現実の地球とは異なる歪な姿となったもう一つの地球という設定なため、現実の歴史とは完全に切り離されています。
 
そのため、本来ならあるはずの壮大な歴史背景がごっそり抜け落ちており、単に見た目がマチュ・ピチュっぽいとかピラミッドっぽいという程度の繋がりで、歴史(や伝奇要素)を求めるとどうしても物足りません。
 
むしろ伝奇的な歴史を絡めた面白さでいうとPS2の『シャドウハーツ』シリーズのほうがより堪能できます。
 

『シャドウハーツ フロム・ザ・ニューワールド』でマチュ・ピチュがダンジョンとして登場した際に『ガイア幻想紀』っぽいと感動したのを覚えています

 
現実の遺跡をダンジョンとして登場させるならその遺跡に秘められた歴史への配慮もないとその魅力を最大限引き出すことは不可能だと思います。
 
それでも、ピラミッドやバベルの塔など、古代の遺跡や伝説上の建造物の名前を冠したダンジョンというだけで通常のゲームとは異なるこの作品独自の雰囲気を醸し出しており、『ガイア幻想紀』というタイトルの名に恥じない神秘さが味わえました。
 

ダンジョンはオーソドックスなアクション+謎解き

 
このゲームを一言でいうと『ゼルダの伝説』のフォロワータイトルといったところです。
 

『ダークソウル』に対する『仁王』や『ザ・サージ』、『モンスターハンター』に対する『ゴッドイーター』といったところです

 
そのため、ゲーム性は超オーソドックスな謎解きをベースとしたアクションアドベンチャーで、ダンジョン内のパズルを解きながら最深部にいるボスを倒すというお決まりの内容を繰り返します。
 
それに加え、一定エリア内の敵を全滅させるとHPや攻撃力・守備力が上昇するというボーナスがあり、アクションRPGとして見ることもできます。
 

ただ、普通にゲームを進めていくとほぼ全てのエリアの敵を全滅させることになるため、最終的にHPも攻撃力も守備力もほぼ同じ数値にしかなりません

 
ゲームの基本は、主人公テムが“(闇の戦士)フリーダン”や“(究極の戦士)シャドウ”という別の形態に変身し、それぞれの形態でしか使えない特殊な能力を駆使してパズルを解いていくというオーソドックスなものです。
 

 
テム(元の状態)だと通常攻撃では破壊できない障害物や隠し通路となっている壁を破壊できたり、狭い通路をスライディングで滑り抜けたりといったことが可能。フリーダンに変身すると離れた場所に配置された敵を遠距離攻撃で倒したり遠くのスイッチを押せたりなど、それぞれの形態を切り替えながら謎解きしていくのが基本スタイルとなっています。
 
このダンジョンの戦闘やアクションベースの謎解き要素は可もなく不可もなくといった完成度で、プレイしていて退屈に感じることもなければ極端に優れていると思うこともありませんでした。
 
ただ、プレイヤーに対する変なイジワルのようなものがなく、むしろ説明過剰にならない程度に親切さが徹底されており、プレイしていて不快な気分になることは一切ありません。
 
特に、変身できる場所をセーブポイントに限定しているおかげでダンジョンのある地点にセーブポイントがあればここで変身しろというヒントになっており、これが押しつけがましくない程度にプレイヤーを正解へと導く役割を果たしています。
 

 
あえてダンジョン内の不満を言うと、マップに敵の場所やアイテムの位置、セーブポイントが表示されるのに、なぜかルートだけ表示されないことです。
 

 
これのせいで最深部のボスを倒した後に入り口まで自力で戻る際、高確率で迷子になります。2箇所ほどのダンジョンで入り口への帰り道が分からなくなり数十分ダンジョンを彷徨う羽目になりました。
 
このゲームはエリアの敵を全滅させるとHPや攻撃力・守備力が上昇するという成長要素があり、そのせいで敵の倒し忘れがないかチェックさせる意図があるのか最深部のボスを倒してもそこから入り口まで自力で移動しなければなりません。
 
この入り口まで戻る際にマップにルートが表示されないため、長丁場のダンジョンだと行きと帰りで二回迷路を歩くような感覚に陥り、苦労しました。
 

各要素がチグハグ

 
このゲームの優れた部分は、実在する遺跡がダンジョンというロマン溢れる設定や、数百年に一度地球に接近し地球の生物を変異させる謎の彗星の正体に迫るサスペンスフルなストーリー、そして何よりも少年少女が旅を通して自分たちと同年代なのに過酷な環境に置かれる奴隷たちや、人間を食料にする食人族といった残酷な現実に出会いながら逞しく成長していくジュブナイル要素ですが、問題はこれらの要素がチグハグでうまく噛み合っておらず、バラバラな印象しか受けないことです。
 
謎の彗星に関連するのは主人公とヒロインだけで、他の仲間たちはほぼこの問題に興味を持たず、そもそも次々と明らかになる情報を仲間同士で共有している感じがせず、一緒に旅をしているのに心はバラバラにしか見えません。
 
なぜこうなったのかというと、多分RPG的なストーリーテリングをアクションゲームでやってしまったためだと思います。
 
RPGならパーティの仲間たちと全ての思い出を共有しながら旅をすることが可能ですが、このゲームはアクションなので基本は主人公一人がダンジョンで戦い謎解きするという単独行動が主で、他の仲間はただの旅の同行人に過ぎず、辛苦を共にした戦友という感情が一切湧きません。
 
アクションゲームならストーリーもアクションに乗せて語らなければならないのに、アクションはアクションパートだけで終わり、物語は物語パートでそれぞれ独立しており相乗効果がまったく生まれておらず、ゲーム的な盛り上がりが不足しています。
 
ダンジョンも実在の遺跡をモチーフにしていると言っても、ピラミッドだからミイラのモンスターを出すとか、クレオパトラ風のボスを出すとか表面的な目配せが主で、実はピラミッドという建造物は謎の彗星とこう絡んだいましたというピラミッドそのものへの印象が劇的に変わるといった工夫もなく奥深さが微塵もありません。
 
結果、古代の遺跡は彗星とさほど絡まずただ遺跡なだけで、謎の彗星は最後までほぼ謎のままで主人公とヒロイン以外の人物にはまるで関係がなく、少年少女は遺跡も彗星も一切関係ないところで勝手に成長して勝手に巣立っていくといった、それぞれの要素は魅力的なのにうまくまとめられなかったという惜しさが気になりました。
 

おわりに

 
クリアまで約10時間ほど。全体のボリュームは控え目ですが、プレイしていて退屈な瞬間がほぼ無いほど密度が十分濃く、各遺跡も1時間か長くても1時間半ほどであっさり終わるなど、無駄な水増しがなく最後までダレることがありませんでした。
 
自分は壮大なスケールやカタルシスが大好きなので、古代の遺跡を巡る旅や、地球上の生物を変異させる彗星の謎を追う展開と、各要素には強く惹かれるものがありますが、いちアクションゲームとしては可もなく不可もないゼルダフォロワータイトルといった程度で、クインテットのゲームの中ではそこまで刺さるほどの内容ではありませんでした。
 
クインテットのゲームは、人類が築きあげた文明の危うさや、人間という種のおぞましさを、俯瞰した視点で見せたり、自分と異なる境遇に置かれた人物の眼や、植物・動物といった他の生き物の視点を借りて客観視させたりなど、どちらかというとシミュレーションゲームのような引いた視点(神様視点)を巧みに使いこなすことに秀でており、ジュブナイルのような細かいエピソードをひたすら積み上げていくRPG向きのストーリーテリングとは単純に相性が良くないのだと思います。
 
一本のアクションゲームとしては欠点が目立ちますが、タイムカプセルのように子供の頃にプレイした時は思い至らなかった、このゲームを作った人たちは物語を通して子供に何を伝えようとしていたのか理解できるようになると途端に作り手の高い志が読み解けるようになり、クインテットは偉大であったと再確認できます。
 
 

TOP