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【小説】多重人格少女の秘密 『十三番目の人格(ペルソナ) ISOLA』 著者:貴志祐介 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:80/100

作品情報
著者 貴志祐介
発売日 1996年4月18日

小説の概要

 
 この小説は、エンパスという相手の感情を読むことが出来る特殊な能力を持った主人公が、多重人格の少女の中に潜む他の人格とは何一つ接点のないISOLAと呼ばれる凶暴な人格の謎を追うというホラーサスペンスです。それに、作者の長編デビュー作でもあります。
 
 まだまだ新人作家の気負いや緊張がそのまま反映されたようなガチガチに硬い文章なため、お世辞にも小説として読みやすくはありません。
 
 それでも、阪神・淡路大震災の被災者という立場でもある作者の実体験を踏まえ、被災者に対する心のケアというテーマで書かれた本作には一見の価値があります。

 

貴志祐介作品の基本が詰まったデビュー作

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 この小説は作者の長編デビュー作なため、一本の小説としてはまだ発展途上感が否めません。
 
 貴志祐介作品ではお馴染みの、オカルトに近いような設定に説得力を持たせる情報の物量攻めテクニックもまだ使い慣れておらず、説明不足なままうやむやになる箇所が多く見受けられます。
 
 それでも、自身の被災経験をベースにしつつ、被災者の心労に優しく寄り添い、心のケアを行う大切さを訴えるという真摯なテーマ性には好感が持てました。
 
 多重人格の少女が登場するホラー小説なのにも関わらず、そのような精神に問題を抱えるような人に対して偏見を持たせないどころか、むしろどのような環境や心ない言動が人間の精神に悪い影響を与えるのかを啓蒙するような解説がされ、貴志祐介作品らしい誠実さに溢れています。
 
 小説を読む前と後で、登場人物同様に読者が成長し世界の見え方が変わるようにメッセージやテーマを入れ込むような姿勢はデビュー作から一貫しているのが分かり信頼が持てます。
 

多重人格の少女というありがちな設定から一ひねり加える衝撃の展開

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 本作の、多重人格の少女と交流を重ねるうちに他の人格に紛れ何か異質なものが混入していることを発見するというアイデアは非常にぶっ飛んでおり驚かされました。
 
 ただ、よくこんな突拍子もない設定を思いついたなと驚愕する反面、アイデアの奇抜さだけを頼りに最後まで強引に押し通そうとするため終盤はやや説得力がスタミナ切れになり、どうしても尻すぼみな印象を受けます。
 
 ミステリーとしては主人公がISOLAの正体に気付く瞬間の描写や推理のロジックがあっさりしすぎであまり盛り上がらず。さらに、相手が嘘をついても全て見破れるという主人公のエンパス能力が反則的で、地道な努力で真相に辿り着いたという達成感はほぼ皆無でした。
 
 しかも、ホラー小説としては本来正体が不明のISOLAの真相に近づいていく過程に気味の悪さがなくてはならないのに、その過程には特に恐怖がありません。終盤にISOLAの正体が完全に判明してからようやく本腰を入れて怖がらせようとするため遅きに失しています
 
 それと、肝心のISOLAによって犠牲となる者たちはほぼ主人公と無関係な人間だけで何のショックもなく、さらにISOLAの殺意が直接主人公に向くわけでもないため、大して緊迫感がありません。
 
 しかし、リーダビリティ(読みやすさ)を非常に重視する貴志祐介さんらしく、デビュー作からすでに読みやすさはかなりの域に達し、無駄を極力省くスピーディさでスラスラ読ませる工夫は余念がなく、読んでいて退屈するということはありませんでした。
 

最後に

 
 ラストがホラー小説としてスッキリ終わらせたくなかったのか、もしくは続編を狙っていたのか惨劇の予感を匂わせて終わるという幕引きが被災者への心のケアを描くというテーマ性とあまり馴染んでおらず正直蛇足でした。
 
 それでも長編デビュー作としては及第点な面白さで、他の貴志祐介作品同様ほとんど一気読みしてしまいました。
 

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