著者 | 雨穴 |
出版日 | 2021年7月20日 |
評価 | 90/100 |
オススメ度 | ☆☆ |
ページ数 | 約248ページ |
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小説の概要
この作品は、一見普通に見えてどこかがおかしい間取りの家を調べていくと、間取りに隠された驚愕の真実が浮かび上がってくるというサスペンスミステリー(若干のホラー風味もある)小説です。
フェイク・ドキュメンタリー(モキュメンタリー)のような架空の出来事(フィクション)を実際に起こった事件風に装った作風で、似たタイプの小説だと『残穢 』が近いです。
ページ数が少なく、しかも中身は家の間取り図だらけで文字数も少ないため、数時間で読み終える程度のボリュームとなっています。
何の変哲もないある一軒家の間取りから物語が浮かび上がってくるというアイデアが見事に決まっており、読み始めると止まらない圧巻の中毒性でした。
ただ、間取りを読み解くことで家を設計した人間の奇妙な思惑が浮かび上がってくるという中盤までは良く出来ているのに、それ以降話の規模が大きくなり出すと若干説明不足で説得力がなくなるのが唯一残念でした。
家の間取りに事件を仕込む
この小説最大の魅力は、家に隠された謎を家の間取り図として提示し、それを読者側に読み取らせるというアイデアです。
冒頭の、購入を検討している家の間取りに構造上まったく意味もない奇妙な空間があり、このほんの少しの奇妙な空間から徐々に家の異常さが浮かび上がってくるという導入部も秀逸で、この時点で一気に物語に引きずり込まれました。
最初は普通の間取りに見えた家が、間取り図を丁寧に読み解くことで設計者の隠された意図が暴かれ、最初に見た際と意図に気付いた後では同じ間取り図がまるで違って見えるという落差を丁寧に演出できており、読んでいて心地良く謎に没頭できます。
さらにこの小説が地味に優れているのはアイデアの出し惜しみがないことです。次から次に読者が気になる謎(間取り)を提示し続けてくれ、しかもそれら別の家の間取りにも共通点があることから事件が徐々に繋がって規模が拡大していくスリルも味わえ、先が気になり止まらなくなりました。
加えて、フェイク・ドキュメンタリーのような現実の出来事を装うスタイルなのにも関わらず、家の間取りという謎に対してミステリー好きの設計士が探偵代わりを務め、しかも謎の依頼人が現れ事件をかき乱しと、物語的にも二転三転していくため、この手のジャンルにありがちな単調さとも一切無縁です。
この小説は、始めから終わりまで読者にとって興味が無い方向に話がずれることが無く、常に読者が最も気になっている謎を的確に追い続けてくれるため、サスペンス小説としては読んでいて快感です。
アイデアの出し惜しみが一切なく、次から次に魅力的な謎が提示され、しかも読者の興味を完全に理解しそこから照準がずれないので、この小説を読んで退屈に感じる瞬間はほぼありません。
間取り図から離れるとやや失速する中盤以降
この小説の弱点は間取り図を読み解くという本作最大の魅力が途切れてしまう中盤以降です。中盤以降はよくある名家の没落やら、謎の儀式やらといったありきたりな展開となり、独自の面白さは鳴りを潜めます。
このせいで結局、家の間取り図というものが事件の真相に近付くためのただのヒントに没してしまうので、そこは惜しいなと思いました。
しかも明らかになる真相というのは、それはそれで別のリアリティの構築が必要な類のもので、家の間取り図だけで真相に迫るというアプローチではどうやっても説得力に欠けてしまい、嘘くさく感じてしまいます。
出来れば最初から最後まで間取りにこだわり、最大の謎も間取りを読み解くことで明らかになるという、徹底的に家の間取りと向き合ったオチにしてくれたほうがずっと好みでした。
最後に
家の間取り図から不気味な事件が浮き上がり続ける中盤までは圧倒的な中毒性ですが、終盤に事件の真相が語られ出すと中身がスカスカで失速する点はやや惜しく感じました。
ただ、家の間取り図に謎を仕込んで読者に提示し、能動的に謎に興味を持たせグイグイ引っ張るという手法はほぼ完璧に成功しており、読んでいる最中は無類の面白さです!!
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