発光本棚

書評ブログ

発光本棚

【SF小説】時間の迷宮に迷い込む壮大なる物語 |『果しなき流れの果に』| 小松左京 | 感想 評価 レビュー 書評

作品情報
著者 小松左京
出版日 1966年
評価 100/100
オススメ度 ☆☆☆
ページ数 約398ページ

小説の概要

 
この作品は、新たに発見された古墳こふんから未来の技術で作られた奇妙な砂時計が出土したことをキッカケに、その調査に向かった学者たちが時間と宇宙を巡る壮大な争いに巻き込まれるというSF小説です。
 
古代の地層から発見されるその時代には存在しないはずの物質が、実は未来から過去に向けて何かのメッセージとして送り込まれているというスケールの大きい謎や、過去・現在・未来、並行宇宙と時間や空間の隔たりを大胆に跳躍するトリッキーな語りと、読んでいると頭がクラクラするようなスリルと知的興奮を堪能できます。
 

この作品が常にSF小説のオールタイムベストに選ばれるのも納得です

 
SFマガジンに1965年2月号から11月号に連載された約60年前の小説のため今読むと古めかしい箇所も多くあります。しかも、終盤が話の辻褄合わせに終始するためやや失速気味で終わり、物語のスケールの割にあっさりした余韻というのも若干気になりました。
 
それでも長所が短所を完全に凌駕する恐ろしいまでの力作で、SF的想像力の爆発に圧倒される大傑作でした。
 

時間の渦に呑まれる快感

 
この小説最大の魅力は、現代(作中では1960年代)の日本から人類が宇宙に進出した21世紀へ、そして恒星間航行が発明された遙か未来、さらに恐竜が闊歩していた白亜紀と数百年、数千年どころか数千万年、数億年規模で話が未来へ過去へと飛びまくる、必死でしがみついていないと振り落とされそうになるジェットコースターのごときストーリーの快感です。
 
ハッキリ言って乱暴と言って差し支えないほど自分が今どこで誰の視点でどんな出来事を目撃しているのか曖昧なのに、宇宙の膨張のごとく話が広がって広がって広がり続け、もはや収拾しゅうしゅうが付かないほど広がってもまだ広がり続けるため、意味は分からないが面白すぎて先が気になるという状態が持続します。
 
あとがきを読むと、作者が自分の喚起するイメージに自分自身がまいってしまい何度も書くことを放棄したいという思いに駆られたとあり、ここから、この怒濤の勢いは小松左京という天才SF作家が一切ストーリーを制御せず半ば暴走状態で書いていたことが読み取れ、恍惚を覚えるほど怒濤の勢いの理由が分かりました。
 
読者を次から次に異常な事態に放り込むというスタンスが徹底している上に、それぞれの時代ごとのSF描写は手抜きのない濃密さで、各章ごとがほとんど独立した短篇小説並みの情報密度と衝撃の展開で構成される様は作者の狂気すら感じさせます。
 
この一端積み上げた設定や人間関係を次の章で完全にリセットし、また新しい登場人物を出し膨大な設定を積み上げ、それをまた次の章でリセットするを繰り返すという効率性とは完全に無縁な豪華にも程がある小説の作りは、SF作家の創造力をまざまざと見せつけられるようで、ただただ圧倒されました。
 
最後まで読むと実は時間に関する異なる考え方を持つ二つの勢力が争っているシンプルな構造の話だと分かりますが、謎解きはわりとどうでもよく、やはりサスペンス小説の冒頭部のような前後不覚に陥る感覚が毎章ごとに繰り返されるトリップ感が最高で、SFミステリーというよりはSFサスペンスとしてずば抜けた面白さでした。
 

序盤から中盤の後処理に追われる終盤

 
この小説で残念なのは、終盤がひたすら序盤から中盤で提示される謎の回収に費やされるため、終わりに近づくにつれ説明臭さが増し、話の勢いが失速してしまうことです。
 
良く言うと伏線の回収、悪く言うとただの強引な辻褄合わせでしかなく、しかもキレイに謎が解けるワケでもなく、ただの後付けのような片付け方をされるため、大してスッキリもしません。
 

さらに、いくつか未解決の謎が放置されたまま終わるためモヤモヤが残ります

 
中でも、未来の砂時計が出土した古墳にある他の古墳には見られない独自の構造や、序盤に古墳で起こる不可解な出来事に関する説明の回収が非常に雑で、やはり全ての始まりである古墳関連の謎くらいは美しく回収してくれないと物語が締まりません。
 
では謎解きをしなければいいのかというと、それだと本当に意味不明なだけの話になるため論外で、やはり面倒な説明を半ば放棄し怒濤の勢いで話を拡大し続けた代償としてこの終盤の退屈な辻褄合わせは仕方がないと思います。
 

最後に

 
いくつか不満もあるものの、読んでいる最中の圧倒的な楽しさに比べると些細なことでしかなく、終始濃厚なSFの時間に包まれるような紛う事なき大傑作でした。
 

『百億の昼と千億の夜』と似た様な話とスケール観なので、そのようなSFが好きな人は絶対に楽しめると思います

小松左京作品

 

作品一覧

 
TOP