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セカイをウラであやつるナゾのひみつそしき(笑) 「ヘヴィーオブジェクト 亡霊達の警察 #7」 著者:鎌池和馬 電撃文庫 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:60/100
作品情報
著者 鎌池和馬
発売日 2013年11月9日

短評

 
 登場するオブジェクトはほぼ欠陥兵器でまったく盛り上がらず、雰囲気だけのお涙頂戴展開はだだ滑りで、オセアニアの戦争を裏で操っていた謎の勢力は子供が考えたような幼稚な設定と、ストーリーはシリーズでもぶっちぎりワーストの酷さ。
 
 通常のオニオン装甲ではなく反応装甲(リアクティブアーマー)を使う短期決戦型のオブジェクトや、加速器を防御と攻撃両方の用途に使うというぶっ飛んだアイデアのオブジェクトは魅力的だが、単純な妨害工作であっさりぶっ壊れていく欠陥ぶりと、挑発されただけで自滅するアホ操縦士の珍行動が相まって読んでいると虚しくなってくる出来損ないの巻。
 

失笑を禁じ得ない、小・中学生が考えたような戦争の裏側で暗躍する謎の秘密組織(笑)

 
 この巻に収録されるエピソードは、
 
 第一章 馬鹿二人は銃で殺し合う オセアニア模擬戦
 
 戦場はまたしても西太平洋のオセアニア(多分オーストラリア大陸)。多国籍軍によるオセアニア制圧がほぼ完了し、クウェンサーやヘイヴィアが所属する正統王国軍第37機動整備大隊は部隊を二分し味方同士で模擬戦を行っていた。模擬戦の最中、指揮官であるフローレイティアの元に娘を誘拐したという誘拐犯からの奇妙な間違い電話が掛かってくる。治安が悪く現地の警察が犯罪組織と癒着している可能性があるため、万全を期して誘拐された子供の救出に駆り出されるクウェンサーとヘイヴィア。しかし、この誘拐事件はオセアニア軍事国の残党勢力や人身売買組織、友軍であるはずの多国籍軍に参加したとある大国が絡む、人間を商品とする闇のビジネスの一端でしかないことを二人は知る由もなく。
 
 
 第二章 私の仕事は絵具を運ぶ事 オセアニア情報戦
 
 戦場は引き続きオセアニアの砂漠地帯。クウェンサーとヘイヴィアが同じ多国籍軍に参加する情報同盟の諜報活動を妨害したことがキッカケとなり、報復のため情報同盟の第2世代オブジェクト“シンプル・イズ・ベスト”がベイビーマグナムを破壊するため差し向けられる事態が発生。そこに情報同盟に同調した資本企業の所有する対人用第1.5世代オブジェクト“ホーネットストーム”も参戦し窮地に立たされる正統王国軍。オブジェクトの戦力比が2対1という圧倒的に不利な状況を打破するべく敵陣地にて破壊工作を行うクウェンサーとヘイヴィアだったが、先発して行方不明となっていた正統王国軍の諜報部員と名乗る女性兵士と出会い行動を共にすることに。しかし、自軍の無線からは敵に皆殺しにされた諜報部員全員分の死体が発見されたという女性兵士の話と食い違う報告が流れ……。
 
 
 第三章 警察は戦争を止める手段 オセアニア解放戦
 
 戦場は引き続きオセアニア。先のオブジェクト戦の最中に偶然発見された砂漠の地下に広がる謎の空間を調査するため派遣されるクウェンサーとヘイヴィア。地下空間を調査する二人は、そこで多国籍軍の介入で独裁が終わり平和に向かいかけていたオセアニアの情勢を根本からひっくり返してしまうある陰謀の証拠を発見する。二人がオセアニアの裏で極秘裏に進行する計画の一端を知った直後、世界の警察を自称するMIBと名乗る集団が、多国籍軍が犯罪行為を行うフェイク動画を公開し、オセアニアの民に蜂起を呼びかける。多国籍軍への怒りで暴徒と化す群衆の憎悪がクウェンサー達オセアニアの平和のために命を懸けて戦ってきた者たちへと向けられることとなり……。
 
 の3つです。
 
 今回もこれまで幾度も登場した、民衆を虐殺する独裁政権を潰すため多国籍軍が派遣されるオセアニアの話の延長で、正直あまり新鮮味はありません。
 
 そこは別段気にはならないものの、今巻の最大の問題は、クウェンサー達がかつて撃破した軍事国の0.5世代オブジェクトはそもそも軍事国が独自に開発したものではなく、この巻で登場するオセアニアの紛争を裏で操っていた秘密組織(笑)が技術提供したものだと後付けの設定が加わることで、過去のエピソードを巻き込んで全体の評価を著しく下げてしまうことです。
 
 過去の話に後付けの設定を足すことで厚みを加えるならまだしも、この子供のごっこ遊びのような秘密組織(笑)のトンデモ陰謀の被害を受け、これまでのオセアニアに関わるあらゆる話が全部バカバカしい陳腐なものに成り下がりオセアニアへの興味が根こそぎ失せました。
 
 読んでいてひたすら恥ずかしい子供が数時間くらいで考えたような秘密組織(笑)の陰謀がこれまで積み上げてきたオセアニアの情勢を全部崩壊させて終わるので余韻は最悪です。
 
 この話を成立させるなら、最低でも舞台立てから丁寧に設定を積み上げないとダメなのに、元からあるオセアニアの情勢の上に適当に乗っけてしまったせいで、土台のオセアニア情勢まで崩れて大惨事をまねいており目も当てられません。
 
 敵の思想の幼稚さや計画の浅さ、映画の『ブラックホークダウン』のような暴徒化した民衆に襲われるシチュエーションがやりたいだけという志の低さ、戦争を裏で操っているという割に資金繰りの設定のバカさ加減、子供向けの特撮番組の悪の組織みたいな失敗した者をこれ見よがしに処刑するイタイだけの組織描写と、あらゆる設定が全てガバガバで、読むに耐えませんでした。
 

いくらオニオン装甲を採用しない低コストな機体とはいえ、こんなセコイ手口で一国の国家予算規模の費用が掛かるオブジェクトを数機も開発できる資金をかき集められるなら、この人たちはむしろ天才詐欺集団ですね

 

オブジェクトの象徴であるオニオン装甲をあえて採用しないイレギュラーな機体たち

 
 今回戦うオブジェクトは、オニオン装甲という細かい装甲をたまねぎのように何層も重ねて作られた、オブジェクトという兵器を象徴するスタンダードな装甲とは異なる特殊な装甲を持った敵です。そのため、主眼はどのように敵オブジェクトの鉄壁の守りを崩すのかという点に置かれ、このアプローチ自体は非常に好みでした。
 
 リアクティブアーマーのように使い捨ての追加装甲を攻撃を受ける度に剥離はくりさせ続けることで短時間はほぼ無敵の防御力を発揮する情報同盟の短期決戦型のシンプル・イズ・ベストや、本体の装甲自体はペラペラなのに敵の砲弾や光学兵器の軌道をねじ曲げてしまう革新的な技術を搭載したアーリーステイツなど、やりようによってはいくらでも面白くなったのにというアイデアが豊富で、ここは素直に読んでいてワクワクします。
 
 特にアーリーステイツの、機体そのものが加速器のような機能を備えているというぶっ飛んだアイデアはこれぞ『ヘヴィーオブジェクト』というけれん味で、前巻の軌道エレベーターを装備したブロードスカイサーベル同様に装備それ自体が常軌を逸しており存在感があります。
 
 しかし、相変わらず全てのお膳立てが整った環境下で特に綿密な準備もせずあっけなくオブジェクトを撃破してしまえるというシリーズの悪癖がまた顔を出し、結果シリーズでも最低レベルの粗雑な決着の付け方となり、オブジェクトを撃破しても何の感慨もなくただ白けるだけでした。
 
 しかも、今回は設定が甘々なのにクウェンサーがこれ見よがしに決めゼリフを吐くため、読んでいて過去一番の不快さです。決めゼリフは自分がやれる事を全てやり尽くした人間が言うからカッコいいのであって、こんな敵を都合良く倒すためのセッティングが勝手に整えられた場所でたった一個か二個の思い付きでオブジェクトを倒してしまうシチュエーションで喋っても何一つ胸に響くものはありません。
 

最後に

 
 国連が崩壊し無秩序な戦争が繰り返される現代に、かつてのような世界最強の軍事力を持った大国を復活させることで戦争に秩序をもたらし、世界を安定させると同時に強固な支配体制を築こうというアイデアは悪くはないと思いますが、そんな野望を持った組織が本当に存在するように見えるという説得力は完膚無きまでにゼロで、ただの子供の妄想を読まされるようで退屈そのものです。
 
 戦争を裏で操る勢力の様な荒唐無稽な嘘をどれだけ真実味を持たせて読者に信じさせるかがプロの作家の腕の見せ所なのにそれが1ミリも出来ておらず、今作を読んだらこのシリーズをこれ以上読むのは止めようかと思うほど、ぶっちぎりでシリーズワーストのつまらなさでした。
 

ヘヴィーオブジェクトシリーズ

 

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