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【ライトノベル】予想を上回る第三世代オブジェクトの衝撃 |『ヘヴィーオブジェクト 第三世代への道 #6』| 鎌池和馬 | 電撃文庫 | 書評 レビュー 感想

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作品情報
著者 鎌池和馬
出版日 2012年6月8日
評価 80/100
オススメ度
ページ数 約339ページ

小説の概要

 
この巻は、戦争の影に隠れる汚れた任務や汚い金の流れ、戦争そのものを裏で操り利権を貪る者たちの計略など、クリーンな戦争の暗部を描く内容が多くシリーズの中では作風がやや重めです。
 
オブジェクト戦こそ控えめですが、第一章から第三章まで正統王国のダーティワーク専門であるユニコーン部隊に関連したエピソードで統一されており、話に一貫性があります。事前に張られた伏線の回収がある上に、最後は感動的な衝撃展開も用意されと、シリーズの中では最も話がまとまっています。
 
そして、ついに待ちに待った第三世代オブジェクトが登場し、第二世代からどこが進化したのかという理屈も抜群に面白く、これまでのシリーズ中最高の出来でした。
 

『ヘヴィーオブジェクト オブ デューティ ブラックオプス』もしくはゴーストプロトコルな汚れ仕事に徹する巻

 
この巻に収録されているエピソードは、
 
第一章 天国に一番近い戦争ブローカー クック方面諜報戦
 
戦場は南太平洋のクック諸島。クウェンサーとヘイヴィアは度重なる軍規違反の末に常夏のクック諸島に左遷される。島には正統王国が抱える天才女性オブジェクト設計士だけを集めた施設が存在。オブジェクトを生身で撃破してきたクウェンサーは、ベイビーマグナムの設計者であるクレア=ホイストに興味を持たれ施設に招かれる。しかし、機密保持のため外部との通信が不可能なはずの施設内になぜか通信可能な奇妙な抜け穴を発見する。島の兵士の中に紛れ込む正統王国の汚れ仕事を専門に請け負うユニコーン部隊がクレアの指示で動いていることを確認したクウェンサーは、クレアが他国へ情報を流す諜報員なのではないかと疑いを抱く。
 
 
第二章 地獄よりも辛い汚れ仕事チーム アサバスカ方面輸送戦
 
戦場は北米アサバスカ方面。クック諸島でまたもや問題を起こし、今度は作戦中に命を落としても軍の死亡記録にすら残らない極秘の任務を行うバックグラウンド部隊に左遷されるクウェンサーとヘイヴィア。二人は味方の誤射で墜落した、秘密物質が積まれたまま放置されるステルス爆撃機の回収へと向かう。しかし、回収作業を終え撤退する途中に回収した積荷を狙う情報同盟軍の襲撃を受ける。極秘の作戦中で援軍など臨めない状況の中、クウェンサーとヘイヴィアの前に衛星と連携しGPSによって精密なレーザー攻撃を行う情報同盟の最新型第二世代オブジェクトが出現し……。
 
 
第三章 人間の欲を刺激する陰謀バンク アマゾン方面砲撃戦
 
戦場は正統王国の支配下にある南米アマゾン。アサバスカでも問題を起こし、今度はアマゾンへと左遷される二人。アマゾンでは、東欧のボルガが抱える王位継承争いのため王位継承者同士がオブジェクトに乗り一騎打ちを行う御前試合が目前に迫っていた。そんな慌ただしいアマゾンで正統王国軍の基地をターゲットにしたテロが発生。偶然テロリストの攻撃を目撃したクウェンサーとヘイヴィアだったが、このテロの裏に因縁深いユニコーン部隊が絡んでいることに気付き真相を追うことに。そして王位継承争いに巻き込まれてしまった二人の前に地球の約3分の1を射程とする長距離攻撃能力を有する第三世代オブジェクト、ブロードスカイサーベルが姿を現す。
 
の3つです。
 
今回は3つの章が全て裏で繋がり、しかもラストの章でキレイに伏線が回収されるため各エピソードのぶつ切り感はなく、これまでのシリーズでは最もミステリーとしての満足度は高めです。
 
基本は、正統王国の汚れ仕事を専門とする謎多きユニコーン部隊を巡る話となるため、オブジェクトを使った派手な戦争は控えめです。シリーズの中では最もミリタリー色が濃く、歩兵同士の撃ち合いや、オブジェクトではなくティルトローター式ガンシップやGPS迫撃砲など既存の兵器プラスαの通常兵器を攻略する話が多めになります(ここら辺は一つ前の『死の祭典』とそっくりです)。
 
ユニコーン部隊と関連して、今回は戦争の裏で蠢く汚いビジネスや、互いに相手の戦争資金を削ぐための諜報合戦が主と、個人的にこれまでのシリーズの中では最も好みの題材でした。
 
この巻は『ヘヴィーオブジェクト』という作品の肝である、クウェンサーとヘイヴィアが危機的状況を持ち前の柔軟な発想で打破するという面白さは健在のまま、全エピソードで伏線を張りラストで驚かせるミステリーとしての面白味も充分備わり、しかも第二世代までのオブジェクトとはまるで異なる設計思想で作られた第三世代オブジェクトもお披露目されと、これまでのシリーズの中ではバランスが最も優れています。
 

ぜひ映像で拝みたかった第三世代オブジェクト、ブロードスカイサーベル

 
今回最も興奮したのはやはり初お披露目となる第三世代オブジェクトです。
 
てっきり新しい概念のオブジェクトが登場するのかとおもいきや、実はクウェンサーとヘイヴィアが過去に交戦したオブジェクトの中に一体だけ他のオブジェクトとは明らかに異なる異物がひっそりと混じっており、それが第三世代オブジェクトへの道を拓くヒントとなるという予想外の方向から投げられるアイデアが面白く、冒頭で即心を鷲掴みにされました。
 
確かに改めて説明されると過去に登場したオブジェクトの中に一つだけどう考えても普通のオブジェクトとは根本的に運用の仕方が異なるものが混じっており、読んでいてハッとさせられます。
 
読む前は第三世代と言っても、ガンダムで言うとモビルスーツが大型化してモビルアーマーになるとか、ゼータガンダムが高火力のダブルゼータガンダムに進化する(もしくは、ウイングガンダムがWガンダムゼロに、ガンダムエックスがダブルエックスになる)とか、オブジェクトの戦闘力が一回り強化されるくらいにしか考えていませんでした。
 
しかし、実際はオブジェクトの戦闘力が強化されるのではなく、戦争におけるオブジェクトの拡張性を高め戦争ビジネス的な価値を上げるような進化を遂げるというアイデアが事前の想像を遙かに超えワクワクさせられます。
 
ただの強力な兵器としてはむしろ第二世代のほうが上で、第三世代からは運用のされ方のほうが劇的に変化し、オブジェクトから強烈な金とビジネスの匂いが漂い出すという変化は新鮮です。
 
ガンダムで例えると、モビルスーツをドック艦のラビアンローズとくっつけるとか、核融合炉に必要なヘリウム3を採取するため地球と木星を往復するヘリウム3採取・運搬船のジュピトリスとモビルスーツを掛け合わせるようなぶっ飛んだ発想で、まったく予想できませんでした。
 

ジャブロー攻めかい!!

 
ずっと戦争の裏に潜む汚いビジネスや金の話をしてきたのはこのためでもあるのかと、今回はキャラクター同士のエピソードもオブジェクトに関する前振りもきちんとされており、全体的に非常に満足度が高めです。
 
オブジェクトの撃破方法もいつもの雑なやり方ではなく、ウォーターストライダーのようにオブジェクトがあまりにも先端テクノロジーの集積であるため機密保護用の処理が何重にも設けられていることを逆に利用して倒すような、オブジェクトが強力すぎるために用意されたセーフティが仇となるという手法でさほど違和感がありません。
 
読んでいて疑問だったなぜブロードスカイサーベルの主砲に直接動力炉を積まないんだろうという謎も、血統こそが重要で、血縁意外は基本的に信用ならない敵という認識の正統王国らしい、他人をまったく信用せずオブジェクトを操縦するエリート以外に権限を与えたくないという欲望のせいで生まれた弱点という描き方も鮮やかでした。
 
やはりオブジェクトの撃破方法は、オブジェクトが化け物ゆえに普通の兵器なら別段備える必要のない特殊な機能が盛り込まれネックになるとか、その勢力の教義が足を引っ張りそれがウィークポイントとなってしまうという形が最も自然だと思います。
 
そして、小説を読んでいるとこのオブジェクトを映像で見たかったという感情も生まれました。
 
マスドライバーを転用したレールガンならいざ知らず、小型の軌道エレベーターをそのまま装備し、オブジェクト単体でコンテナを衛星軌道上に正確に射出可能というバカげているにも程がある外観と機能は、サンジゲンのCGアニメで動く姿をぜひ見たかったです。
 
TVアニメ版はどのオブジェクトが映像向きかではなく、単純に一話から順繰りに映像化していまっているせいで、明らかに絵的に一番面白いであろう、この移動する軌道エレベーターオブジェクトを見られなかったのが残念に思います。
 

感動的なもののまだまだ詰めが甘すぎる王位継承争いの顛末

 
今巻は全エピソードに伏線がしっかり張られており、最後にそれがまとめて回収されるためシリーズの中でも終盤に訪れる感慨は一番でした。
 
しかし、どうしても細部が甘々なのは変わらず、感動すると同時に雑さも覚え、そこまで盛り上がり切れないという不満も残ります。
 
この作者は毎回アイデアをアイデアのまま剥き出しで出してしまうという弱点があり、壊れやすいアイデアを他のアイデアでくるんで出すとか、中心となるアイデアを際立たせるため無数の細かいアイデアでそれを支えるといった繊細な工夫がなく、アイデアを未加工でそのままぶん投げられるような乱暴さを感じてしまいます。
 
もう少しユニコーン部隊へ読者が抱く感情を完璧にコントロールして揺さぶるとか、ステイビアと第115独立近衛中隊の関係性をしっかり描きどれほどステイビアにとってこの部隊が心の支えだったのか納得させるとか、最低限その程度の仕込みがないと感動気な雰囲気以上になりません。
 
今回は決してプロットそれ自体は悪くないのに、この物語が秘める魅力を最大限引き出すのに必要な描写がことごとく抜け落ちており、語りもオチも乱暴だなという印象が強く残ります。
 

最後に

 
第三世代オブジェクトは、オブジェクトそのものがより強くなるという縦の進化ではなく、あらゆる戦争にオブジェクトが融合し、戦争そのものを拡張し変容させてしまうという横の進化を実現しており面白味が大幅に向上します。
 
今作は、単純に強力なオブジェクトが次から次に登場するという安易なパターンを避け、どのように戦争そのものと歪に融合した金の匂いを振りまく戦争ビジネス用オブジェクトを作れるのかというシリーズの可能性を広げる方向に進むことができ、より一層この作品が好きになりました。
 
 

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