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オブジェクトが一切登場しない番外編 「ヘヴィーオブジェクト 死の祭典 #5」 著者:鎌池和馬 電撃文庫 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:70/100
作品情報
著者 鎌池和馬
発売日 2011年11月10日

短評

 
 シリーズ初のクウェンサーやヘイヴィア、そして目玉のオブジェクトすら登場しない大胆な番外編。毎回戦場が変化する短編形式とは異なり、舞台も主役も勢力も固定された長編として書かれている。
 
 平和の祭典であるオリンピックが四大勢力の代理戦争の場に姿を変えたという歪なスポーツ大会の設定と、そこで発生するテロ事件は話が上滑りしており決定的な盛り上がりに欠ける。
 
 全体的に新キャラクターであるマリーディを活躍させるためだけのお膳立てエピソードで話に深みが無い。
 

技術や武器の見本市と化したオリンピック

 
 この小説は『ヘヴィーオブジェクト』シリーズの5作目で、これまでのクウェンサーとヘイヴィアを主役とする短編スタイルとは異なり、初登場キャラクターであるマリーディを主役とした長編小説として書かれています。
 
 ストーリーは、北欧禁猟区の航空PMCに所属する傭兵マリーディ=ホワイトウィッチが資本企業に雇われ、参加国の技術力を競い合う、選手が装着するウェアの改造やドーピングも規定内ならやりたい放題というスポーツ?の祭典「テクノピック」に出場するという内容です。
 
  最初に設定を見た時はてっきりゲームの『ダウンタウン熱血行進曲 それゆけ大運動会』のように出場選手同士が互いに攻撃しあうとか、漫画の『ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン』みたいにレース中はライバルたちがスタンドで攻撃してくるような死傷者多数の過酷なスポーツなのかと誤解しました。
 
 

 
 しかし中身はまったく異なり、トライアスロン形式の競技それ自体の描写はほぼ省略され、テクノピックそのものの開催を妨害してくるテロリスト集団との戦闘がメインで若干拍子抜けします。
 
 この巻で最も新鮮なのは、クウェンサーやヘイヴィアが属する何よりも血統こそが重視される正統王国とは異なり、完全に資本企業の視点で話が語られることです。全てにおいて経済活動が優先され、金儲けの前では人の命すらも軽視される資本企業の冷酷なルールを味わえ、『ヘヴィーオブジェクト』シリーズの中でも最も作風がドライに感じられます。
 
 このシリーズは各勢力が自身の利益のためにオブジェクト同士のみをぶつけ合うクリーンな戦争が繰り返される世界という、どうしても資本企業っぽいメカニズムで動く世界なため、ハッキリ言ってこの資本企業論理の語り口が一番しっくりきました。
 

新キャラであるマリーディ=ホワイトウィッチのお披露目会

 
 今作の主役はオブジェクトの使用が禁止されクリーンな戦争とはほど遠い未だ旧世代の兵器を用いる泥沼の争いが続く北欧禁猟区の歴戦の傭兵マリーディ(12歳)です。
 
 相変わらず情報同盟のアイドルエリートと同じで12歳のロリキャラで戦闘機乗りとしてはエースで、しかもベテランの傭兵ということに対する説明は一切無く、この巻だけ読んでもマリーディがどういう生い立ちを持つのかワケが分かりません。
 
 百歩譲ってオブジェクトを操縦するエリートが12歳でも生身で戦闘するワケがないので良いとしても、普通に銃撃戦もこなすマリーディが12歳なのはフィクションの許容範囲を超えており、納得のいく説明がないと違和感しかありません(『幼女戦記』のような魔力量で魔導士の適正を図りかつ年齢を一切考慮しない完全な実力主義制度にするとか)。
 
 12歳なのに航空PMCで最強のエースパイロットで、銃を持たせても大人を完全に凌駕する戦闘力のベテラン兵士で、資本企業にテクノピックの代表選手としてスカウトされたというありとあらゆるツッコミポイントは完全に無視したとしても、良くも悪くもクウェンサーやヘイヴィアと性格が若干似ており、そこまでキャラが立っているようにも思えません。
 
 クウェンサーたちと同様に戦争が常態化した世界にうんざりしながらもそんな環境に適応しつつ、しかし目の前で理不尽に命を奪われようとしている罪無き人を見捨てられるほど冷血ではないという部分が似ており、安心して読める反面そこまで番外編らしい意外性も感じられませんでした
 
 特にオブジェクトの使用が禁止されているという特殊な戦場にいるのにも関わらず、あまりマリーディがオブジェクトをどのように捉えているか考えを述べないため、オブジェクトのいる戦場が日常という世界で生きるクウェンサーたちとうまく戦争観が対比されません
 
 ただ、クウェンサーやヘイヴィアの視点では味わえない、泥沼の戦場を生き抜く北欧禁猟区の傭兵と、自前の軍隊を持たず全て傭兵だけで戦力を整える資本企業視点という組み合わせの相性は抜群で、ドライな作風の中で動き回るマリーディはしっかり輝いて見え、主役としての存在感はきっちりありました。
 

長編にしてしまったせいで逆に欠陥が露呈する残念な完成度

 
 オリンピックという平和の祭典がいつの間にか元の理念を失い、ただの四大勢力の代理戦争と化してしまったという設定はやりようによっては面白くなったと思いますが、実際読んでいると話はまったく盛り上がりません。国際スポーツ大会の場が戦場となってしまうというスケール感は皆無で、敵も味方もほぼ印象に残らず散々でした。
 
 作者はよっぽど話の構成が苦手なのか、長編なのに短編のぶつ切り感がそのまま残っており、ただ単に関係ない話を組み合わせてなんちゃって長編にしているだけで、本来長編にあるはずの安定性や高揚感はほぼありません。
 
 単純に設定のディテールが短編並みにスカスカな上に、テクノピックの競技とテロ集団との戦闘に何の関係もないなど、あらゆる要素がバラバラでまったく噛み合わず、話が盛り上がる瞬間は皆無でした。
 
 長編にするなら序盤で物語の土台をしっかり作ってから本題に入るなどの工夫がないと長編に必至の重みが生じず、いつもの軽いノリの短編と変わりません。
 
 一見バラバラで関係ないと思われていた小さな事件が全部テロ集団の遠大な計画の一部だったというような、大きな事件を成立させる布石がまったく足りておらず、行き当たりばったりの大雑把な計画にしか見えませんでした。
 
 その雑な展開の煽りを食い脇役全員残らず影が薄いままで、マリーディ意外は何の印象にも残りません。資本企業の理念とはまるで異なる罪無き人を救うため行動を起こすマリーディに感化され、他の脇役も自分の得意分野の知識を利用してマリーディをバックアップするとかその程度の工夫くらいあっても良かったのに、それも無く。
 
 終盤の北欧出身だからギリシャ由来の祭典の中にある北欧神話関連の場所で活躍させるという工夫も滑っており、全体的にこんな設定を入れてみました以上の意味がありません。
 

最後に

 
 いつも短編の短さに隠れていた設定の薄さやキャラの浅さがもろに顔を出してしまっており、せっかく長編化したのにただ単に長いだけの短編を読んでいるような気分でした。
 
 このシリーズを読む最大の目的である肝心のオブジェクトが一切登場しないということもほぼそのままマイナスでしかありません。戦争の代名詞たるオブジェクトをあえて出さないことでオブジェクトに異なる角度から光を当てるといった工夫もなく。
 
 ただ単に新キャラの12歳でエースパイロットで歴戦の傭兵という意味不明のマリーディがひたすら活躍するプロモーションを読ませられているだけで満足度はシリーズでもワースト級でした。
 

ヘヴィーオブジェクトシリーズ

 
 

アニメ版