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資源問題の話に焦点を絞り切れなかった惜しい巻 「ヘヴィーオブジェクト 電子数学の財宝 #4」 著者:鎌池和馬 電撃文庫 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:75/100
作品情報
著者 鎌池和馬
発売日 2011年9月10日

短評

 
 信心組織から逃亡した一人の宗教家に絡む話が継続するという『採用戦争』に近い構成だが、途中なんの意味もない小休止エピソードが間に挟まれ勢いを殺され、終盤の盛り上がりには欠ける。
 
 宗教家と資本企業の取引の裏側に潜む資源を巡る利権が露わになるという展開も全体を通して布石が足りず、もっといくらでも面白く出来たのにと言う不満が多く残る内容。
 
 しかし資本企業の第二世代オブジェクトであるディープオプティカルは、機動性を完全に捨て攻守共に高性能レーザー兵器で対応するというユニークな設計思想を持ち、これまで登場したオブジェクトの中でも秀でた存在感を放つ。
 

オセアニアの埋蔵資源を巡る政治的陰謀の面白さを台無しにするハーレム水着回

 
 この巻に収録されているエピソードは、
 
・「青一色の海のはずだが ロワイヨーテ方面非正規戦
 
 戦場は南太平洋にあるロワイヨーテ諸島。多国籍軍によるオセアニア軍事国侵攻の際に補給地点として機能していたロワイヨーテ方面。そこでは、多国籍軍に参加した資本企業の第二世代オブジェクト、ディープオプティカルが追加予算を獲得するためのパフォーマンスとして島へ無差別に攻撃を加え現地の人間を虐殺していた。現地の武装勢力に囚われたクウェンサーとヘイヴィアは数々のオブジェクトを生身で撃破してきた戦歴を買われ、ディープオプティカルの破壊を依頼される。
 
 
・「白い砂浜のクリスマス オセアニア方面休暇駐留戦(?)
 
 舞台はオセアニアのオーストラリア大陸。多国籍軍によるオセアニア軍事国制圧が一段落し、正統王国の兵士達は常夏のオーストラリアでクリスマスパーティに興じていた。ヘイヴィアはパーティ会場へと向かう途中、何者かに命を狙われる情報同盟のジャーナリストを名乗る男ロイスに出会う。ヘイヴィアはロイスから反オブジェクト勢力が正統王国のオブジェクトであるベイビーマグナムを標的としたテロを画策していると聞かされ……。
 
 
・「真っ赤に染まる海の宝 ソロモン方面防衛戦
 
 戦場は南太平洋ソロモン諸島。クウェンサーとヘイヴィアが所属する正統王国第三七機動整備大隊は、信心組織内で他の宗教勢力と内戦を起こし多数の死者を出した末に国外へ逃亡したロイベルツ=オールドニック枢機卿の排除を命令される。枢機卿を抹殺するためソロモン方面へと向かうクウェンサーとヘイヴィアだったが、そこに資本企業のオブジェクト、ディープオプティカルが立ちはだかる。なぜ資本企業のオブジェクトが信心組織を追われる逃亡者を手助けするのか、その謎の裏には電子数学の財宝に絡む資源問題が隠されており……。
 
 という、3つです。
 
 サブタイトルの電子数学の財宝とは電子が不安定な原子同士をくっつけ異なる原子を作る技術のこと。この巻のメインテーマである貴重な資源を巡る争いの焦点となるのと、信心組織の教義において神の摂理に反するかどうかという論議の両方に関わるという設定は面白いのですが、問題は終盤唐突にこの話が始まるため、ミステリーとしてまったく機能していないことです。
 
 3つあるエピソードは一応全て繋がっているのに、1章と2章でこの件について深く触れないため、終盤が気持ちよく盛り上がってくれません。
 
 しかも、1章は資本企業のオブジェクト整備基地に忍び込む潜入工作の話のみで直接オブジェクトとは戦わず、2章に至ってはただのハーレムラブコメ回でひたすらフローレイティアとミリンダがミニスカサンタのコスプレでクウェンサーに迫り続けるだけの話で退屈。唯一まともなのがオブジェクト同士が激突する3章だけなのに、今度は事前の仕込みが足りずまったく盛り上がらないと散々でした。
 
 これまで起こった小競り合いの裏には実はオセアニアの資源問題と、人命よりも企業の利益が優先される資本企業らしい水面下で行っていたある経済政策が絡むという内容で、やりようによってはマスドライバー財閥の話より面白くなったかもしれません
 
 なのにも関わらず、バカバカしいハーレム回なんて挟むせいで充分に設定がじゅくさないまま終盤に突入してしまい、中途半端さが惜しいなと思います。
 

存在感のある資本企業の第二世代オブジェクト、ディープオプティカル

 
 3章に登場する資本企業のクライアントセキュリティ社が所有する海上戦闘に特化した第二世代オブジェクトであるディープオプティカルという機体はこれまでのオブジェクトとは設計思想が異なり、非常に好みでした。
 
 これまで登場したオブジェクトは少数を除き、どちらかというと特殊な環境における機動性を武器にして戦う機体が多かったのに、ディープオプティカルは真逆で、機動性を捨て、正統王国の遙か先を行く最新鋭の高出力レーザー兵器で完全武装し、あらゆる攻撃をレーザーパリーというレーザーを使った防衛機能で無効化するという戦闘スタイルで斬新でした。
 
 レーザーというほぼ光の速度で発射される兵器で完全武装しているため、自身が高速で動く必要はなく、あらゆる状況をレーザー兵器やレーザーを使った防衛機能のみで対処するという明解な戦略で、技術的な統一感があります
 
 しかも、ブラインド兵器というオブジェクトのセンサーを狂わすことにのみ特化した装備まで備えており、旧型の兵器へも対応できるように様々なオプションを持つせいで対オブジェクト戦ではややパワー不足となるベイビーマグナムに対し、対オブジェクト戦こそを主眼に作られている第二世代らしさ全開の機体で、マスドライバー財閥のブレイクキャリアーに次いで好きなオブジェクトになりました。
 
 ただ、相変わらずクウェンサーとヘイヴィアが気軽に撃破してしまうのは不満でもう少しブレイクキャリアー並に絶望感を演出して欲しかったのと、このオブジェクトが開発された技術的な経緯について詳しい説明があれば文句ありませんでした。
 

意外にもSFしている信心組織の内情

 
 この巻は信心組織と資本企業が主な敵となりますが、資本企業側はただオブジェクトを繰り出してくるのみでそれほど目立たず、やはり信心組織側の印象が強く残ります。
 
 これまでは信心組織という勢力は神仏を崇める狂信者のような集団を想像していましたが、実はそんなことはまったくなく、神の摂理というものに対して非常に論理的な考えを持っており、イメージが激変します。
 
 電子数学の財宝という電子の不安定な原子同士を組み合わせるという行為が万物の法則に反するかどうか組織内で慎重に議論されているという話が面白く興味が湧きました。
 
 分子・原子・素粒子と、どこまで人間が手を加えるとバベルの塔のような驕り高ぶった神への反抗と見なされるのか、その線引きをどこに置くのか常に組織内で活発な議論がされているというのは、それぞれ特殊な教義を持った勢力の中でも一段魅力を感じます。
 

最後に

 
 ところどころきちんと推敲をしたのか怪しい会話が噛み合っていない箇所があり、しかも無駄なハーレム回を入れたせいで、各勢力が水面下で資源を巡る争いを繰り広げているというスケールの大きい話が台無しになるなど、これまでのシリーズでこの巻が一番雑に感じました
 
 せっかくいくらでも面白くできる設定なのに、もう少し丁寧に仕上げて欲しかったと不満が残ります。
 

ヘヴィーオブジェクトシリーズ

 
 

アニメ版