著者 | 鎌池和馬 |
出版日 | 2010年11月10日 |
評価 | 75/100 |
オススメ度 | ー |
ページ数 | 約421ページ |
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小説の概要
SF設定の説明量が多い2巻に比べ、全体的にアクションの比重が増し、アニメ版を見た後だと物足りないのは1巻と同様でした。
しかも、アニメ版は原作では飲み込み辛い設定や無駄な描写を削るなど一部丁寧に修正が施されており、ややアニメ版の後だと苦しい場面もあります。
一冊の本としての構成も前巻が全てのエピソードにマスドライバー財閥が絡むのに対し、こちらは章ごとに戦う勢力がコロコロ変わるためまとまりがないのもややマイナスです。
またもやアニメ版の完成度を思い知らされる巻
この巻に収録されたエピソードは3つです。
・「ジャンクの墓はレアメタルの山 アラスカ戦場跡迎撃戦」
戦場はクウェンサーとヘイヴィアが初めて撃破した信心組織の第二世代オブジェクト、ウォーターストライダーの残骸が放置される極寒の地アラスカ。オブジェクトのあまりの重量に放置されたままとなる残骸に眠るレアメタルや最新テクノロジーを巡り、正統王国と情報同盟のオブジェクトが激突する。
・「札束の散らばる炭鉱 カムチャッカ半島夜間奇襲電撃戦」
戦場は信心組織の軍用炭鉱が存在するカムチャッカ半島。たかが軍用炭鉱一つ程度に信心組織の防衛用第二世代オブジェクト、ウィングバランサーが配備され、正統王国側もベイビーマグナムとインディゴプラズマとオブジェクトを二機も投入。目標の重要度に釣り合わないほどの大戦力が割かれる不可解な奇襲作戦の全容が徐々に明かされていく。
・「名誉に値段はつけられない ヴィクトリア島緊急追撃戦」
正統王国の血統主義者である貴族にしてエリート(オブジェクトのパイロット)のプライズウェル=シティ=スリッカーが暴走し、ヴィクトリア島にある正統王国の移民居住区への攻撃を宣言。軍事演習という体の移民への虐殺行為を阻止するため、クウェンサーはどう見ても怪しい資本企業のPMC(民間軍事会社)を名乗るメイド服の傭兵たちと協力し、プライズウェルのオブジェクトを止めるため行動を起こす。
TVアニメ版だと15~22話までの内容。TVアニメ版は23話と最終話の24話はアニメオリジナルストーリーなので、アニメ化された範囲はこの巻までになります。
アニメ版を見た際は次から次にオブジェクトへの破壊工作のアイデアが披露されていくため、もっと大量の巻数を消費しているのかと思いきや、たかが原作3巻分で2クール余裕で持たせられているのに驚かされました。
正直、この巻は1巻と同じでアクションの比重が多いため、SF設定を読むのが楽しい2巻の採用戦争に対し、迫力はアニメ版のほうが遙かに勝ります。しかも、アニメ版は明らかに原作の無駄な部分(クウェンサーたちが情報同盟軍を足止めするため自分たちで仕掛けた爆弾で死にかけるマヌケな展開)や説明不足な点をカバーするように脚本が修正されており、見やすさもアニメ版のほうが上です。
アニメ版では情報同盟のオブジェクトに搭載された戦略AIのルーチンを乱すのに、敵側の指示をその場で逆手に取って命令をループ状態にして機能を停止させてしまうという分かりやすい展開になっています。しかし、原作ではヘイヴィアがレーダー分析官だから戦略AIに間違った学習を施す方法を熟知しているという、事前に読者に説明されない情報をヘイヴィアだけが知っておりそのため危機を乗り越えられたという非常に飲み込みづらい展開です。
さすがに読者に伝えていない情報で危機を乗り越えるのはミステリーだったら完全にルール違反なので、説明された情報内で敵を出し抜くというアニメ版のほうが正しいと思います。
それに、自軍優勢の状態から大量の増援が出現し戦局をひっくり返されるという軽く恐怖を覚えるような緊迫した場面も、アニメ版は楽勝ムードを漂わせてから絶望のどん底に突き落とすのに対し、原作は単に敵増援の出現が無線で報告されるだけでメリハリがなく、同じ展開でも受ける印象は雲泥の差です。
原作と比べてみるとアニメ版は単純な映像の迫力以外も、どういう流れやリズムで衝撃展開に持っていくかという構成部分も細かく調整されており、原作の面白さを最大限どころかそれすら超えて引き出せているため、この巻に関しては原作のほうが分が悪いなと感じてしまいます。
敵勢力がコロコロ変わる慌ただしい巻
前の巻が全てのエピソードをマスドライバー財閥関連で統一していたのに対し、この巻は情報同盟と戦ったり、信心組織と戦ったり、挙げ句の果てに正統王国同士の内乱が始まったりとややとっ散らかった展開で、あまり好ましくありませんでした。
一応情報同盟が他国に対して常に情報操作で偽の情報を流すという1章の話が3章の伏線になっていたり、まったく関係ない戦争の裏に情報同盟の戦略AIが絡んできたりと、全てがバラバラでなく飛び飛びで伏線が繋がっているものの、2巻のように一つの物語を読み終えたという満足感は希薄でした。
アニメ版だと次から次に戦場や敵勢力が移り変わっていっても特に気になりませんが、さすがに本として読む場合はいくら短編形式でも一冊のうちで何かしらテーマが一貫していないと読後感が薄く、本を読んだ気がしません。
サブタイトルの巨人達の影というのが、物事の解決を戦争に頼る巨大勢力の影に怯えて生きる反戦団体や移民たちを差しており、そこを一貫して欲しかったです。
ここら辺はライトノベルの悪い部分が出ており、読み終わった際の満足度は小説というよりは漫画っぽく、一冊の本としては味気ないです。
最後に
相変わらず、オブジェクトを歩兵の装備だけで手軽に倒せてしまうとか、そもそも過激思想の持ち主だと事前に判明している人間を危険なオブジェクトに乗せたらダメだろうなど、肝心な箇所がツッコミどころだらけなのは1巻から何一つ改善されません。
それでも、この巻でようやくヒロインのミリンダ以外の主要キャラクターたちがなぜ戦場にいるのか、ひねくれた態度を取るのかという説明が一通り終わり、シリーズの慣らし運転が終了した感があるため次巻からの展開には期待が持てます。
ヘヴィーオブジェクトシリーズ
タイトル
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出版年
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ヘヴィーオブジェクト #1 |
2009年
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ヘヴィーオブジェクト 採用戦争 #2 |
2010年
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ヘヴィーオブジェクト 電子数学の財宝 #4 |
2011年
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ヘヴィーオブジェクト 死の祭典 #5 |
2011年
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ヘヴィーオブジェクト 第三世代への道 #6 |
2012年
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ヘヴィーオブジェクト 亡霊達の警察 #7 |
2013年
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アニメ版
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