著者 | 鎌池和馬 |
出版日 | 2010年6月10日 |
評価 | 75/100 |
オススメ度 | ー |
ページ数 | 約376ページ |
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小説の概要
一つのエピソードごとに別勢力のオブジェクトと戦うぶつ切りの短編形式だった1巻とは異なり、2巻は資本企業を離脱し他国への亡命を図るマスドライバー財閥 の追撃に話が絞られ、2巻のほうが話の勢いが途切れず断然読みやすくなりました。
エピソードがぶつ切りで物足りなかった前巻に比べ、前後のエピソードにしっかり繋がりがあり、一冊の本としてはこちらのほうが完成度は遙かに上です。
最大射程3000kmの化け物オブジェクトとの死闘
この巻に収録されたエピソードは、
・「障害物競走なら普通は泥まみれ 南極大陸制圧戦」
戦場は各勢力が領有権を主張し合う南極大陸。正統王国の航空機に対し、地対空ミサイルの照準レーザーが向けられた件の調査のためクウェンサーとヘイヴィアが現地に向かうが、そこではテロリストたちが意外な標的をターゲットにするテロ計画を実行に移そうとしていた。
・「二人三脚の登山は命懸けで イグアス山岳砲撃戦」
戦場は南米のイグアス。資本企業から離脱したマスドライバー財閥を殲滅するため南米に派遣されるクウェンサーとヘイヴィア。二人は、イグアス山岳地帯でマスドライバー財閥の技術の粋を結集した脅威の長距離攻撃力を有するオブジェクト、ブレイクキャリアと対峙する羽目に。
・「騎馬戦は足下を崩すべし アマゾンシティ総力戦」
戦場は南米のアマゾン。正統王国の領土であるアマゾン方面に逃げ込んだマスドライバー財閥を追撃し旧アマゾンシティへ訪れたクウェンサーは、天才オブジェクト設計士スラッダー=ハニーサックルと対峙する。
の3つです(TVアニメ版だと9~14話までの内容となります)。
サブタイトルの採用戦争とは宇宙開発においてレーザー式軌道エレベーターとマスドライバー方式どちらを採用するかというインフラ争いのこと。この戦いに敗れたマスドライバー財閥が、所属する世界四大勢力の一つである資本企業を離脱し、自分たちのマスドライバー技術を手土産に他国への亡命を図り、その行動が各勢力に混乱を招くという内容です。
マスドライバー財閥の話は先に見たアニメ版の中でも一番好みなエピソードだったので、原作小説でも面白さは変わりませんでした。
宇宙開発競争の副産物である規格外の超射程・高威力のレールガンに、障害物・遮蔽物も無効化する天候兵器によるロックオンシステムと曲射弾道のコンビネーションなど、マスドライバー財閥の技術の粋を結集し、しかも天才として有名なオブジェクト設計士が手掛けたという作中設定を見事体現する奇っ怪としか言いようのないスペックと戦術は相変わらず読んでいるだけでワクワクします。
普通のオブジェクトは本体がメインでレールガンは武装の一つなのに、マスドライバー財閥の使うブレイクキャリアーはレールガンが本体でオブジェクトはほとんど砲台のような扱いというのも企業のキャラクター性を打ち出せており好きです。
1巻に登場する背景がきちんと説明されないオブジェクトより、このような宇宙開発に全力を注いできた組織がその技術を利用し、かつ狂った設計士が設計・開発を手掛けているなど、機体に込められた思想が透けて見えるほうが敵オブジェクトの全容が分かった時の納得度が高く、印象が強く残ります。
それに、2巻はオブジェクト以外の情報量も1巻より多めで、アニメ化の際にこぼれてしまった細かい設定を読めるという楽しみもあります。
アニメ版ではイマイチよく分からなかった、月の地表に降り注ぐ太陽光や放射線の量を調節する人工的な大気圏の役割をするブラインドネットという装置のより細かい説明があるなど、アニメを見た後でも新たな発見がありました。
いくらなんでもひねりが足りないアイデア群
アニメ版で省略されている説明を補完できるなど有意義な部分もありましたが、同時に二回目だとプロットの欠陥などの短所もやたら目に付きます。
前の巻でオセアニアの軍事国に試作実験炉を使ったトリックで一度騙されているのに短期間の内に再び同じ手口で欺 かれ正統王国は学習能力がないのかと呆れたり、ダムを決壊させようと破壊工作に走る自軍の暴走を阻止するという話が本筋と関係なさすぎてこのエピソードって必要かと改めて疑問に思ったりと、多数ある看過できないツッコミ所が全体の足を大きく引っ張ります。
後、ラノベ特有の、作中登場する設定の科学的な根拠や敵勢力の情報や政治情勢などをわざとぼかす場面も多く、ここはさすがにSFというジャンルと相性が悪すぎ興が醒める瞬間も多くありました。
小難しい説明が読みたくてSFを手に取っているのに、肝心な部分がごっそり抜け落ちており作品に必至となる設定の厚みを感じません。
最後に
原作に忠実ゆえに小説版もアニメ版もほぼ長所・短所は共通しており、アニメ版からこれといって評価が変動することはありません。
本として読む分には、同じ短編でもそれぞれのオブジェクト戦にまとまりが無かった1巻よりは、マスドライバー財閥関連の出来事で統一されている分読みやすさはこの巻のほうが格段に上で、確実に前の巻よりは楽しめました。
ヘヴィーオブジェクトシリーズ
タイトル
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出版年
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ヘヴィーオブジェクト #1 |
2009年
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ヘヴィーオブジェクト 巨人達の影 #3 |
2010年
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ヘヴィーオブジェクト 電子数学の財宝 #4 |
2011年
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ヘヴィーオブジェクト 死の祭典 #5 |
2011年
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ヘヴィーオブジェクト 第三世代への道 #6 |
2012年
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ヘヴィーオブジェクト 亡霊達の警察 #7 |
2013年
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アニメ版
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