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【ライトノベル】アニメ版が巨大なせいで陰ってしまった原作小説 |『ヘヴィーオブジェクト #1』| 鎌池和馬 | 電撃文庫 | 書評 レビュー 感想

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作品情報
著者 鎌池和馬
出版日 2009年10月10日
評価 75/100
オススメ度
ページ数 約372ページ

小説の概要

 
この小説は、核兵器の直撃にも耐える超高性能な巨大兵器オブジェクトに対し、生身の工兵が知恵と機転で戦いを挑むという内容の短編形式のSFライトノベルです。
 
それぞれ別個のオブジェクトとの戦いが約100ページ前後ほどのボリュームで3編収録されています。
 
TVアニメ化されており、そちらは原作小説の内容をほぼそのまま忠実に映像化し、なおかつ原作にはないオブジェクト戦も新規に追加されているなど完全版のような充実ぶりで、そちらを先に見ていると新しい情報はほぼありません。
 

あまりに原作に忠実すぎなTVアニメ版

 
この巻に収録されているエピソードは、
 
・「ガリバーを縛る雑兵達 アラスカ極寒環境雪上戦
 
戦場は極寒の地アラスカ。信心組織の第二世代オブジェクト、ウォーターストライダーによる自軍への虐殺を目の当たりにした派遣留学生のクウェンサーとレーダー分析官のヘイヴィアは、仲間を救うため生身で敵オブジェクト撃破という無謀な賭けに出る。
 
 
・「親指トムは油田を走る ジブラルタル通行阻止戦
 
戦場は大西洋と地中海を結ぶジブラルタル海峡。単独での石油採掘機能を持ち、様々な勢力に石油を供給する所属不明オブジェクト、トライコア。正統王国が兵糧ひょうろう攻めにする敵対勢力に石油を供給せんとジブラルタル海峡突破を図るトライコアに対し、クウェンサーとヘイヴィアが通行を阻止するため海上の怪物に対し破壊工作を行う。
 
 
・「蟻とキリギリスの戦争 オセアニア軍事国攻略戦
 
戦場は西太平洋のオセアニア。最新の技術を用いて大陸の緑地化を進めるオセアニア軍事国に対し、緑地化反対を掲げる現地の部族を救う名目で多国籍軍が組織される。多国籍軍の一員として現地に派遣されたクウェンサーとヘイヴィアは、オセアニア軍事国が民間人の大量虐殺を企てていることを知り、凶行を阻止するため軍の命令を無視し軍事国のオブジェクトに挑む。
 
の3つです(TVアニメ版だと1~8話までの内容)
 
『ヘヴィーオブジェクト』シリーズはアニメ版を先に視聴していたため、映像化の際に省かれている細部を確認しようと原作小説を読みました。しかし、実際に読むとアニメ版はとことん原作に忠実な作りで、新しい情報がまったくと言っていいほど見当たりません。
 
原作小説はそれぞれのエピソードが短編程度のボリュームのため、2クールと尺に余裕のあるアニメ版は全場面をほぼそのまま映像化し尽くしています。そのため、アニメ版を見た後だと初めての場面が一切存在しないという寂しい印象しか受けません。
 
それと、アニメ版は国連が崩壊し戦争が常態化している世界という設定や、軍隊描写のディテールなどがかなりあっさり目で、てっきり原作から削られているのかと思ったら、そもそも原作が短編なので話の本筋から外れる細かい設定自体が端から存在しないということも分かりました。
 

同じ短編のライトノベルで言うと『キノの旅』の世界観設定が曖昧にぼかされているのと同じですね

 
全場面忠実に映像化している上に、アニメ版はオブジェクトの戦闘シーンを『蒼き鋼のアルペジオ』などを手掛ける実力派のサンジゲンが担当し、巨大兵器を迫力ある映像で描き切っているため、原作の設定が薄い部分すら映像の力でカバーできています。
 
これは原作小説に非があるわけではなく、アニメ版があまりにも頑張りすぎている弊害で、原作を読むと改めてアニメ版の評価が大幅に向上するという結果に終わりました。
 
巨大兵器同士がぶつかるというそもそも映像向けの設定な上にアニメ版が原作を余すことなく映像化しおなかつ完成度も高いので、アニメ版の後だと原作小説はやや厳しいものがあります。
 

アニメ版よりも控え目で好ましいラブコメ描写

 
アニメ版を見て一番不満だったのがとにかく女キャラに対するセクハラのようなやり取りでしたが原作小説はさほど気になりません。
 
原作小説はヒロインや美人教官はライトノベルなのでとりあえずラブコメ要素も入れましたというオマケのような扱いで、真の主役である巨大兵器オブジェクトのスペックや兵装についての言及が大半を占めます。
 
明らかに作者は女の子のキャラに無関心で、メカや軍事兵器の設定だけ書きたいという下心が読むと一発で分かります。それなのにアニメ版はキャラクターを前面に押し出そうと余計なエロ描写を足しまくっており、原作のうっすらしたラブコメ描写までどぎつく強調され歪さが増しています。
 
非常に良くできたアニメ版の唯一の問題はここで、もう少しミリタリー色やSF色を濃くし、キャラクターではなくオブジェクトを主役にしていれば、人型ロボットではない地味なメカ同士がぶつかる作品として渋味が出たのに惜しいなと思います。
 

最後に

 
ストーリー的にはアニメ版と隅から隅までまったく同じなので何の収穫もありません。ただ、オブジェクトの兵装に関する技術的なディテールやアニメ版を見て疑問だった点(なぜあんなに戦場に兵士がいないのか?など)に対して説明があり、最低限得るものはありました。
 
原作を先に読んでいればアニメ版の完成度に心底驚けたので、順番を間違えたなと後悔しました。
 

ヘヴィーオブジェクトシリーズ

タイトル
出版年
ヘヴィーオブジェクト 採用戦争 #2
2010年
ヘヴィーオブジェクト 巨人達の影 #3
2010年
ヘヴィーオブジェクト 電子数学の財宝 #4
2011年
ヘヴィーオブジェクト 死の祭典 #5
2011年
ヘヴィーオブジェクト 第三世代への道 #6
2012年
ヘヴィーオブジェクト 亡霊達の警察 #7
2013年
 

アニメ版

 

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