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【TVアニメ】ガンプラの精神性を具現化して見せた奇跡の作品 |『ガンダムビルドファイターズ』| レビュー 感想 評価

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評価:100/100
作品情報
放送期間 2013年10月~2014年3月
話数 全25話
アニメ制作会社 サンライズ

アニメの概要

 
この作品は、アニメ『機動戦士ガンダム』に登場するメカのプラモデル、通称ガンプラをモチーフとした『ガンダムビルド』シリーズの一作目です。
 
ガンダムとガンプラ愛に満ちた登場人物たちが織り成すスポ根+コメディタッチの成長物語が見る者のガンダム愛を呼び起こし、ガンダムという作品が愛おしくてたまらなくなるほどの熱量を持っています。
 
ガンダム本編のドラマ性を笑いに落とし込みつつ、ガンプラの持つ原作設定や先入観に囚われない自由な発想でプラモデルを作っていいという精神性を見事に融合させた傑作でした。
 
潤沢な予算やテクニックだけでは絶対に作れない、ガンダム&ガンプラ愛と、ガンダムというビッグネームに物怖じしない若手スタッフの独創性によって支えられた本当に本当に奇跡のような作品です。
 

あらすじ

 
PPSE社が開発したガンプラを自在に動かせる新技術プラフスキー粒子はガンプラの在り方を変えた。プラフスキー粒子の誕生により世界中でガンプラバトルが盛んになり、世界大会の出場者はガンプラファンの間で英雄視される時代が訪れる。
 
誰よりもガンダムとガンプラを愛する中学生イオリ・セイは、モデラーとしては一流の技術を持つが、ガンプラバトルの操縦テクニックはからっきしで、ガンプラバトルでは敗北ばかり重ねていた。
 
ある日、セイは自らが作ったガンプラの能力を限界まで引き出してくれる謎の少年レイジと出会いタッグを組むこととなる。
 
二人は互いの長所を生かすため、セイがモデラーとしてガンプラを作り、レイジがファイターとしてガンプラを操縦することで、ガンプラバトル世界大会を目指す。
 

食わず嫌いを後悔させられた逸品

 
自分はガンダムという名を冠する作品群の中では、SF設定や複雑に絡み合うイデオロギー構造、軍事兵器という位置づけのロボット、各勢力の政治的な駆け引き、ガンダムの生みの親である富野監督の抑制の効いた天才的な映像センスなど、どちらかというと大人の視聴に耐えられるように作られている部分が好みなので、ガンプラでバトルするという本作はまったく興味が持てず長らくスルーしていました。
 
しかし、ガンダムとタイトルに付いているからとりあえず見ておこうとなんとなしに見始めると作り手の溢れんばかりの情熱に即魅了され、心底リアルタイムで見なかったことを後悔させられました。
 
このアニメを見る前に抱いていた子供向け作品というイメージとは真逆で、ガンダムシリーズの歴史や作法を時に尊重し、時にはおちょくり、時には完全に無視するという大胆さで、この作品を見る前と後でガンダム観がひっくり返るほどの衝撃を受けます。
 
子供の頃に見たSDガンダムのアニメ版もギャグアニメとしてはぶっ飛んでいましたが、こちらはそれに加えて作中の登場人物がほぼ全員ガンダム大好きという非常にメタ的な構造で、ガンプラバトルがど派手で見応えがある上に、元のガンダム作品からの引用も多量で常に思考も促されるという高度なアプローチを取っており、ガンダムファンほどその遊び心の濃さに度肝を抜かれます。
 
昔のガンダムがシリアスな本編と、ギャグに振り切ったSDガンダムでそれを破壊するという創造と破壊を同時に行ってバランスを取っていたのを、本作は単体作品として成立させておりそのバランス感覚は圧巻でした。
 
これを見ると最近のガンダムはシリアスなガンダムをぶっ壊す側のガンダムが絶対的に不足しているんだなと痛感させられます。
 

珠玉の完成度を誇る黒田洋介脚本の破壊力

 
本作で最も抜きんでた存在感を放つのがやはり全話の脚本を担当している黒田洋介さんの脚本の威力です。
 
自分がこれまで見た黒田洋介脚本の中でも間違いなくトップクラスの出来映えで大傑作アニメの『スクライド』級の衝撃でした。
 
同じく黒田洋介さんが全話脚本を担当している地球外生命体とのファーストコンタクトを描く『ガンダム00』も刺激的でしたですが、やはり『スクライド』のように熱血+ハイテンションコメディのほうがしっくり来るなと思います。
 
全編ほぼコメディに振り切っており、その笑わせ方は多種多様で、メインターゲット層である子供向けの平易で分かりやすい大仰なギャグから、ファーストから最新作まで映像化されたほぼ全てのガンダムを見ているファン向けの小ネタまでバリエーションが豊富で、全25話中1話たりとも退屈することがありませんでした。
 
ガンダムというシリアスで堅めな作品のくずし方が絶妙で、こんなにガンダム本編のブランドやイメージを傷つけず、ガンダムをコメディとして脱構築してしまう人もいないのではないかと思うほどです。
 
なぜかランバ・ラルがランバ・ラルのまま登場して、ゲストキャラなのかと思ったら全話フルに出続け、いつの間にかラルがメインキャラとして存在することに馴染んだ頃、ふと我に返り「そもそもなぜランバ・ラルがこのアニメにいるんだろう?」と疑問を抱くことそれ自体がギャグになるというデタラメさは笑いとして突き抜けています。
 
ランバ・ラルをそのまま登場させるという強引な出オチのように見えたものが仕込みの期間が長いジワジワと来る笑いに変容する構造など早すぎた『ポプテピピック』に見えるほどのインパクトがありました。
 
ガンダム本編に登場する有名なセリフのパロディ(「親父にもぶたれたことないのに」や「ザクとは違うのだよザクとは」など)の使い方も、『SEEDデスティニー』のようにここぞという場面で決め台詞的にカッコつけたらスベりまくって大失敗したという前例から学んだのか、本当にどうでもいい箇所での使用に留めることが多く、むしろガンダムの名台詞をここまで雑に使い捨てるほうが面白いという独自の効果を生んでいます。
 
数ある笑わせ方の中でも特に優れているのがガンダム本編にありがちな設定をそっくりそのまま現実世界の話に置き換えギャグにしてしまうアイデアでした。
 
正体不明の仮面の男が出てくるとか、フラナガン機関やムラサメ研究所のような謎のガンプラ研究機関がニュータイプのような少女のガンプラファイターに対して人体実験をしているとか、Gガンダムのドモンと東方不敗のような師弟関係をそのままガンプラに持ってくるとか、そもそもガンプラバトル自体がGガンのガンダムファイトそのものなどなど。
 
アムロとララァ、カミーユとフォウ、シン・アスカとステラのように偶然に出会い互いに好意を抱いたのに後に戦場で敵として再会するという、戦争という状況下だと悲劇になるような展開がガンプラバトルだとコメディになるのが新鮮でした。
 
ガンダムから戦争という重い設定を一つ外すだけで、なぜ仮面を被って素顔を隠すキャラがいるのか、それによってどのような人間関係を作りドラマを演出するのかというありがちな構造が丸裸となり結果全てがコメディ化するため、ガンダム本編のような展開をなぞればなぞるほど面白くなるというパロディギャグアニメとしては理想的な作品になっています。
 
笑い以外にも、芸能人がガンダムが好きでもないのに芸能界で売れるためにガンダム好きのフリをすることに対して辛辣極まりない描き方をするなど、子供向けのアニメにしてはかなり攻めているような内容で驚かされました。
 
ガンダムの公式作品で、ここまで好きでもないものを好きなフリをするような人間に対して明確な怒りを表明するというのはある種痛快でもあります。
 

ガンプラの自由性そのものを体現するような若々しい作風

 
黒田洋介脚本がガンダム本編のシリアスなドラマを逆手に取ってコメディ化するというベテランのような高度なことをやっているなら、固定観念に囚われない自由なガンプラ精神を見事体現して見せるのが若手スタッフの独創性溢れる映像表現の数々でした。
 
特に凄いのがほぼ全話クオリティの高さが維持されるガンプラバトル描写です。エフェクト以外はほぼCGを使わず手描きでメカを動かしているのでさすがにいつか息切れするだろうと思っていたらなんと最終話までまったく衰え知らずでガンプラが縦横無尽に動き続けるため、その根性に圧倒されました。
 
ガンプラ同士のバトルは、時には元のガンダムの設定を尊重したり、時には自分たちのやりたいことを優先して元のモビルスーツの設定を大胆に無視したりと、原作のガンダムにただ従順なだけのオマケ作品にはなりたくないという明確な意志が宿っており、その荒々しさには好意を持てます。
 
ガンプラバトル以外の日常シーンも、テクニック的にうまいというよりも非常に勢いを感じさせるような大胆な構図、奇抜な色使い、撮影効果や省略表現が多用され、その洗練され過ぎない若々しさを感じるような演出タッチが作風とマッチしており、多少作画が粗かろうが気にもなりません。
 
このような自己主張が強烈な作風が、原作の設定を再現してもいいし、自由にパーツを組み替えてオリジナルの機体を作ってもいいというガンプラというおもちゃの在り方と化学反応を起こし、作品にマジックがかかっています。
 
このガンプラを描くアニメの姿勢が極めてガンプラ的と言う最高の組み合わせのおかげで、アニメを見ていてこの世界やこの世界の住人たちが愛おしくてたまらなくなり、物語が永遠に続いてくれればいいのにと願うほど作品の虜になりました。
 
多分これと同じものをもう一回作るというのは不可能なほど、あらゆる要素が完璧に噛み合っているため、奇跡の一作としか言いようがありません。
 

不満あれこれ

 
本作は全体的にそれほどハイクオリティというわけではなく、欠点もそこそこ目立つものの、大半は作品への好感度によって掻き消される程度のもので別段気にもなりません。
 
そんな中で一番引っかかるのが子供向けのアニメなわりにお色気シーンがややセクハラ的なことです。
 
ガンダム本編でもこんな中学生の女の子の胸が大きい小さいを弄るセクハラ的なやり取りなんてあったっけと思うほど露骨なのでここは絶対にダメだと思います。
 
それに主人公の母親の声優が三石琴乃さんなため、SEEDやSEEDデスティニーで声を演じていたマリュー・ラミアスと引っかけて巨乳設定で、その結果巨乳で胸が揺れまくる主人公の母親が作中で一番エロいという、子供向けとは思えないほど倒錯しているのもさすがにどうかと思います。
 

最後に

 
ガンプラを通して少年が友情を育み成長していく王道の物語でもあり、『ポプテピピック』のようなセンスの良いナンセンスパロディギャグアニメでもあり、ライバルたちとの熱いガンプラバトルを堪能できるロボットアニメでもあり、なによりもガンプラというおもちゃの魅力をこれでもかと描ききったガンプラアニメとしては最高の出来映えで、ただただこれほどまでの完成度の作品を作り上げたスタッフに称賛しかありません。
 
見たら確実にガンダムとガンプラが好きになること請け合いの、奇跡の大傑作!
 

ガンダムビルドシリーズ

 

 

 

 
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