PV
評価:80/100
放送期間 | 2014年10月~12月 |
話数 | 全13話 |
アニメ制作会社 | エイトビット |
アニメの概要
この作品は、同名のアダルトゲームを原作とするTVアニメ版です。
原作ゲーム版は未プレイです。
TVアニメとしては16:9の標準アスペクト比ではなく、横長のシネスコサイズで制作されており、これが本作のサスペンス性と相性が抜群によく作品の価値をより高めていると思います。
全体的にハーレム要素がくどく感じる部分もありますが、凡庸さを巧みに避けるテンポの良い会話劇や、それを支える声優の演技力など、作品の至るところからセンスが溢れ出ており全体的にハイレベルな出来でした。
シネスコサイズの画面がもたらす確かな緊張感
原作がアダルトゲームであるのと、過去に『インフィニット・ストラトス』というハーレム要素がかなりキツイ作品を手掛けたエイトビット制作の深夜アニメなため、見る前はかなり不安がありました。
しかし、ハーレム要素はあるものの、天衝監督がコンテを担当している1話と2話含め序盤はやや強引にでもキャラを立てていく軽妙なテンポと、主人公の謎だらけの設定を生かしたヒロインたちとの間合いの取り方。ハーレム要素を半ばギャグ的に処理するユーモアのセンスや、間の外し方を心得ている良い意味で不自然極まりないセリフ回しなど、そこらのハーレムアニメとの格の違いを見せつけられ、不安は払拭しました。
そして、このアニメで最も印象的なのは、ただ会話しているだけの場面でも常時落ち着かない、次の瞬間どんな事態に陥っても不思議はないと身構えさせられるただならぬムードでした。この常時サスペンスがスタンバっているかのような緊張が解けない状態を作るのに一役買っているのが、画面の上下に黒帯を作り否応なく意識を画面の中央に引き寄せる効果を発揮するシネスコサイズのアスペクト比。
アニメ版の『僕だけがいない街』も同じく作品の一部にシネスコサイズを採用していたのに、ただ過去であることを示す説明と、何となくのノスタルジックな雰囲気程度の役割しか果たせておらず、あまりサスペンスアニメとして有用に使いこなしているようには思えませんでした。
TVアニメでわざと不自然なシネスコサイズを採用するということは、このような画面の上下の黒帯に不安を忍ばせ、映像に作為的な圧を加える働きがあり、うまく使いこなせばサスペンスアニメにはこれ以上ない強力な武器になると思います。
改めて『僕だけがいない街』を見直してみても、やはり本作のほうが遥かにシネスコサイズを採用したことで見る者の不安感を煽るという狙った効果を的確に出せています。
それに、16:9のアスペクト比に比べ画面を引き締める効果もあり、本作を見た後に続けて通常のアニメを見ると映像が弛緩してだらしなく見えてしまうため、シネスコサイズを採用したことは何から何までプラスでした。
CGを違和感として利用する手腕
『マクロスF(フロンティア)』など、CG使いに秀でたアニメを手掛けるサテライトから独立したエイトビットらしく、CGの主観ショットや、動く背景、通常の平面のPAN撮影にCGのダイナミックなカメラワークも加え、しつこくならない程度にデジタルの質感を混ぜる手法も通常のアニメとは異なる感触を出すのに効果を発揮していると思います。
サスペンスアニメというジャンル上、CGを用いる場面は違和感として機能するため、普通のアニメならデジタルの感触はやや不快に感じるものの、本作ではどちらかというと好意的に見ることが出来ました。
ヒロインのガッカリ過去エピソード
映像周りの工夫は胸躍るものが多く、画面を見ているだけで楽しめました。しかし、問題は原作ゲームで言うヒロインの個別ルートっぽい話に入った後の凡庸さです。
主人公たちの他愛もない日常描写は刺激的なのに、肝心の個々のヒロインが過去の重いトラウマに向き合う個別エピソードに入ると途端に説明臭くなり退屈さが増すため、日常が退屈で事件が起きると刺激が増す普通の作品とほぼ真逆の印象を受けます。
(最後のエピソード以外の)ヒロインたちの抱えるトラウマが若干ありきたりで貧弱なため、序盤にヒロインたちが見せる不審な挙動に対して、なぜそのような奇怪な行動に走ったのか種明かしされると、逆になぜその過去からこの挙動に至るのかが飛躍して繋がらなくなり、むしろ混乱します。
序盤に見せる不審すぎるヒロインの行動に対して抱えるトラウマ描写があっけなさ過ぎて、この事件によってヒロインたちの精神が歪んだという話の説得力が極めて乏しく、何ら訴えてくるものがありません。
唯一、ラストのエピソードである、ほとんど漫画の『漂流教室』的ですらある遭難サバイバルエピソードはヒロインの個別のエピソードの中では最も見応えがありました。
ただ、主人公が一切登場しないエピソードが突拍子もなく始まり、全体の4分の1ほどの尺を占有し延々と続くため、ここまで積み上げてきたノリが一旦リセットされてしまうようなぶつ切り感も覚えます。
それに、長々と描いていた割にサバイバルエピソードの終盤は急に展開が粗雑になり、なぜここまで引っ張っておいて最後の最後で話を綺麗にまとめ損なってしまったのかと、少々脚本に不満が残りました。
エロがしつこい!!
本作は終始無理やりなダイジェスト版にしか見えず全編ツッコミどころだらけなので不満は多々あるものの、中でも突出しているのがまったく場面の空気を読まないエロ描写の数々です。
最低最悪なタイミングで突然ローアングルになりスカートの中のパンツがドアップになるなど、緊迫したシーンを一気に台無しにするタイミングでエロ描写が挟まれることが多く、作り手の正気を疑う瞬間が何度かありました。
なぜ、わざわざ緊迫した状態を作ってから大事な局面でパンツを見せ、それらを台無しにしたがるのか意味が分かりません。
人が死にかけている深刻な場面でもパンツを見せ、ある人にとって大事な人が生きるか死ぬかという瀬戸際でも不自然にパンツを映しと、自分たちが積み上げたものを病的なまでのエロ描写で自傷を繰り返すため、若干作品が病んで見えます。
エロが挟まれるタイミングが最悪すぎてほぼ1%もサービスになっていないどころか、場面の緊張感を殺す以外何の役割もない箇所が多いせいで、得体の知れない気味の悪さまで感じました。
正直、ヒロインたちの過去のトラウマによる精神の病み具合よりも、このパンツと乳首で全てを台無しにし続ける作品の自傷体質のほうがよっぽど深刻です。
日本のアニメは視聴者をただのバカだと思っているかのようなエロ描写が散見され、バカを基準に物を作るという安易な姿勢は絶対に避けて欲しいと思います。
最後に
映像のテンポだけで強引に話の矛盾を押し切ろうとする態度や、エロ描写の無駄なしつこさ、各ヒロインの個別エピソードの扱いにムラがあり過ぎるなど、欠点が多く手放しで絶賛する気にはなれません。
ただ、サスペンスアニメとしては斬新な手法が数多く試されており、その部分は大変刺激的でした。
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