著者 | 佐藤航陽 |
発売日 | 2015年8月27日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆☆☆ |
ページ数 | 約254ページ |
本の概要
この本は、IT企業の創業者として数多くのビジネスを成功させた著者が、未来予測のコツを伝授するビジネス書です。
基本は、テクノロジーの性質を学ぶことで未来予測の基礎を鍛え、過去に起こった出来事から一定のパターンを抽出しそれを未来に当てはめるというアナロジー(類推 )の手法で未来を予測するテクニックが解説されます。
同じ著者の『お金2.0』というビジネス書も読みましたが、この『未来に先回りする思考法』のほうが遙かに内容が濃く有益でした。2015年に出版された本ながら未来予測のテクニックは現代にもそのまま通じるため古さを感じません。
この本を読むとトップビジネスパーソンたちがどのように未来を予測し動くのか、その思考法の一端を知ることができます。
ちなみに同じ著者の『未来予測の技法』という本は、この『未来に先回りする思考法』を再編集したものですが、100ページ近く削られた結果ほとんど別物のような薄っぺらい本になっており、こちらのほうが遙かに内容が充実しています。
念のため2冊とも読みましたが『未来予測の技法』は中身がスカスカで読むだけ時間の無駄です
テクノロジーとビジネスのパターンを覚える
この本は『未来に先回りする思考法』というタイトルそのままに、一冊丸ごと未来を予測するテクニックの解説に絞られており、非常に一貫性があります。
ビジネス書の中には売り上げのために内容と乖離したデタラメなタイトルが付けられた物も多くありますが、この本は一見バラバラな話題を扱っているように見えても実は未来の予測という一点に集約するような書き方で、最初は点だった情報が徐々に線として繋がっていく確かな手応えがありました。
肝心の未来予測のテクニックは、歴史をアナロジカルな視点で見ることで過去の出来事から未来を予測するという『世界史の極意』という本と実はそれほど変わりません。
過去の歴史を勉強するとアナロジーで未来に起こる出来事がある程度予測できるのと同様に、テクノロジーの進化の歩みを流れで捉えることで、過去の出来事から何度も繰り返されるパターンを発見し、それを元に未来を先読みするというオーソドックスな内容です。
しかし、ズルをしない正攻法ゆえにすぐ賞味期限が切れて陳腐化してしまうビジネス書とは違い、2015年の本ながら今読んでもまったく古さを感じません。
しかも、著者が実際にシンガポールで起業し、ビジネスを成功させたエピソードも同時に語られるため、ただの絵空事の理論ではなく、このやり方で結果を出したという確かな説得力があります。
テクノロジーの性格を学ぶことで未来を読む
この本で最も知的な興奮を覚えたのがテクノロジーの性質に関する独自の理論でした。
特に収穫だったのは、テクノロジーの普及には準備期間があるという話と、テクノロジーが社会を変えるタイミングを適切に読むべきという二つの指摘です。
自分は最初に動画配信サービスに触れた際に、アニメで作画をチェックするためのコマ送りが出来ず「こんな使い勝手の悪いサービスが流行るわけがない!!」と決めつけ、その後もずっとDVDなどの物理メディアを中心に映像作品を見続けました。
しかし、ふと気付くと物理メディアは完全に終焉を迎え、動画配信サービスが主流になっており、自分の読みが完全に甘かったと反省させられました。
それ以外にも、ゲーム機である初代プレイステーションで3Dポリゴンで作られたゲームを初めてプレイした時も滑 らかな動きの2Dドット絵に比べてカクカクした動きでぎこちないと感じたり、オンラインゲームのサービスが始まった時も、こんなエンディングがなくダラダラ続けるゲームなんて誰がやるんだろうと疑問に思ったりと、今思い返すとあらゆる最新のテクノロジーに触れる際は、まず拒絶反応から入ることがほとんどでした。
この本を読むと、テクノロジーが生まれた直後の移行期はストレスだらけの準備期間であり、ここで性急に「今まで使い慣れた物に比べ、こんな不便なものは流行らない」と判断を下すと失敗することが分かります。
大事なのは、目先の便利・不便という感覚ではなく、テクノロジーがどのような流れで社会に浸透していくのか過去のパターンを分析することで、それが未来予測の心構えとして重要であるとこの本には書かれています。
加えて大事なのがテクノロジーが社会を変えるタイミングの測り方で、現在ではまだ不便さが先に立ち敬遠されるようなVRやARという技術や、ストリーミング形式でゲームをプレイするクラウドゲームサービスなど、まだまだ準備期間であるテクノロジーやサービスは無数にあり、これらがいつ主流に変わるのかそのタイミングを測ることも重要であると気付くことが出来ました。
しかも、テクノロジーは普及していく段階で人間とテクノロジーの主従が逆転し、人間がテクノロジー側に合わせるように生活環境や思考が変わっていくという鋭い指摘もされています。これは動画の倍速視聴や、ファスト映画などの問題とも絡んでおり、まさにこの本に書かれていることは現在進行形で起こっている社会や人間の生活習慣の変化そのものでした。
再編集ではなくただの総集編
ここからは本の内容とずれるので読み飛ばしてもOKです。
Amazonでこの本を調べるとより新しい版として『未来予測の技法』という本が紹介されますがこれは嘘です。
『未来予測の技法』は、この本を再編集したものと説明されておりパッと見同じような内容と勘違いしますが、実際は100ページ近くも内容が削られており、ほとんど別物の本にしか思えないほど受ける印象が違います。
全体的に結論部分だけを抜き出し、なぜそのような結論に至るのかという大事な説明箇所を省いてしまっており、ただ強引な持論が並んでいるだけの根拠が薄い本になっています。
例えるなら、全50話のTVアニメの主要な展開だけ抜き出し3話や4話の総集編にまとめたような中身の薄さで、絶対に『未来予測の技法』を先に読んではいけません。
後で読む必要もまったくありません。2冊とも読みましたが『未来予測の技法』はただの劣化版です
最後に
著者である佐藤航陽さんの本は『お金2.0』のほうを先に読みましたが、確実にこの『未来に先回りする思考法』のほうがビジネス書としては内容が濃く読み応えがあります。
『お金2.0』はこの本に書かれている“分散化”や“価値主義”など一部のアイデアをより膨らませたような内容です
この本を読むと、トップビジネスパーソンたちがどのような戦略と心構えでビジネスに挑むのかその一端を覗くような興奮が味わえるため、刺激的なビジネス書を求めているなら最良の一冊です。
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