評価:85/100
公開日 | 2019年1月12日 |
上映時間 | 117分 |
アニメ制作会社 | ufotable |
アニメの概要
このアニメは、タイプムーンがPC向けに発売したノベルゲーム『Fate/stay night』の3つあるルートの内、最後にあたる桜ルート(ヘブンズフィール)を全3部作として劇場アニメ化したものの2作目です。
家庭用ゲーム機への移植版である『レアルタ・ヌア』ではなく、元のPC版をベースに作られているため、『レアルタ・ヌア』ではぼかされていた桜にまつわる凄惨な設定がそのままで、桜ルート本来のポテンシャルを発揮できています。
それに、原作に対して非常に理解があるスタッフが作っているおかげで、TVシリーズ版の『アンリミテッド・ブレイド・ワークス(以下、UBW)』同様に原作のテーマ性が丁寧に整理されており見やすいのも特徴です。
無難でやや退屈だった劇場版1作目に対して、2作目からは劇場アニメ版独自のアレンジがより効いており面白さが飛躍的に向上します。
まさかのPC版ベースの過激な桜ルート
これまで映像化されたFateシリーズは、ほとんどがPC版から性的な要素を抜いたものか、元々はPS2用に移植版として作られた『レアルタ・ヌア』をベースにしていました。しかし、本作は元のPC版の桜ルートをベースとしておりPC版には存在するシーン(士郎と桜のSEXシーン)も多少表現がマイルドになった程度でほぼそのまま入っています。
劇場版の1作目は、生活感を出すために士郎や桜の学園生活や日常の風景を丁寧に切り取るとか、原作では真アサシンの宝具で速攻で殺され退場するだけのランサーの戦闘シーンを長めに見せるなど、事前に予想できる程度のことしか起こらず、さほど面白いとは思えませんでした。
それがこの2作目からPC版の色が濃くなりTVシリーズでは描けないような過激なシーンが増えるのと同時に、独自アレンジも加えられ面白さは劇的に向上します。
元々、PC版の後に家庭用ゲーム機向けに移植された『レアルタ・ヌア』をプレイしたら桜ルートだけが他のルートとは別物に変わり果ててしまい、このルートのみ印象がよくありませんでした。そのため、てっきりこの劇場アニメも移植版をベースにしているのだと思い込んでいたのでPC版ベースなのは嬉しい誤算です。
移植版である『レアルタ・ヌア』の桜ルートは、聖杯が穢れた原因であるこの世全ての悪 とと、世界そのものを憎む桜の想いがリンクするという部分の説得力が皆無で到底好きになれません。
PC版だと周囲から理不尽に憎悪を押しつけられ悪そのものの根源に仕立て上げられたアンリマユと、心を踏みにじられ続けられた桜の心が重なるという展開は自然なのに、『レアルタ・ヌア』だと恋敵である遠坂凜への嫉妬が原因の姉妹ゲンカにしか見えず、結果アンリマユが背負う世界への憎悪まで軽く感じます。
アンリマユ側の事情が描かれるゲーム『Fate/hollow ataraxia 』をプレイすると、やはり桜ルートは士郎と桜の話であると同時に、桜を介したアンリマユの話でもあると思え、桜の世界への憎悪が弱いとアンリマユの存在も同時に薄まって見えます。
それが本作はPC版をベースにしているため、桜が抱く生まれてからずっと自分を無慈悲に苦しめ続ける世界そのものへの憎しみ、幸せな他者への嫉妬、愛する人への肉欲や独占欲が生々しく描かれ、その結果聖杯に潜むアンリマユと精神が同調し呑まれてしまうという部分に説得力があり事前の懸念は払拭されました。
明らかに劇場版を作っているスタッフは過激さを求めたというより『レアルタ・ヌア』基準だと桜ルートだけ極端にヌルくなってしまい、他のルートに劣ってしまうということを理解しており、PC版を基準にしたのは英断だと思います。
『レアルタ・ヌア』のふぬけた桜ルートを映像化したってどうせ何も面白くはならないだろうと思っていたまさにその部分の問題点をこの劇場版はピンポイントで克服しており、原作をしっかり熟知しているスタッフが作るとこうも安心感が漂うのだなと心穏やかに見ることが出来ました。
ufotableの作風と相性抜群の桜ルート
ufotableがアニメ化した『Fate/ZERO 』は原作小説とアニメ版を比較しても何の不満もありませんが、TVシリーズ版の『Fate/UBW』のほうはアニメのクオリティは高くても、そこまで好感を持てません。どうして少年マンガ的なテンション上がりまくりの超熱血ストーリーである凜ルート(UBW)をあれほど暗くて鬱々とした部分だけ強調し文芸作品のようなトーンに変更するのか意味が分からず疑問でした。
しかし、この桜ルートは別で、鬱々としていればいるほど、暗ければ暗いほど、救いがなければないほど雰囲気的にプラスに働くため、UBWでマイナスに感じた部分は全てプラスに転じており、改めてufotableは『空の境界』や『Fate/ZERO』、『Fate/stay night』の中ではこの桜ルートのように陰々滅々とした暗いトーンの話がしっくりくるなと思います。
原作への理解が深いという点は凜ルートも桜ルートも同様で、この点には全幅の信頼が置けます。
UBWでは、士郎が第4次聖杯戦争によって引き起こされた大火災で自分だけ生き延びてしまった罪悪感に苦しみ続ける様をしつこく描写し、その士郎を救うため凜に自分の命をないがしろにして他者を救おうとするな、自分自身こそをなによりも大切にしろとしつこく説教させることで、士郎が抱える根深い心の問題を明解に浮かび上がらせることに成功しており、原作よりも遙かにメッセージが理解しやすかったです。
UBWと同じく、桜ルートも士郎が漠然とした正義の味方であることをやめ、唯一桜だけの味方になることを決意するという部分のメッセージが整理され一回見ただけで内容がすっと頭に入ってくるので、ここも原作を深く理解しているスタッフが作ると段違いだなと大納得でした。
さらに『Fate/ZERO』の後なので、生涯すれ違いが解消されることがなかった衛宮 切嗣 とイリヤの関係を思うとより心が痛むのと、切嗣が人類全体を救うより、士郎一人を助けることに意味を見い出した場面がフラッシュバックするため、桜ルートは様々な関連作品を経てより話の厚みが増したなとも思います。
後の役割に応じたサーヴァントの戦闘シーン
劇場版1作目は正直あまりアクションがしっくりこなかったのが、今作は役割に応じてアクションそのものの質を変えているので見応えがありました。
後に士郎が対峙するセイバーオルタやバーサーカーは到底人間の立ち入ることが出来ない領域の戦いをさせることでこんな化け物と後々やりあうのかという恐怖を植え付け、それ以外は割と地に足付けたアクションをスタイリッシュに描くという描き分けがされており、前作よりは確実に楽しめます。
特に原作では簡単にやられるバーサーカーが12回殺さないと死なないという宝具の特性を逆に利用してセイバーになぶり殺しにさせることで、アンリマユに触れ変貌してしまったセイバーの非情さに説得力も出せており、ここは原作よりも遙かに優れていると思います。
おわりに
『レアルタ・ヌア』での変更があまりに酷すぎて桜ルートに対して悪い印象しかなかったのが、セイバーとバーサーカーの激しい戦闘シーンや、士郎と桜二人の心の揺れ動きが丁寧に描かれる本作を見たらぐっと好きになれました。
己との戦いを経て最終的に気合いと根性で最強のサーヴァントに戦いを挑む熱血展開に収束する凜ルートが正直一番好きですが、桜ルートの感情表現の繊細さや『月姫』で言うと秋葉編のような二人だけの閉じた世界に至るムードも好みだなと気付かせてくれた本作には感謝しかありません。
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