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実力派SF作家冲方丁が紡ぐ、対話の可能性に懸ける死の旅路 「蒼穹のファフナー EXODUS(エグゾダス)(2期)」 〈レビュー・感想〉

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OPアニメーション

評価:95/100
作品情報
放送期間 前期:2015年1月~4月
後期:2015年10月~12月
話数 前期:13話 後期:13話
全26話
アニメ制作会社 XEBECzwei
3DCG制作 オレンジ

短評

 
 1期と同様に作家冲方 丁うぶかた とうが作品全般に関わっているため、親と子が互いに理解し合い成長していく群像劇としても、宇宙から飛来した未知の生命体フェストゥムと共存の可能性を模索し続けるSFとしても見応えがある。
 
 しかし、旧キャラが活躍しすぎで新キャラの存在感が薄く、しかも終盤は同時に複数のラインのストーリーをまとめて詰め込んだせいで処理が追いつかず、ぐちゃぐちゃなまま終わるため余韻はイマイチ。
 
 ファフナーやフェストゥムは劇場版の『ヘブン・アンド・アース』同様にオレンジによるCGだが、1期の手描きよりも豪華さは数段上で、スピーディな戦闘が堪能できる。
 
 旧キャラを優遇しすぎで新キャラの出番が少なく、ラストもあわただしく雑に終わるなど不満は多いが、相変わらず舞台となる竜宮たつみや島もそこに住まう人たちも全員愛おしく、しかも過去作のキャラはほぼ全員登場するため群像劇としての面白さは文句なし。
 

冲方丁の作家性が存分に発揮される傑作ロボットアニメシリーズ

 
 この作品は2004年に放映されたTVシリーズ『蒼穹のファフナー』とTVシリーズの前日譚であるTVスペシャル番組『蒼穹のファフナー ライト・オブ・レフト』、TVシリーズの北極決戦から約2年後を描いた劇場アニメ『蒼穹のファフナー ヘブン・アンド・アース』と登場人物や世界観を完全に共有するTVシリーズの2期です。
 
 過去作の中でも劇場版の『ヘブン・アンド・アース』との繋がりが最も強く、時代は劇場版から3年後で話もほぼそのまま繋がっています。そのため初代のTVシリーズ(1期)だけ見ていても細かい設定や話の繋がりが理解できません。
 
 初代のTVシリーズを見たのはもう15年くらい前なのでさすがに物語もキャラクターも設定もほとんど忘れており、今作を見る前に1期のTVシリーズとその前日譚の『ライト・オブ・レフト』、劇場版の『ヘブン・アンド・アース』を全て見直してから2期に臨みました。
 
 

 
 1期は、前半部分がシリーズ構成・脚本ともにひたすら平板で起伏がなく、後半ようやく本作の中核スタッフである冲方丁さんが脚本を担当し出すと一気に物語に波が生まれ面白くなるのは今見てもまったく同じです。
 
 しかも昔と違って冲方丁さんの小説を読む習慣も出来たため、よりファフナーという作品に流れる冲方丁らしさを敏感に読み取れるようになり、初めて見た時よりも数段作家性を意識させられました。
 
 一流のSF作家である冲方丁さんが作品全体をコントロールしていることもあり、今見ても宇宙から飛来した未知の生命体フェストゥムとの対話を主軸としたSFとしても、人類が滅亡寸前で今はもう地球上のどこにも存在しない平和という文化を後世に残すため建造された人工島という竜宮島の設定も充分通用するなと思います。
 
 ただ、単純にアニメとしての完成度は今見るとかなりキツく、CGは最小限で画面に映る物はほぼ手描きでリッチな反面、キャラクターの演技は杜撰ずさんで、演出も古臭く特に撮影によるズーム処理はパッと見死ぬほどダサく、ファフナー(ロボット)の動きもカクカクでほぼまともに動かず、しかも画面のアスペクト比が現在のワイドな16:9でなくほぼ四角い4:3で見辛いと、最近のアニメに見慣れていると辛いものがありました。
 
 しかし、それに比べ2期は背景美術の情報量が飛躍的に向上し、特にタイトルとも関係する吸い込まれそうなほどの奥行きを感じさせる青空に目が釘付けとなり、1期とは比べものにならないほど画面が豪華になりました。
 
 しかも、劇場版の『ヘブン・アンド・アース』と同様にメカ全般がオレンジによるCGへと変化し、1期と比べファフナーが動いていてしょぼいと感じることは一切なくなりました。結果、単純なTVアニメとしてのクオリティは1期とは比べものにならないほど向上しており、2期は画面がしょぼくて物語に入り込めないなどという問題とは無縁です。
 

冲方マジックで徐々に身内化していく竜宮島の愛おしき島民たち

 
 最初にTVシリーズを見た際は『新世紀エヴァンゲリオン』フォロワー作品の中では青春群像劇要素が強く少年少女の葛藤を描くことに主軸を置いたロボットアニメだなくらいの感想だったのが、再び見直すと作品から受ける印象はまるで異なります。その最大の原因は冲方丁という作家に対する理解の差です。
 
 昔は冲方丁という作家に対して無知だったため、そもそも作品の中のどこに注目すればいいのか見当が付かず漠然と見ていました。しかし、今は冲方作品がどのようなSF的アプローチを取るのか、キャラクターの内面をどう肉付けしていくのかといった細かい癖もなんとなく読めます。
 
 特に、『マルドゥック・スクランブル』の前日譚である『マルドゥック・ヴェロシティ』を読んだことが冲方丁という作家に対する認識の大きな転換点でした。
 
 ボイルドという元々冷酷で内面が読みづらい殺し屋として登場したキャラクターの心情の移り変わりを赤裸々に描くことで当初のミステリアスなボイルド像を見事にひっくり返し、誰よりも傷つきやすい繊細な心を持った等身大の一人の人間として成立させてしまう離れ技を見せられ、冲方作品の大きな魅力は過去の罪や、何か(誰か)へ依存してしまう心の弱さと深く向き合い対話を重ねることで登場人物の変化を描くという人間描写にあるのだと気付けました。
 
 このヴェロシティを読んだ後だと、ファフナーもまた誰も彼もが過去の罪や己の心の弱さ、他者への深刻な依存体質と向き合い続ける話であると分かり、ぐっと物語に入り込みやすくなります。
 
 ファフナーという作品は、冲方丁が得意とする、最初は否定していた決して他人に覗かれたくない心の傷と向き合いそれを自分自身として受け入れ変化していくという青春群像劇としての切れ味と、親も子も両方不完全でそれぞれが互いから自身に欠けている何かを学んでいくという厳しくも温かい家族の再生・成長物語とが結びつき、最後は己の弱さと向き合った者たちが苦悩を経たからこそたどり着けた竜宮島という何物にも代え難い楽園に説得力が生じるという、まさに冲方丁という作家が中心にいるからこそ成立する傑作なのだと理解できます。
 
 登場人物たちと深く悩みや苦しみを共有するからこそ、とにかく全キャラクターあまりに魅力的で愛おしすぎて、誰も傷ついて欲しくないし、誰も死んで欲しくないと、戦闘が始まる度に気が気ではありませんでした。これほどまでに全員一人残らず余すことなく幸せになってくれと祈り続けるロボットアニメは『∀ガンダム』以来久しぶりです。
 
 それでも情け容赦なく死者が出るのは1期と同じで、誰かが戦死しては泣き、それを家族や仲間が慰め合って乗り越えては泣きと、何度泣いたのか分からないくらい泣き続け、途中から「どれだけ子供を死なせるんだ、いい加減にしろ!!」と怒りまで湧き出し、1期とは比べものにならないほど心が揺さぶられました。
 
 ただ、旧キャラが目立ち過ぎるせいで、新キャラの一見何も起こらずとも後に大切な想い出と変わる友達や家族との日常描写が弱いことや、新キャラがあまり大人に反発する機会を与えられず成長過程がおざなりという問題、何よりもラストがごちゃごちゃし過ぎでまとまりがない上に、それまで善人だった人が雑に悪人化してしまうとか、その他大量の課題が山積しており決してストーリーがキレイにまとまっているとは思えません。
 
 それでも数話に一回は泣き続けるほどキャラクターと竜宮島が大好きで、ここまで入れ込んでしまうほど魅力のある世界を作れたのなら細かい不満は積極的に目を瞑りたいと思ってしまいます。
 

アスランとカガリとレイ・ザ・バレルがいるように見えますが多分涙で視界が霞んだせいで見間違えたんでしょうね

 

各エピソードを引っ張りすぎて深刻な渋滞を引き起こしてしまう終盤

 
 今作はややキャラクターの魅力に頼り、無理のある展開を強引に押し通したなという印象が強く残りました。
 
 最初は宇宙から飛来する人類ではどうすることもできない強大なフェストゥムと対話を志し命を賭けた大移動を決行する勢力と、フェストゥムとの共存を拒み戦争を望む勢力が人類同士で争う話なのかと思いきや、最終的にはそれ以外の思惑もぐちゃぐちゃに絡んで収拾がつかなくなるため目論みはやや失敗していると思います。
 
 どうして序盤で弓子を敵のスパイなのではないかとミスリードさせるような見せ方をしたのか、それまで一緒に共存を目指して戦ってきた仲間が納得できないまま唐突に敵に変貌する、ここでこのキャラ死ぬ必要ないだろという変なタイミングで戦死するパターンが増え出すなど、後ろに行けば行くほど後回しにしてきた問題を雑に処理しだすため、印象は悪化の一途を辿るのみでした。
 
 このせいで、幾人もの犠牲者を出す過酷な旅路を経てようやく掴み取ったフェストゥムとの対話の可能性という本作最大の見せ場が、他のどうでもいい問題に圧迫され適当に片付けられたように感じ余韻はイマイチでした。
 
 最後の最後で全ての問題を一気に解決したかったのか、途中途中で決着をつけながら進めばいいだけの細かい問題がラストに集中しすぎてしまい、ただ単にパンクしただけにしか見えません。
 
 とにかく展開は急で雑な上に、延々視聴者置いてきぼりでキャラクター同士で固有名詞だらけの観念的な会話をし続けるので、エヴァやそのフォロワータイトルでありがちな全てをうやむやにして終わらせるような後味の悪さで、ここは正直1期よりも酷いと思います。
 

オレンジが手掛けるおかげで半端な手描きを凌駕して見せるも脚本が足を引っ張るCGファフナー

 
 ファフナーとフェストゥムは劇場版の『ヘブン・アンド・アース』同様にオレンジによるCGとなり、少なくとも1期のカクカクしてまともに動かなかった手描きのファフナーと比べたら遙かに豪華です。
 
 
同じくオレンジがメカCGを担当しているロボットアニメ

 
 
 手描きによるフェチ全開の細かい作画(各種メカとのドッキングシーンや敵にルガーランスを突き立て強引に体をこじ開けコアを露出させる描写)が味わえないのは残念なものの、全体的に2期のほうがファフナー関連のシーンは見応えがあります。
 
 しかし、2期の問題はファフナーが手描きかCGかというより、あまりにもご都合主義展開が多すぎること。ピンチになると奇跡が起こったり、謎のパワーアップをしたり、唐突に援軍が登場したりと、あまりドラマ部分と戦闘部分がリンクしておらず、よく分からないけどとにかく謎の現象で勝てたという内容ばかりで、正直1期に比べると個々の戦闘がまったく記憶に残りません。
 
 1期のようにきちんとパイロットの精神的な成長と戦闘部分をリンクさせたり、北極決戦のような厳格な作戦プランを用意したりといった工夫がないので、全話見終わった後に戦闘シーンを思い出そうとしてもほとんどどんな状況でどんな敵と戦ったか忘れてしまっており、映像よりも脚本の問題のほうが遙かに深刻に感じました。
 

最後に

 
 全体的に画面のCG比率が飛躍的に増えたため手描きの温かみはやや後退したものの、さすがに1期の画面は今見るとどれもペラペラに見えるので時代に応じて正統進化していると思います。
 
 1期が大人に優しく見守られながら成長する話だったのが、今度は大人視点で子供たちが成長するのを見守る話となり、そのせいで子供が傷つく度に泣き続け、1期とは比べものにならないほどキャラクターが身近に感じられその心情に寄り添えました。
 
 シナリオ担当の冲方丁はじめ、主題歌を歌うangelaやその他スタッフ一丸となって真心を込めて作品を育て上げた結果、竜宮島の島民たちに愛着が生まれ、総士たちがジークフリード・システムでパイロットと感覚を共有するように、見ているこちらも全島民の痛みを共有してしまい起こる出来事全て他人事とは思えません。
 
 まさかファフナーが大人視点で子供たちを見守る話となることでこれほど大傑作に化けるとは夢にも思わず、自分の好きなロボットアニメの中でも上位に入るほど好きな作品になりました。