PV
評価:80/100
放送期間 | 2019年10月~2020年3月 |
話数 | 全22話 |
アニメ制作会社 | CloverWorks |
アニメの概要
このアニメは、TYPE-MOONが製作したアドベンチャーゲーム『Fate/stay night』をはじめとした数々のFateシリーズの登場人物が一堂に会するソーシャルゲーム『Fate/Grand Order(以下、FGO)』を原作としたTVアニメ版です。
アニメは、原作ゲームの第一部のほとんどラスト直前から物語が始まるため、原作ゲームをプレイしていない場合は内容を理解することはほぼ不可能です。
これまでのストーリーを軽くおさらいすることもなく、今現在何をしていて誰と戦っているのかの説明もほとんどされず、原作未プレイの場合は大まかな流れを把握する術 が存在しません。完全に原作ゲームをプレイ済みのユーザーのみを想定したファン特化型の作りになっています。
本作で特筆すべきは全編に渡り妥協がないアクション作画で、これを目当てに見る場合は無類の感動を味わえます。
しかし、原作にはあった世界観設定に関する説明が一部欠けていることや、そもそも原作から存在する物語的な欠陥もほぼそのまま手付かずと、ハッキリ言ってシナリオ面は特に見るべきところもなく、こちらを期待している場合はあまり得る物はありません。
いくらなんでも唐突に始まりすぎな最後の旅
まず端的に、このアニメが抱える最大の問題は話が終盤から唐突に始まることです。
原作である『FGO』は、ある人物により人理(人類史)が焼却され人類が消滅の危機に瀕する中、過去の歴史上には存在しなかった7つの特異点を巡り人類史を修復していくという壮大な時間の旅を描くストーリーです。
このTVアニメ版はその7つある特異点の中でも最後の7つ目にあたる古代メソポタミアの特異点を描いた“絶対魔獣戦線バビロニア”を映像化したものです。しかし、それ以前の特異点での出来事や、そもそもなぜ世界が危機的状況になっているのかという経緯はほぼ作中で説明されないため、このTVアニメ版から見る場合は大まかな流れを把握することすら不可能に近いです。
そもそも、このTVアニメ版を先に見てしまうと原作では大きな謎として扱われていたマシュと融合した英霊の正体が1話目でネタバレします
このTVアニメ版を見る場合は最低でも原作を第6特異点である“神聖円卓領域キャメロット”まではプレイしていないと物語を純粋に楽しむことは出来ません。さらに細かい演出意図を理解する場合は第一部を最後までプレイしないと後々重要となる伏線が伏線だと認識できません。そのため真にこのアニメ版を楽しむためには原作ゲームの第一部をクリアしているのは絶対条件となります。
しかも、最後の特異点と言っても、第一部全体の大きな謎が明かされるのは次のエピソードの終局特異点“冠位 時間神殿ソロモン”なため、結局このアニメを見たとしても第一部の謎は何一つ解明されません。
登山で例えると7合目からはじまり9合目で終わるような、今までどのような道を登ってきたのかの経緯は不明で、しかも頂上には辿り着かないで終了というぶつ切りの幕切れとなります。
しかし、原作のFGOはとんでもないボリュームのゲームなため、“絶対魔獣戦線バビロニア”までプレイする場合は軽く40~50時間以上はかかります。
ゲーム自体は課金アイテムでいくらでもゴリ押しは可能なものの、元々、Fateの生みの親の一人でもある奈須きのこさんは高難易度ゲームを非常に好む人なため、無課金の場合は並の家庭用ゲームよりも難易度が高めに設定されており、ストーリーだけ手軽に見たい場合は難易度が高めの場所で相当な時間手こずります。
アクション要素の一切ないターン制バトルのRPGですが、サーヴァントのクラス同士の相性を考えてパーティを組む必要があり、しかもボスによってはアトラスの『女神転生』や『ペルソナ』級に難易度が跳ね上がります。ゲームに対して変なプライドがある人間ほど課金アイテムを使って勝つとズルをした気分になるため正攻法でクリアしようとして手こずる羽目になりますね
原作はボリュームが膨大で、しかもこのアニメ版はそのゲームをプレイし第一部をクリアしていることを前提とした原作ファンを喜ばせることのみに特化した内容となり、視聴ハードルがそもそも高めに設定されているという点は何よりも注意が必要です。間違ってもFGOをプレイしていない素の状態で見るような作品ではありません。
『ドラゴンボール』で例えるとアニメの第一話が魔人ブウ編からはじまるようなもので、『幽☆遊☆白書』なら仙水編や魔界編、『ハンター×ハンター』なら暗黒大陸編やカキン王国編から、『機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)』ならソロモンやア・バオア・クーからスタートするようなものです。本来なら有料のOVAや劇場用アニメでやるようなことを無料のTVアニメでやってしまっていますね
戦慄のアクション作画と退屈なシナリオ
このTVアニメ版最大の魅力がアクション場面の豪華さです。普通のアクションを売りにするバトルアニメが1クールで一回か二回あれば豪華というレベルのアクションがほぼ毎話と言っていいほど盛り込まれ、質の高いアクション作画の物量攻勢に舌を巻くほどです。
メインストーリーとほとんど関係ない小競り合いのような戦いでもアクション作画は一切の手抜き無く描かれ、一体どれだけ手間と時間がかかっているのか想像すると恐ろしくなります。
アクション作画は、アニメのFateシリーズでもufotableのような完璧に制御されたアクションではなく、アニメーターの癖をそのまま残したような良く言うと勢いがあり、悪く言うとやや荒さが残る作画で、ここは場面ごとに好き嫌いが激しく別れます。
もしこれがルールに縛られながらプロフェッショナル同士が争う聖杯戦争の話ならこの癖が強すぎるアクションの方向性は作風と噛み合わず、完全に失格だと思います。しかし、FGOのようなサーヴァントを超越する女神や神と戦うスケールの大きさなら、多少荒くとも人間の気合いと根性で神に戦いを挑む気迫が絵に滲み出ていると好意的に受け取れるので、荒い部分もそこまで気にはなりません。
特に圧巻なのは8話です。この回はレンガを一つ一つ根気強く積み上げる行いや、過去の偉人が成し遂げた偉業が遙か遠い未来まで物語として語り継がれ後世の人々に希望を与えることをそのまま歴史の積み重ねになぞらえ、その人類史への想いをアクションに込めてぶつけられるため、胸が熱くなります。
生まれつき人間を超越する権能を持つ神々に対し、出来ることをコツコツと積み上げるしかないちっぽけな人間像を対比させ、勝負に負けたとしてもその想いがまた生き残った者たちに受け継がれていく様を短い場面に詰め込んでおり、この回がダントツで好きでした。
正直、肝心のストーリーは退屈なので、途中からはアクション(とマシュのお尻)を楽しみとして最後まで見続けました。
アニメーターの血と汗の結晶であるアクション作画に比べシナリオの出来はイマイチでした。
アニメ版の気になる点は、原作にはあった説明が一部削られており、単純に生活の中に神が当たり前に存在した最後の時代という特殊な環境が飲み込み辛くなったことと、原作ゲームではマップのおかげである程度は理解できた拠点となるウルクとその他の場所の位置関係が非常に分かりづらく、移動描写が瞬間移動しているように見えることです。
さらに原作からある問題は、そもそも登場人物同士の因縁や行動の動機が作中には存在せず外部にしかないということや、古代メソポタミアという『Fate/stay night』の象徴的キャラクターであるギルガメッシュの時代なことから、ゆかりのある『Fate/stay night』の登場人物たちが姿形を変え女神や神として再登場したり、元はライダーのクラスで召喚された英霊がコチラではランサーのクラスで召喚されていたりと、元ネタを知らないと意味が分からない箇所が多いという点はアニメ版もそのままです。
レオニダス、武蔵坊弁慶、アナとサーヴァントのクラスがランサーに偏りすぎですね
数ある問題の中でも致命的な欠陥だと思うのが、人物の設定や行動動機の大半がFGOの外(過去の作品上での因縁や、モチーフとなる神話)にしかないことです。
同人作家上がりの奈須きのこさんの特徴である、過去のFateシリーズに登場したキャラクターのIF展開とか、神話の内容をひねってIFの設定を作るとか、本編内で各キャラクターの関係性をゼロから構築せず、外部から設定や関係性を引っ張ってきてこねくり回すという二次創作的な癖が“絶対魔獣戦線バビロニア”は特に濃く、アニメ版もこの不満点はまったく変わりません。
その結果、キャラクターの決断や行動が本人の感情や意思から生じたものには到底見えず、目に見えない糸で操られる人形然とした人物を追い続ける空虚な話にしか感じられません。
皮肉なことに、Fateシリーズを知っている前提で進むストーリーの“絶対魔獣戦線バビロニア”を映像化したこのTVアニメ版も原作のFGOをプレイしている前提という似た構造となっており、この部分は長く続いたシリーズが、シリーズのお約束を理解したファンのみを相手にし出す姿勢の危うさを露呈させていると思います。
最後に
主人公たちと因縁があるわけでもない敵の強さがインフレしていくだけのストーリーは死ぬほど退屈で見続けるのが辛いレベルですが、アクションだけは存分に堪能させて貰いました。
とにもかくにも素晴らしいアクションを生み出したアニメーターに拍手を送りたくなる一作です。
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