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【お金】なぜ日本経済がダメになったのか理由が分かる!! |『感じる経済学 -コンビニでコーヒーが成功して、ドーナツがダメな理由-』| 著者:加谷珪一 | 感想 レビュー 書評

本の情報
著者 加谷珪一
出版日 2017年4月26日
難易度 普通
オススメ度
ページ数 約202ページ

本の概要

 
この本は、規模が大きく日常からかけ離れた数字を扱っているように見える経済学を日々の営みと重ね自分事として考えるヒントを与えるという主旨の経済学の本です。2017年とやや古めの本ですが現在の日本の状況と照らし合わせても特に支障はありません。
 
タイトルに“コンビニでコーヒーが成功して、ドーナツがダメな理由”とあるため、なんとなく身近な題材を切り口に面白おかしく経済学を語るような軽い読みものと誤解しますが、中身は日本人の経済感覚の誤りや日本経済の構造的欠陥を様々なデータで洗い出していくという堅めの内容です。
 
この本を一冊読むだけで日本経済の成長を阻む構造的な問題点や、日本人の働き方・考え方がいかに先進国基準からズレているか、なぜアベノミクスのような経済政策がことごとく不発に終わるのかという、日本経済の欠陥を広く浅く知ることができます
 
読むと先進国に置き去りにされる日本の未来が本気で不安になります。
 
ただ、同じ著者の『お金持ちの教科書』という富裕層にヒアリングし、お金持ちの行動・思考パターンをまとめた本がかなり毒舌強めで面白くそのためこの本に手を出したのに、こちらは物腰ソフトな語りで毒っ気がなくそこは残念でした。
 

タイトルや表紙は楽し気なのに、中身は日本にとっては絶望が詰まっているというギャップが毒っ気と言えば毒っ気です

日本が抱える最大の問題は収入が増えないこと

 
タイトルにある“コンビニでコーヒーが成功して、ドーナツがダメな理由”は、新たな客層を開拓できたか、単に他店とのパイの奪い合い状態に陥ってしまったのかという問題でさほど面白味はありません。
 
この本で最も衝撃的なのが、日本の経済に関するかなりの問題は日本の経済成長率海外の経済成長率いちじるしく乖離してしまったがゆえの歪みがあちこちに噴出しているためという部分でした。
 
例えば、政府が家計に占める携帯電話料金が高くなりすぎて家計を圧迫しているから値下げしろと各携帯電話キャリアの価格を下げさせたという件も、実は日本の携帯電話料金は先進国と比べてもむしろ割安で、問題の本質は携帯電話料金が高いことではなく収入が減ったせいで家計の支出に占める通信費の割合が高くなっている点だとこの本には書かれています。
 
これと同じく若者の車離れも、若者が車に興味がなくなったということとはまた別に、日本の自動車メーカーがグローバルな事業を展開する影響で車の価格は海外基準に寄るため、GDPが成長し給料が上がる一方の海外に合わせて車の価格を値上げすると、給料がずっと横ばい、もしくは下がり続ける日本人にとっては異様なほど車が高くなったように感じるという側面もあると指摘されます。
 
このように、あらゆる企業がグローバルな市場で商品を売ろうとする場合、給料が上がる海外に価格を合わせると、給料が横ばいの日本国内においては海外とまったく同じ価格でも異様なほど高く見えてしまうという問題が起こっており、そのせいで日本国内では物が高すぎて消費が増えず、消費が増えないからGDPは成長せず、GDPが成長しないから給料は上がらず、給料が上がらないから海外の給料を基準とする商品が高くて買えず、するとさらに海外との給料差が開き、結果より物の価格が高くなるという負のスパイラルに陥っているという状態には恐怖すら覚えます。
 
この本を読むと、もはや海外では標準価格で売られているものが日本人には高価に見えてしまうほど日本という国は急激に貧しくなっているという現実を突きつけられ、日本の未来に対して強い危機感を抱きます。
 

最後に

 
日本と海外の経済成長率の話以外も、GDPの増減の仕組みや、個人の貯蓄は銀行口座に預けられそのまま銀行が融資として企業に貸し出すため経済学では貯蓄は投資扱いになるという初めて知る話や、なぜ日本政府の行う経済政策が思うように成果を出せないのかについての解説など、読むと確実に役に立つ経済の話がテンコ盛りで、本に対するパッと見の印象とは異なり学びが深い一冊です。
 
 

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