著者 | 小松左京 |
出版日 | 1965年6月 |
評価 | 80/100 |
オススメ度 | ☆ |
ページ数 | 約401ページ |
リンク
小説の概要
この作品は、東西冷戦の真っ只中、民間のエスパー(超能力者)によって構成されたスパイ組織の活躍を描くSF小説です。
タイトルのエスパイとはそのままエスパーとスパイを組み合わせた造語です。
ストーリーは、東西冷戦を終結させたいと願う平和志向のソ連首相暗殺を企てる謎のエスパイ犯罪組織と、それを阻止すべく戦うエスパイ組織との超能力戦が主軸です。
元々は漫画雑誌(週刊漫画サンデー)に存在した小説コーナーに連載されていた作品という意外な出自を持ってはいますが、天才の小松左京だけに大人が読んでも楽しめる良質なエンタメ小説でした。
さすがに約60年ほど前に書かれた小説だけに古くささは気になるものの、超能力の設定や細かい描写は今読んでも通用するほどこだわりが徹底しており、エスパー同士の超能力戦は手に汗握る緊張感で、人類の負の歴史を辿るようなストーリー、そしてただのスパイものと油断していると衝撃的な展開を見せるラストと、エンタメ小説として肩肘張らず楽しめる一作です。
『007』から始まり最後は『2001年宇宙の旅』や『幼年期の終り』に至る衝撃のストーリー
この小説は、小松左京作品としては完全にエンタメ(サービス精神)に振り切っておりSF小説としての深遠さはありません。
やっていることは『007』的なスパイの諜報活動を超能力者のそれに置き換えており、主人公が超能力を駆使して絶体絶命の状況を突破していくという展開の連続です。
『007』ではお約束である敵のサディスティックな拷問からどう脱出するとか、ボンドガール的なヒロインとのお色気場面など、これでもかと『007』しています
ただ、超能力の設定や描写が今現在読んでも十分通用するほど凝っているためそこまで古さは気になりません。
透視能力は空間をソナーのように探知するような描かれ方でスタイリッシュに決まっており、テレパシーはエスパーごとに固有の周波数があり周波数を敵のエスパーに知られると仲間同士のテレパシーによる会話を盗聴されてしまうとか、テレパシーを直線でしか飛ばせない者と放物線を描くように飛ばせ地球の裏側にいるテレパシストとも長距離交信が可能な上級の能力者がいるなど、エスパー同士の諜報戦を主軸とする娯楽小説としては退屈さなど微塵も感じさせないほど楽しく読めます。
特に優れていたのが、高速ジェット機内に突然敵エスパーのテレポーテーション能力で時限爆弾がテレポートされ、それを透視能力で分析しながらサイコキネシス能力で遠隔で爆弾解除するという複数の超能力を同時に駆使する本作らしさ全開の展開でした。
主人公のタムラが、何度も絶体絶命の危機的状況に置かれ、そこから透視とサイコキネシス、テレパシーなど複数の超能力とプラス体術(忍術)も織り交ぜ危機を脱していく展開は常にリズミカルで、ハードSF寄りの難解な小説が多い小松左京作品の中でも非常に読みやすい部類です。
そして天才小松左京がスパイ小説を書くのに平凡なオチを用意するはずもなく、ラストはそれまでのエスパー同士の超能力戦からいきなりスケールが飛躍し宇宙規模の衝撃展開が始まり最後の最後まで楽しさが持続します。
正直、それまでが『007』的な軽いノリの良い意味でバカバカしい展開の連続(残虐なナチの残党に拷問されるとか、フランスのセクシーな女超能力者に拉致されエロチックな尋問をされるなど)で、突拍子の無さも覚えますが、一応、人類史の負の側面(スペイン内戦、第二次世界大戦のユダヤ人へのホロコースト、冷戦中の核戦争の脅威など)を辿るようなストーリー展開なのでそれが伏線になっており、まとまりは十分にあります。
この、それまでのエスパー同士の超能力戦から一転、影で人類の歴史を操ってきた神の如き存在と対峙するという展開は壮大なスケールを売りにすることが多い小松左京のSF小説を読んでいるという喜びに包まれるため大好物でした。
おわりに
超能力あり、スパイ同士の心理戦あり、アクションもお色気も豊富と、娯楽要素を詰め込めるだけ詰め込んだ肩肘張らず読めるエンタメ小説なので深みはありませんが、その分小松左京の小説の中では非常に読みやすい内容でした。
読めば絶対に楽しい一作なのでこれ以上言葉も必要ありません
リンク