
プレイ動画
評価:85/100
作品情報
ジャンル |
RPG |
発売日(日本国内) |
1995年12月9日 |
開発(デベロッパー) |
ハートビート |
ゲームの概要
このゲームは、ドラゴンクエストシリーズの中でも“天空城”が登場する天空シリーズとしてはⅣ、Ⅴに次ぐ3作目(完結編)です。
ストーリー的な繋がりはあるにはあるもののかなり薄いためⅣやⅤをやっていなくても特に問題ありません。ただ、天空城の内部はほぼ過去作と同じ構造なためプレイ済みだと懐かしさで感動がより増します
Ⅵは、現実世界(下の世界)と人々の願望が生み出した夢の世界(上の世界)と二つの世界を行き来しながら、プレイヤーがある程度自由に物語を進めていくことが可能となっているのが特徴です。
その他、職業を変更できる転職システムによって育成の自由度が確保されているなど、ドラマチックな一本道のストーリーを売りとするⅤに比べ、ⅠやⅢなど自由度の高かった過去シリーズへの原点回帰の意図が窺えます。
ただ、自由度が高くなった反動で目的地を見つけることが困難となり、ノーヒントでクリアしようとすると、とてつもない高難易度のゲームになっています。
約99%のプレイヤーが自力クリア不可能と思うほど凶悪な難易度です
ストーリーの完成度で言えばⅤのほうが圧倒的に勝りますが、Ⅴに存在したあらゆるゲーム的な不満点が徹底的に改善されておりプレイユーザビリティは大幅に向上しました。
Ⅴに存在した操作性の悪さは完璧に消えています
中盤以降は攻略の自由度が高く、転職によるキャラクターの成長要素も完備され、上・下二つの世界を冒険するため非常に大ボリュームと、スーファミのRPGとしてはあらゆる点が過不足なくまとまっており、さすがドラクエシリーズという安定の仕上がりです。
しかし、攻略サイトを確認しないと到底クリアが不可能なほど目的地が分かり辛いという不親切さだけは唯一残念でした。
絶望の中で人々が夢みた希望の世界
Ⅵの最大の特徴であり魅力でもあるのが、現実世界(下の世界)と人々の願望が生み出した夢の世界(上の世界)という上・下二つの世界が存在することです。
序盤で最も衝撃を受けるのが大地に穴があいており、下の世界を穴の中から覗かせてしまうという大胆な演出です。
FFだったら絶対にムービーで長々と見せびらかすのにドラクエはいきなりフィールドに出現させるため演出が上品で惚れ惚れします
上・下二つの世界があるという設定を説明ではなくいきなりビジュアルで見せてしまうという序盤のアイデアは掴みとしては完璧でした。
現実世界は魔族によって重要な施設・建物(転職が可能なダーマ神殿や、メダル王の城など)や、貴重なアイテム類が破壊されており、それらの施設やアイテムは人々の願望によって作られた夢の世界にしか存在しません。
そのため現実世界で破壊されてしまった建物や永遠に失われたアイテムを夢の世界で探すというのが基本パターンとなります。
この現実世界と夢の世界を行き来するという試みはドラクエシリーズのストーリーテリングと相性が抜群です。街の外観はほぼ同じなのに人々の会話が微妙に異なるため、その差異から現実と夢それぞれの街の置かれた状況を読み取るという楽しみがあります。
会話やイベントでプレイヤーを長時間拘束することを良しとしないドラクエにとって、微妙な会話の違いをプレイヤーに考えさせるというアプローチは好ましく感じます
特に驚かされたのが村人の会話パターンの豊富さです。ほんの少しイベントが進んだだけで村人全員の会話が細かく変化するため、少しでも話が進む度に反応が知りたくなり全員に話しかけてしまいます。
この会話パターンが豊富なおかげもあり、二つの世界にそれぞれほぼ同じ外観の街があるというややこしい構造も混乱なく馴染めます。
ただ問題は、上と下、二つの世界がパズルのように複雑に入り組んでしまっているせいで、高確率で目的地が分からなくなることです。
次に向かう場所が下の世界なのか上の世界なのか不明で、しかも上の世界に目的地があっても下の世界をぐるっと回り込んだ先にある地点から上の世界に移動しなければ辿り着けないなど、ルートが複雑すぎてこれをノーヒントで進めろというのはさすがに無理があります。
目的地は上なのか下なのか、目的地へのヒントは上にあるのか下にあるのか、その目的地に辿り着くためのルートは上にあるのか下にあるのか、目的地で必要となるアイテムは上にあるのか下にあるのかと、ゲームの最初から最後までひたすら迷って迷って迷い続ける羽目になります。
さらに今作から追加された“ベストドレッサーコンテスト”という装備のカッコ良さを競い合うという大会があり、このコンテストの賞品がストーリーを先に進めるために必須となります。このようにオマケのやり込み要素と思いきやガッツリ本編に組み込まれたイベントがあるなど、どこに行って何をやればストーリーが先に進むのか皆目わかりません。
それ以外も、伝説の4つの装備を集めないと先に進めないのにその中の一つである“スフィーダの盾”を入手するために迷路のようなダンジョンをクリアしないといけないなど、嫌がらせレベルで凶悪です
自由度の高さを目指したといってもさすがに限度があるだろうと思うほどの極悪さで、これを攻略サイトを見ずにクリアすることはほぼ不可能だと思います。
Ⅱのロンダルキアへの洞窟をノーヒントでクリアしろというくらい理不尽です。目的地が分からなくなったら速攻で攻略サイトを確認したほうがストレスがありません
この終始目的地が分からず迷い続けるという欠点がこのゲーム最大の不満でした。攻略サイトを見ることでプライドが傷つき屈辱を感じるタイプの人は確実にストレスが溜まります。
子供の頃に攻略本を持っていたのに結局一度もクリアできなかったという思い出があるほどの極悪さです
短編の寄せ集めのようなストーリー
ストーリーはドラクエとしてはダークなテイストが濃く嫌いではありませんが、名作だったⅤに比べると大幅に見劣りします。
と言うのも、Ⅵのストーリーは長編というより短編を大量に寄せ集めたような作りをしており、Ⅴのように起伏がある一本の太いストーリーに比べると一つ一つが弱々しく印象に残りません。
夜な夜な怪物に変身して暴れる狼男のような話や、人間と人魚の悲恋、鏡の中に囚われた姫君と、良くも悪くも全体的にどこかで聞いたことがあるおとぎ話の詰め合わせのような出来で、さらに一つ一つの話が独立しておりラストに向けて集約せず盛り上がりもしません。
本編のストーリーがどれもこれもRPGのサブクエストレベルの出来です
Ⅴは、序盤を大胆に伏線として利用しそれを回収していく中盤以降も次から次に予想外の展開が起こり続けるなど、非常に起伏が激しくドラマチックな構造をしていますが、Ⅵにはこのような工夫が無く非常に退屈でした。
それに、あらゆるRPGで絶対にやってはいけないラスボスを終盤になってから唐突に登場させるという失敗をしており、主人公たちとラスボスに一切の因縁がなく存在感が皆無です。
これまでプレイしたRPGでラスボスが終盤になって唐突に登場して良かった例は一度たりともありません
もったいぶって引っ張る割には、主人公の出自の描かれ方も驚くほど手抜きで、真相が語られても興味も湧きません。
つくづくⅤは起伏の作り方始め物語体験をゲームデザインの中心としており別格の完成度だったなと思います。
唯一優れているのは現実世界と夢の世界という二つの世界が存在することで一人だけ主人公たちとは出身世界が異なり、最後に別れが待っているという切ない余韻の作り方くらいです
転職によってⅤより格段に魅力が増したバトル
戦闘はコレといって特徴もないターン制バトルですが、極悪な操作性でストレスまみれだったⅤに比べると今作は大幅に進歩しています。
まず、Ⅴに比べバトルの参加人数が3人から4人となり戦術の幅が広がったのと、ダンジョン内でも待機中のサブメンバーが回復呪文を使えるようになったことでMP切れに悩まされなくなり、攻略が快適になりました。
Ⅴは回復呪文だけではMP切れするため、やくそうを大量に買ってダンジョンに持ち込まないとボスに辿り着くのが困難なほどシビアでした
それに、MP量が少なくほぼ攻撃呪文が使えなかったⅤに比べ今作はMPに余裕があるためザコ戦でも強力な攻撃呪文を積極的に使用可能となりました。
そして何よりも今作は中盤以降ダーマ神殿で職業(戦士、武闘家、踊り子、僧侶、魔法使いなど)を転職することが可能となり自分好みにキャラクターを育成することができます。これのおかげでバトルが作業になることはありません。
しかも戦闘回数で職業のランクが上がっていくため、ザコ敵の一戦一戦が経験値・お金稼ぎと同時に職業の熟練度上げの役割も果たしてくれます。
さらに、戦士と武闘家という下級職を最大まで極めるとバトルマスターという強力な技を覚えられる上級職に転職が可能になるなど、転職があるおかげで常にキャラクターをどう育成させるのかプランを考えることが可能で、これが最後の最後まで強力なモチベーションになります。
ターン制バトルのみだとやや単調ですが、この転職システムによって育成の自由度があるため、Ⅴに比べると格段にバトル周りの魅力が増しています。
スーパースターという上級職で覚えられる特技ハッスルダンスがMP消費ゼロで全体を回復可能という反則さなど、一見弱そうな職業で覚えられる技がやたら強力という意外性も魅力の一つです
おわりに
クリアまで約38時間ほど。これは目的地が分からず数十分ほど迷ったら即攻略サイトで行き先を調べてのクリア時間なので、自力クリアしようと思ったらこれの軽く2倍や3倍の時間が掛かると思います。
と言うか、大半の人は難しすぎて自力クリア不可能だと思います
Ⅴで不満だった操作性の悪さや通常移動の遅さは完璧に改善されている上に、呪文・特技に説明文が表示されるなど、プレイ中の快適さや親切さはⅤの比ではありません。それにグラフィック周りもⅤに比べると格段に向上しており、単純なドット絵の精細さも、霧や雲などのエフェクトの綺麗さもⅤを完全に凌駕しています。
転職は『ファイナルファンタジー5』のジョブやアビリティの完成度に比べると足下にも及びませんが、それでもRPGとしてしっかり育成の楽しさを味わえるため追加されたことでⅤより遙かに魅力が増しています。
現実と夢という二つの世界を行き来するアイデアや、転職でキャラクターを自分好みに育成する楽しさ、ドラクエシリーズでもトップクラスに豊富な乗り物類(船、ひょうたん島、空飛ぶベッド、魔法の絨毯、ペガサス、など)に、難易度が高すぎるのが難点ながらある程度確保された攻略自由度の高さなど、スーファミのRPGとしてはあらゆる要素がハイレベルにまとまっており、RPGとしてのツボをとことん心得た今なお面白さが健在の一作でした。
余談
Ⅵで最初に衝撃を受けたのが装備メニューが存在しないことでした。これが唯一Ⅴに比べゲーム的に退化した点でもあります。
武器や防具の装備自体は道具メニューから可能な上に、道具メニューからわたすを選ぶことで武器・防具の性能差を調べられるので慣れると別段気にもなりませんが、最初は装備メニューがないことが信じられませんでした。
RPGで過去作にあった装備メニューが無くなるなんて前代未聞だと思います。どうやって武器や防具の性能差を確認すればいいのか本気で悩みました