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【ビジネス書】デジタル的とは何かを問う |『DXの思考法 -日本経済復活への最強戦略-』| 西山圭太 | 感想 レビュー 書評

本の情報
著者 西山圭太
出版日 2021年4月13日
難易度 難しい
オススメ度 ☆☆☆
ページ数 約272ページ

本の概要

 
この本では、企業のIT化(業務のデジタル化)など様々な意味を持つDX(デジタル・トランスフォーメーション)という概念について元経産相の役人で日本のDX化を推進する立場だった著者の持論が語られます。
 
会社の業務をDX化(デジタル化)することに関しての具体策ではなく、そもそもDX的な思考法とは何か、さらにさかのぼるとそもそもデジタル以前デジタル以降では問題解決の考え方にどのような変化が生じたのかという、どちらかというと経営者向けのマクロなDX論が主です。
 
そのため一見ITやデジタルから遠く離れたスポーツや料理からデジタル的な考え方のヒントを抽出するという非常にクセの強い一冊で、一読しただけだと理解が追いつきません。
 
ただ、読み進めることで最初はぼんやりとしていたデジタル的とは何かという著者の主張の輪郭がなんとなく掴め、デジタル以前と以後の思考法の違いに自分なりの仮説が出せるようになります。
 

この本は自分なりのDXの感覚を掴んで欲しいという意図で書かれており、明解な答えのようなものは書かれていません

 
まさにタイトル通り著者が考えるDXの思考法をそのまま本の中で繰り返しなぞることで、自分なりのDXイメージを構築する手助けをしてくれる知的興奮に満ちた一冊です。
 

日本のデジタル敗戦の原因

 

この本は、デジタル的な思考のきもである物事を抽象化して考えるというコツを伝授するためあえて抽象的に書かかれており、答えを丁寧に教えてくれる本を読むような受け身の感覚で読むと意図が理解できません。
 
答えを直接教えるのではなく10~20の抽象的なヒントを読者に投げかけることでDX(デジタル)の思考法を自分で発見し構築していくという極めて能動的な姿勢を要求してきます。
 
このデジタル的な思考法を学ぶと見えてくるのが、本の中で“デジタル敗戦”と表現される、なぜ20世紀末は世界でもトップを走るデジタル先進国だったはずの日本が21世紀以降は凋落しデジタル後進国になってしまったのかという原因です。
 
この本のタイトルでもある“DXの思考法”を駆使するとなぜ日本がデジタル後進国になってしまったのか原因が手に取るように分かり、しかも原因が分かるとなぜこの本はDX(デジタル・トランスフォーメーション)の具体策より根本の思考法にこそ時間を割くのかその意図が読み解けます。
 
日本が世界に対してデジタル敗戦を喫した原因の中で最もしっくりきたのが、日本はIT化というものを根本的に読み間違えたという指摘です。
 
本来デジタル革命とは、第一次産業革命の蒸気機関や、第二次産業革命の内燃機関や電気と同様に世界の在り方を根本的に変えてしまうほどの転換点だったのに、日本ではIT産業という既存の業種の外側にもう一つ新しい産業が追加される程度の認識で、日常的に使うあらゆる道具がネットに繋がり、働き方や企業の在り方もデジタル以前からまったく別の形に変わる未来を予想できなかったことがデジタル敗戦の原因とこの本では語られます。
 
このIT化というものが単なる新しい産業が生まれることではなく、これまでのあらゆるルールを塗り替え、新しいデジタル中心の世界が誕生することであるという未来を読んだアメリカや中国は躍進し、読むことが出来ずITを過小評価した日本は衰退した・・・・・・ではなぜアメリカや中国は未来を読むことが出来、日本は出来なかったのか? 
 
そこが本書の肝であるデジタル的な思考、つまり物事を抽象化して目の前の技術がまったく異なる分野に応用できるかどうかを考える思考法を会得しているかいないかにかかってくるという主張がこの本最大の面白味です。
 
この本は抽象化してものを考えるヒントを読者に与えるため、スポーツや料理と言った本来ITとはまったく関係ないジャンルの話からITにも応用できるデジタル的な思考法を拾うというまさに抽象化の訓練のようなことをしており、意図が分かるとこの本が分かり辛く、抽象的な例えだらけである理由が分かります。
 
確かに業務をデジタル化するだけではDXの在り方としては不完全で、DXの思考法そのものを学ばないと再び“○○革命”のようなことが起こった場合に世の中の変化を読めずまた海外に遅れを取るという失態を繰り返す羽目になるため、このような根本の思考法から鍛えるというアプローチを取るのも納得がいきます。
 
抽象化とは分類や目的に惑わされず、あらゆるものに応用可能な物事の構造を読み取る力で、まさにこれこそがデジタル的な思考法のきもであり、これを企業の経営者が理解せず単に上辺だけ会社の業務をデジタル化しても意味が無いというのがこの本最大の問題提起です。
 

そのためどちらかというと会社の舵取りをする経営者が読むべきような本になっています

最後に

 
この本を読んでいて、自分は答えではなく思考のヒントが詰まった本が好きなのだと気付けるほど好みとドンピシャでした。
 
とにかくこの本はクセが強く、何か情報を得るために読むものではなく、読むことによって抽象化のコツを掴みデジタル的な思考法を身に付け、この先どのようなテクノロジーが生まれようと、経済や社会がどのような姿・形に変容しようとも対応できる思考の柔軟性を鍛えることこそが目的であり、そこさえ理解して読めば苦労の分だけ得る物が多くあります。
 
DXとはデジタルマインドとセットでないと意味がないということを学べる大変有益な一冊でした。
 

元が抽象的な本なのでレビューも抽象的にならざるを得ません

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