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【PS4・steam】前作から変化に乏しい続編 |『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』| レビュー 感想 評価

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トレーラー

評価:80/100
作品情報
発売日(日本国内) 2017年3月23日
開発(デベロッパー) Eidos Montreal
開発国 カナダ
ゲームエンジン Dawn Engine

ゲームの概要

 
この作品は、『デウスエクス』シリーズの一作で、『デウスエクス ヒューマンレボリューション』の2年後の世界を描いた続編です。
 
オーグメンテーションシステムを駆使する前作のエッセンスは継承しているためステルスゲームとしては相変わらず一級の完成度でした。
 
しかし、前作の『ヒューマンレボリューション』から優れた部分が目減りし、不満な部分はほぼそのまま手付かずというややパワーダウン気味の続編です。
 
目新しさはほぼなく諸々が前作の満足度には及びませんでした。
 

あらすじ

 
2029年。人為的に引き起こされた世界規模のオーグ(体の一部を機械化した人間)の暴走事故であるオーグ・インシデント発生から2年が経過。
 
チェコ共和国はオーグ・インシデント以前、積極的な自由経済政策を取り、首都であるプラハに有力企業を誘致しオーグ労働者を優遇していた。そんな世界でも人口に占めるオーグ移民者の比率が高かったプラハはオーグ・インシデントによるオーグの暴走で深刻な被害を受ける。
 
その反動でプラハはオーグ化していない生身のナチュラルによるオーグに対する過激な隔離政策や根強い差別が横行する、ナチュラルとオーグの分断(ディバイデッド)を象徴する都市となってしまう。
 
世界中でナチュラル達によるオーグ排斥の気運が高まる中、国連ではオーグへの規制をより強化し、オーグの人権を軽視するかのような国連決議第3507号、通称人間復興法案の採択が間近に迫っていた。ナチュラルのオーグへの排斥を助長しかねない法案の是非を巡りナチュラルとオーグ、両者の分断はより深刻化の一途を辿る。
 
そんな分断の最前線であるプラハに拠点を置く、多発するテロ防止のため国連により新設されたインターポールの対テロ部隊TF(タスクフォース)29。
 
TF29の隊員であるアダム・ジェンセンは、プラハで発生した大規模な駅爆破テロに遭遇。テロの犯人を捕まえるため捜査を開始したジェンセンは、テロの裏に隠されたオーグへの恐怖心を利用し人類の分断を画策する陰謀に巻き込まれていく。
 

前作が傑作過ぎたばかりに……

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前作の『ヒューマンレボリューション』の何に感動したかというと、オーグ化してまもないジェンセンが人体拡張に適応していくという設定と、プレイヤーがオーグメンテーションというシステムに適応していく過程が見事にシンクロしまるで自分の体がオーグ化したような一体感を味わえたことです。
 
しかし、今作はプロローグからいきなりジェンセンがオーグメントをフルに活用している状態から始まり、その部分が希薄でした。
 
オーグに対する差別を描くというテーマ上、どうしても序盤からジェンセンをオーグ側の立場として印象付けなくてはならないという事情は理解できます。
 
その分前作の様にまず不便な生身で戦わせてからオーグ化し、ライフやミニマップ、敵の位置情報などの画面上のインターフェースは全てオーグ化したことによって得られる恩恵であるという丁寧な説明描写がすっ飛ばされてしまっており、非常に淡泊な印象を受けました。
 
今作をプレイすると、前作の生身の状態でオーグの武装集団に圧倒的な戦闘力の差で一度敗北し、オーグ化することで互角に対抗できるようになるというストーリー上の展開すらもオーグメンテーションへの理解を手助けするプロセスの一環だったことが分かります。
 
生身だったジェンセンがオーグ化するという、主人公を変えない限りは一度しか使えないカードを前作で切ってしまっているので、今作は続編として違う手札を選択しなければならなかったのに、前回と似たようなカードを選ぶという悪手でイマイチでした。
 
オーグメンテーションは、ただの成長・アクションシステムというだけではなく、世界観設定とも濃密にリンクし、プレーヤーとの橋渡しとして機能します。
 
同時に、システム・マップ・ストーリーとあらゆる要素から孤立せず、それぞれに多大な影響を及ぼす歯車としての役割も果たし、数あるゲームの中でも突出して官能的な機能美を有する『デウスエクス』シリーズの中枢です。
 
そのオーグメンテーションシステムへの適応が、そのまま作品への没入度へと反映されるため、同期プロセスを省略・簡略化してしまったことは残念でした。
 

光陰矢のごとしな古臭さ

 

ステルス周りは完成度が圧倒的だった『ヒューマンレボリューション』の続編だけに優れています。
 
常に複数の進行ルートが用意され、死角を隠れながら進む正攻法でも、隙を見て敵をテイクダウンして排除していくやり方でも、隠し通路を探しても、オーグメントを駆使して強行突破しても大丈夫という、プレーヤーが自分で好きに手持ちのオーグメントから攻略方法を選択できる能動性の高さは健在です。
 
 

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前作から『ウォッチドッグス』や『ディビジョン』といった、UBIのTPSゲームなどが採用しているカバー状態からカーソルで場所を指定するとそこまでオートで移動してくれるという便利なシステムも追加され確実にステルス周りの遊びやすさは向上しました。
 
不満が多い今作でも、やはり得意中の得意であるステルスともなるとあらゆる不満が一端脇に追いやられるほどには中毒性があります。
 
敵を観察し対策を思案するのが楽しいステルスはいいステルスで、今作も無敵のオーグメンテーションシステムで敵やマップに応じて足りなければオーグメントを解放し攻略性を拡張していけるので、他のステルスでは中々味わえない潜入ルートをただ発見するのではなく、自らの選択と工夫で獲得したという確かな手応えが得られます。
 
しかし、昨今のオープンワールド型の遮蔽物のあまりない様な開けた場所でのステルスを体験していると、ややリニア型で狭苦しい場所を延々と進み続けるという窮屈さは否めません。
 
前作から短くない年月が経ち、もはや世界中のステルスの進歩の中で最先端と呼べるほどの斬新さは皆無で、どちらかというと挑戦を避けて堅実さを取ったような保守的な印象すら受けました。
 

味気ない舞台と、大幅にダウンした物語のスケール

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本作は洋ゲーによくある、エンドクレジットが流れ出して初めて「え、これでクリア? ということは、さっき倒したのがラスボス!?」と気付く、典型的な余韻でした。
 
これは前作が世界規模の陰謀を描き、終盤に向けてスケールがでかくなっていく構造だったため、てっきり今作もそういう路線なのかと思い込んでいたせいもあり肩透かしの度合いが半端ではありません。
 
劇中ずっとラビーアという建造中の都市の名前が登場し続けるため、前作のパンチェア同様、建造中のラビーアがラストステージになるんだと思っていたら、一切登場せず終わるため唖然とします。
 
今作は舞台となるプラハでオーグに対して行われる差別や隔離政策をジェンセンの身になって追体験させるということがやりたいらしくプラハに滞在する時間がやたら長めです。
 
オーグ用の地下鉄乗り場が駅の奥にあり、面倒なので手前にある乗り場からナチュラル用車両に乗ると不審者扱いされ身分証の提示を求められるなど、うっかりナチュラルの行動圏に足を踏み入れると少々の足止めを食うため、自然とオーグ用の道を通るようになっていくというやや恐ろしい習慣が刷り込まれるアイデアは秀逸でした。
 
ただ、このような街全体で環境ストーリーテリングをする『バイオショック』シリーズ(特にインフィニット)の様なアプローチはいいとしても、街全体でこのルールが徹底されているとは思えません。
 
そこかしこでNPC同士がなにか口論して揉めているなどのシーンをちょいちょい目撃するものの、もっと街のあちこちでナチュラルなら普通に行えることをオーグは容易に出来ないという隔離政策の理不尽さをゲームとして体感させてくれれば文句ありませんでした。
 
それと『デウスエクス』シリーズの舞台としてはサイバーパンク風味が足りず、どこに移動してもイマイチ外観的な変化に乏しく、その点もプラハという舞台が強烈なゲーム体験をプレイヤーに刻む特別な場所としては印象に残り辛いことの要因になっていると思います。
 

古くさい設定

 
本作で気になったのは、ところどころストーリー・システム両面で垢抜けなく、明確にダサいと思う箇所がちらほらあることです。
 
タスクフォースの拠点がダミー会社である不動産会社の地下に隠されており、これ見よがしなエレベーターで移動するという耐用年数切れの古臭いスパイ映画の様な設定や、オーグたちがオーグ・インシデントの際に見た幻覚を神の啓示だと思い込んでカルト宗教にハマり機械神を信仰しているとか、時代錯誤的なセンスの無さに頭を抱えることが何度かありました。
 
セキュリティが万全という建物に侵入しているわりに、そこら中にやたらダクトが通りまくっていて重要な部屋に潜り込み放題など、前作でも感じたギミックへの意味付けの違和感もまったく手付かずのままでどうしても新しめのゲームをやっているという実感が湧きません。
 

最後に

 
クリアまで約27時間ほど。
 
全体としては不満が多めですが、周回プレイ要素が追加されアイテムや武器、オーグメンテーションの強化分を次週に持ち越せるようになったという嬉しい進化ポイントもあります。
 
ただ、前作ほどの感動はなく無難な続編といったところです。
 

デウスエクスシリーズ

 
 
 
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