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ナショナリズムの暴走と少女の嘆きが反響し合う、台湾版バイオショック インフィニット 「返校 -Detention-」(steam版) 〈レビュー・感想〉

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トレーラー

評価:90/100
作品情報
ジャンル ホラーアドベンチャー
発売日 2017年1月13日(PC版)
開発(デベロッパー) 赤燭遊戲
開発国 台湾
ゲームエンジン Unity

短評

 
 ナショナリズムに支配され反体制派に対する弾圧や赤狩りが横行する1960年代の血生臭い台湾情勢という大きな話と、一人の少女が家族との軋轢や、希望のない将来への不安に鬱々と悩み心が壊れてしまう小さな話を並列して描く高度な試みがされる作品。
 
 ホラーゲームとしてはそれほど恐怖を覚えないが、シナリオの完成度が突出しており、トゥルーエンディングの映画的な余韻もあらゆるホラーゲームの中でもトップクラスの出来。
 
 総じて、インディーズゲームの枠に収まらないほど、メッセージ性が濃厚な大傑作。
 

台湾版の『バイオショック インフィニット』であり『サイレントヒル2』でもある、志の高さがどうかしているインディーズゲーム

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 本作は1960年代の台湾を舞台に、反体制派に対する激しい弾圧が行われる恐怖政治のおぞましさと、そんな暗い時代に人生を翻弄される若者たちの人生とを重ねて描くホラーアドベンチャーゲームです。
 
 このゲーム最大の凄みはなんといっても切実なメッセージ性が濃厚なシナリオの完成度の高さです。登場人物ほぼ全員当時の台湾におけるイデオロギーや価値観を擬人化したような存在で、作品に込められたメッセージの重さが通常のゲームとは比べものにならず、軽い気持ちでプレイすることを許してくれません。
 
 自国の虐殺の歴史という非常に重い内容に触れていることから、一番連想したゲームは『バイオショック インフィニット』です。あちらはアメリカという国が先住民へ行った虐殺行為や人種差別・女性差別の歴史をあろうことかコミカルなトーンで描くという背筋が寒くなるような狂った作風だったので、さすがにそこまでのインパクトはないですが、内容があまりにも重すぎてプレイ後にどっと疲れが出るという点では共通でした。
 
 舞台は1960年代の台湾ですが、日本統治時代の名残のようなものがそこここに残っているため、プレイしていると戦時中の少しでも不平不満を漏らせば非国民扱いされた頃の日本の姿もダブり、他人事とは思えませんでした。
 
 序盤、レイが元軍人の鬼教官であるパイのモノマネをすると、なぜかウェイが大げさなほど怖がるという不自然なやり取りに実は本作の構造がそのまま凝縮されており、二週目をプレイすると一週目では見逃していた何気ない会話に含まれた恐ろしい意味が読み取れるようになります。
 
 この時代を真正面から描いただけでも凄いのに、そこに『サイレントヒル2』のような自らが犯した罪を思い出していくという、過去の凄惨な記憶を忘却しようとする現代人に対する警告のようなメッセージも加わり、ストーリーテリングに隙がまったくありません。
 
 こちらはイスラエルのアニメ映画である『戦場でワルツを』という、主人公がイスラエルのレバノン侵攻時にパレスチナ難民に対する虐殺行為を目撃したことをいつしか記憶から抹消しており、徐々に自分たちが過去何をやったのか思い出していくという内容を思い出しました。
 
 台湾のゲームは初めてプレイしましたが、ゲーム体験で表現しようとするメッセージの高度さが日本のゲームの遙か先の先を行っており、その気概に圧倒されます。
 

幽霊をだらしなく見せ過ぎ!

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移動も謎解きも全てシンプルなポイント&クリック方式
 
 本作はシナリオは世界中どこに出しても通用する完成度なものの、ホラーゲームとしては、気味は悪いけど怖いまではいかないという物足りないものでした。
 
 まず、何よりもゲームが始まってすぐにオチの想像がつくようなイメージを大量に見せてしまうので、主人公に襲いかかってくる悪霊がなんなのか早々に見当が付いてしまい、怖さが完全に潰されています。
 
 悪霊もマップのそこら中に大量に配置され、プレイヤーに本来そこにいないものを想像させて怖がらせるというホラーの基本がまったく出来ておらず、怖いと感じる瞬間はほぼありませんでした。
 
 ホラーゲームで絶対にやってはいけない、敵を恐怖の源泉ではなく、ただの移動ルート上の障害物にしてしまうという失敗をしている上に、マップの構造も非常に単純で、ほとんど長い一本道の廊下ばかりなため、入り組んだ地形を覚えていく楽しさもありません。
 
 ゲームの作りも前半は探索メインの謎解きアドベンチャーで、後半はひたすらレイの内面に潜っていくほぼ一本道のリニアに近い展開となり、やや単調に感じました。
 

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 中盤くらいから徐々に入手するアイテム名がレイの過去の記憶と混濁しておかしくなり始めるというアイデアが魅力的だったので、もう少しそこを堪能したかったです。
 
 ただ、ホラー要素はイマイチでも謎解き部分は台湾の歴史や文化、宗教観と絡ませた非常にユニークなアイデアなものが多く、出てくるキーアイテムの名称や、アイテムを使用するギミックの外見が台湾っぽいだけで新鮮でした。
 

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 そのため、ほぼ強制的なイベントの連続になる終盤は、楽しかった謎解きが恋しくなります(謎解きの難易度はそこそこ高めで、場所によっては詰まる危険性もあります)。
 

巨匠が撮った傑作映画のような余韻を残すトゥルーエンディング演出

 
 本作はマルチエンディング制を取っており、最終章の選択肢の選び方でノーマルエンドとトゥルーエンドに分岐します。どっちを選ぼうと根本の結末が変わるわけではないため苦い余韻が残るのは同じです。
 
 しかし、トゥルーエンディングのほうは演出力が神がかっており、この重い題材に対して最高の幕の下ろし方と言っていいほどセンスが優れています。
 
 テーマ的に幸せな終わり方というのはありえず、かといって凄惨なだけの話として終わらせるのも歴史に対して前向きに見えず、それらの問題を解決するのに、このトゥルーエンドの落としどころは見事としか言いようがありません。
 
 まるで悪夢から目覚めるように、暗い色使いが生気を感じさせる色彩へと変わり、ある人物が辛い思い出を噛み締めながら始まりと終わりの場所へ向かう姿には、取り返しの付かない歴史への悔恨や、もう二度と過去へは戻れない時の流れの残酷さが透けて見え、この人の人生を思うと居たたまれなくなります。
 
 長い長い旅路の終わりに辿り着く学校は、もはや恐怖の対象ではなく、ただ哀しみだけをたたえた巨大な慰霊碑のようで、その佇まいを見るだけで胸を締め付けられました。
 
 物語にとってエンディングってどれほど大切なのかこのトゥルーエンディングの素晴らしさを味わうと痛感させられます。
 
 ベタベタ泣かせようとせず、ただ静かに見る者の心に死者の思いを去来させるという終わらせ方は、最後の最後でこれまでゲーム内で辿ってきた道筋が自分の中にも刻み込まれ、自分自身の記憶とこの物語が一体になるような感覚で、これまでプレイしたあらゆるホラーゲームの中でも最高のエンディングでした。
 

最後に

 
 クリアまで約4~5時間ほど。
 
 ゲーム体験を通じて過去の陰惨な歴史に触れ、それを自身に取り込み、記憶の一部にしてしまうような貴重な経験は忘れ難い思い出となりました。
 
 台湾の悲劇の歴史と、作り手の魂が深く刻みこまれたゲーム史に残る大傑作中の大傑作。