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【SF小説】これといって特色もない無難なノベライズ版 |『デス・ストランディング(ノベライズ) 上・下』| 野島 一人 | 書評 レビュー 感想

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作品情報
著者 野島一人
出版日 2019年11月28日
評価 65/100
オススメ度
ページ数 約672ページ

小説の概要

 
この小説は、ゲーム『デス・ストランディング』の内容に沿ったノベライズ版です。
 
ゲームのノベライズとしては大した完成度でもなく、あくまでゲームのオマケという域は出ません。
 
『メタルギアソリッド』シリーズの3や4のノベライズ版のように、小島監督の作風に過度に流されず作者が原作の物語を咀嚼そしゃくし自分の小説として成立させている完成度の高いものとは違い、あくまでゲームをやっていることを前提としそこにプラスαの情報や視点を加えたものでしかなく満足度は低めでした。
 

良くも悪くもゲームをプレイしている前提のノベライズ

 
このノベライズ版は、ハッキリ言って『メタルギアソリッド』シリーズのノベライズに比べると遙かに劣る出来でした。
 
これはメタルギアのようにゲームからストーリー部分だけ抜き出しても、ポリティカルサスペンスとして成立するのとは違い、元のゲーム版が他者との繋がりをゲームデザイン全体で表現するという斬新なことをしているせいで、そもそもノベライズに向いていないという要因もあると思います。
 
ただ、そのような元々ある問題を抜きにしても文体が淡々とし過ぎており、原作のゲームプレイや映像の迫力を活字に置き換えられておらず、読んでいてデスストランディング後の変わり果てたアメリカの風景がほとんど浮かんできません。
 
後、ゲームをやっている時に「これってサムはどういう感覚なのかな?」と思うような設定(顔の横でオデラデクがパタパタ動いてBTのいる方向を示している時の感じ方や手錠端末の装着感)などに関する描写もほとんどないため非常に味気なく、読んでいてまったくサムに感情移入できませんでした。
 
それに元のゲームは短い開発期間で作られていることもあり、ゲームの端々に作り込みが足りない部分が多々あるのにも関わらず、それをそっくりそのままノベライズ版でも採用しているため、結局登場人物はほとんどホログラムでしか登場しないとか、そこは変えてもいいのにという部分が手つかずなのもイマイチやる気を感じません。
 
数ある不満の中でも特に気になったのは全体的にホラー描写が弱すぎることです。BTのいる座礁地帯を通る際の恐怖やビーチ(あの世)と繋がっている時の感覚描写、クリフのいる戦場に引きずり込まれた時の混乱など読んでいてまるで緊張感がなく何度も退屈で眠くなりました。
 
ノベライズ版独自の面白味というものが極端に薄く、結局読んでいて楽しいのはゲームでも興奮した部分がほとんどでした。
 

物語の整理整頓には最適

 
本作は一本の小説として読むと物足りないだけですが、原作であるゲームのおさらいやテーマの整理などには非常に向いており、読むと確実にDSについての理解は深まります。
 
ゲームではバラバラに提示されるような設定の繋がりが分かりやすく並べられており、ノベライズ版を読むことで頭の中で点と点が繋がることも多々ありました。
 
アメリが歌うロンドン橋落ちたという人柱に関する歌と、聖母マリアが我が子が人類の救世主として犠牲となる未来を憂う姿を描いたレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画である『糸巻の聖母』、ゴルゴダの丘の十字架に、一度肉体が死んでも奇跡で復活を遂げたイエス・キリストと、ノベライズを読むとなぜサムが帰還者なのかが一発で分かるように書かれています。
 
それ以外もママーとロックネという一心同体の双子の話が後のブリジットとアメリの関係と繋がっていることや、ヒッグスとダイハードマンの二人は裏表の関係でそれゆえ仮面を付けていることなど、ゲームをプレイしている時には気付かなかった関係性が明確となり、やはりよく出来た物語と設定だなと改めて感心させられました。
 
それにゲームをやっている時はキューブリック映画のようなデザイン性に目を奪われたのに、映像がなくなると今度はタルコフスキー映画のような父と子の話が強烈に前に出てくるので、そういえば小島監督はずっと父と子の話を繰り返し描き続けている点がタルコフスキー映画と似ているなと気付くなど、文章で読むと映像とは異なる頭の使い方をするせいで色々と発見もありました。
 
ただ、残念だったのはゲームで一番ゾクゾクした過去に起こった生物の大量絶滅とDSの関係性が徐々に明らかとなるくだりが大幅に省略されており、ゲーム内ドキュメントの内容にも触れられていないことです。
 
このせいでDSという現象の数億年という規模のスケールがまるで感じられず、どうやってもノベライズ版だけ読んでも興奮はしません。
 
そのスケール感がないことに関係するのが、ゲームではあの世とこの世の境であるビーチが無時間に近いということを表現するために終盤に非常に長い時間プレイヤーをビーチで過ごさせるという手法を取っていたのが、小説では数ページくらいで終わるのであっさりし過ぎていることです。
 
このせいでゲームをプレイしていた時に感じた映画の『2001年宇宙の旅』のような時間感覚がおかしくなるような感動がなく、2001年ぽさはラストで骨を宙に投げるとかそんな表面的なくだらない目配せを入れる程度の扱いとなりガッカリでした。
 

最後に

 
ノベライズとしては可もなく不可もなくな無難な完成度で、読んで損はないものの、文章が薄味なためゲーム級の感動などは一切ありません。
 
ゲームクリア後もトロコンを目指してコツコツ配達を続けつつ、同時に二週目もプレイしていますが、ハッキリ言ってノベライズを読んでいる時間よりただゲーム内で歩いている時のほうが遙かに楽しいです。
 

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