えんみゅ~ -えんためみゅーじあむ-

アニメ、映画、海外ドラマ、ゲームなどのエンタメ作品総合レビューブログ ※グローバルメニューは左上です

えんみゅ~

小島監督から人類へ送られたモノリス DEATH STRANDING(デス ストランディング) 〈レビュー・感想〉

f:id:chitose0723:20191113183858j:plain

トレーラー

 
評価:150/100
 
作品情報
ジャンル ストランド・ゲーム
発売日(日本国内) 2019年11月8日
開発(デベロッパー) コジマプロダクション
開発国 日本
ゲームエンジン DECIMA(デシマ)

短評

 
 これまでの小島監督作品とは比べものにならないほどSF色が濃く難解な上に、小島監督個人の人生や思想、クリエーターとして多大な影響を受けた作品への愛が深く刻まれた内容で、プレイする側もある程度覚悟を求められる超重量級の作品
 
 荷物の配達のため、悪路や急斜面の山岳地帯を転ばないように歩くというただそれだけの行為によってもたらされる快感を極限まで突き詰めたゲーム性と、歩く喜びを支えてくれるゲリラゲームズとの繋がりによって実現した圧巻のグラフィックに目を奪われる。
 
 この世とあの世が繋がってしまった世界をずば抜けた映像センスで表現しきるバランス感覚や、赤ん坊が装備品というぶっ飛んだアイデア、小島監督のデザイナーとしての才能がいかんなく発揮された衣装や小物の美しさや、善意の好循環を産むように設計されたSNS要素を巧みにゲームデザインに組み込んでしまうコンセプトも見事。
 
 死が座礁してきた世界というゾクゾクするような設定と、そこから浮かび上がってくる壮大すぎるスケールのミステリー仕立てのSFストーリーと、ゲーム内のあらゆる要素が徹底された美意識だけで作られた、まさに芸術作品。
 
 そして何よりも小島監督が最も影響を受け、最も愛する映画である『2001年宇宙の旅』を見て小島監督が受けた衝撃そのものをゲーム体験で再現して見せようとするかのような途方もないまでの試みと、ゲームをデザインするとはどういうことなのか、創作をするとはどういうことなのかを問うてくる、間違いなく小島監督が手掛けたゲームの中でも飛び抜けた最高傑作。
 

あらすじ

 
 舞台は、この世死が座礁デスストランディングしたことで、この世とあの世が繋がった近未来のアメリカ。
 
 デスストランディング(DS)発生後のアメリカは、この世とあの世を繋ぐビーチと呼ばれる場所が認識され、時雨という触れたものの時間を進めてしまう雨が降り、BT座礁体と呼ばれるあの世の存在が地上を徘徊し、DOOMSドゥームスという異能を持つ人間たちが誕生する、DS発生以前の常識が通用しない世界となっていた。
 
 DSのもたらした混乱と、BTや時雨の影響でアメリカの人々は分断され、孤立主義に陥る者が増え、人々は他者との繋がりを自ら絶ってしまう。そんな人と人とが繋がることを求めなくなったアメリカを再建するため、伝説の配達人サムは、北米大陸を東から西へ横断し、孤立主義に陥る人たちの絆を再び繋ぎ直す配達の仕事を請け負う。
 

デス・ストランディングというゲームは一体なんなのかという究極の問い

f:id:chitose0723:20191113195737j:plain

 
 本作はデス・ストランディング(以下DS)という謎の現象で壊滅的な被害を受け人々が分断されたアメリカを再建するため、荷物を運搬しながら北米大陸を横断していく過程で、徐々にDSの謎が明らかになっていくという内容のゲームです。
 
 小島監督の過去作では一番SF寄りでストーリーが難解だった『メタルギアソリッド2』よりもさらにSF色が濃厚で、小島監督作品うんぬん以前にSFの楽しみ方を心得ているかどうかが問われるため、小島監督作品の中では最も取っ付きづらくなっています。小島監督は気合いを入れると話が難解になる傾向が強く、それがダイレクトに出てしまっており、これまで小島監督が手掛けた作品と同様のものを想像していると面喰らうことになります。
 
 本作の前に『メタルギアソリッドⅤ:ザ・ファントムペイン』を予習がてら最初からプレイし直すと、初回時には理解できなかった存在しない四肢が痛みを訴える幻肢痛ファントムペイン志なかばで散った者たちの思いと捉え、ポジティブなものとして解釈してみせるという、DSに共通するようなテーマ性があることに気付かされました。
 
 特に、小島監督と関係性が深い、若くしてこの世を去ったSF作家の伊藤計劃さんへのレクイエムであると同時に、この世を去った者たちの意志を継いで創作を続けていくという決意表明にも見え、種の絶滅という本来ならネガティブな現象すらポジティブに捉えなおしてしまう本作とメタルギアとの繋がりを感じ取れ嬉しくなりました。
 
 そして何よりもDSという作品に度肝を抜かれたのが、斬新かつ優れたデザイン性を持ち、難解でありながら見る者を惹きつけてやまない、小島監督が最も愛する映画であり、クリエーターとしての原点でもある2001年宇宙の旅に匹敵するものを本気で作ろうとしているその気迫でした。
 
 2001年宇宙の旅という、映画だけ見た場合には難解極まりない作品を目指している以上本作が難解なのはもう仕方がないことで、小島監督もある程度批判があることは重々承知な上で作っているため、その覚悟にも胸を打たれました。
 
 DSは、映画評論家の町山智浩さんが言っていた「芸術には答えがない、問いがあるだけ」という言葉をそのまま具現させたような作品で、ゲームの内側と外側にその問いを読み解くピースが無数に散らばり、そのピースを拾い集める困難さこそを体験して欲しいという小島監督の想いが見て取れます。
 
 町山智浩さんの『映画の見方がわかる本』でも引用されている、2001年宇宙の旅の共同脚本や小説版の執筆を担当したSF作家のアーサー・C・クラークの言葉である「2001年宇宙の旅を一度観ただけで理解したとしたら、我々の意図は失敗したことになる」という言葉通り、このDSというゲームも一度プレイしただけで腑に落ちるような代物ではなく、プレイヤーが体験した言葉にできない感情が何なのかを自らに問い続けることこそを目的として作られており、難解さは意図したものでしかありません。
 
 まるでどこか別の世界から座礁してきたように、種に変化をもたらすモノリスのように、DSというゲームは一体何なのか?なぜこんな得体の知れないものが存在するのか?という、無類の問いを運んでくる作品を作ってしまった小島監督はアーティストとしてさらに磨きがかかり、もはや畏敬の念すら抱くほどです。
 
 DSは『星を継ぐもの』や『幼年期の終わり』など、名高い傑作SF小説を読んでいる時のような思考実験によりもたらされるゾクゾクする知的興奮を味わえるSFな上に、死が座礁した世界という絵として成立させることが困難な設定を洗練された映像のイメージやデザインセンスで堪能させてくれる最上級の映像作品であることに加え、このゲームそのものが小島監督からプレイヤーに送られる究極の問いでもあるという、作品の全構成要素がどうかしてるほどの域に達しており、それゆえ2001年宇宙の旅がそうであるように人を選ぶのは仕方がないと思います。
 
 
 

f:id:chitose0723:20191113194737j:plain

ゲーム内で歩くことの喜びとは何なのかという問い

f:id:chitose0723:20191113195916j:plain

 
 本作はゲームとしては本当にただ単に広いマップの中で、言われた場所に荷物を配達するというおつかいをさせられるだけのゲームで、この部分に革新性はまったくありません。革新的なのは、その過程である配達のための移動をどうゲーム体験にまで高めるのかという試みです。
 
 それに、注意すべき点はサバイバル要素がかなり強めなことです。初期の頃の『バイオハザード』でどのアイテムを持ち歩くか悩むのが楽しいとか、『メタルギア サバイブ』で空腹や喉の渇き、酸素残量を常に気にしながら移動するのが緊張感があっていいなど、負荷を楽しめるかどうかが重要になります。
 
 配達先への移動ルートを自由に決めていいという部分や、はしごやロープというツールを使うと自由にショートカットコースを作れるというサンドボックスのような要素、カイラル通信を繋ぐと他のプレイヤーが設置した施設が使えるようになることで配達の行きと帰りで別の風景が広がるというアイデアもさることながら、特に魅力を感じたのはふんばるというアクションを移動に取り入れたことでした。
 
 このサムの馬力を上げる&ブレーキをかけるという役割のふんばる動作があるおかげでダッシュ移動・通常移動・ふんばりながらの移動・ステルス用のしゃがみ移動という、移動のバリエーションが増え、そのおかげでこの道を歩くのにダッシュするべきか、歩くべきか、ふんばるべきか、もしくはミュールやテロリスト、BTが近くにいれば身をかがめてしゃがみ移動するべきかと、常に選択を迫られるため、移動がただの作業になりません。
 
 これはステルスゲームでいうと立ち・しゃがみ・ほふくという姿勢を選べることに近く、敵がいないと立ち移動、敵がやや遠くにいたらしゃがみ移動、敵がすぐ近くにいたらほふく移動と、現在の状況を見極め姿勢を変えながら進んでいく快感をそのまま移動にトレースしており、さすがステルスゲームというジャンルを作り、状況に応じた姿勢の取り方や敵の配置に応じて移動ルートを選択する楽しさを突き詰めてきた小島監督らしい試みだなと感動しました。
 
 ただ単に移動モーションを増やしただけではこのような快感は絶対に生まれないので、周囲を観察したり、状況を鑑みてルートや足運びを選択したりと常に行動が緊張に支配されているステルスゲームのノウハウを移動に生かすというアイデアは画期的だと思います。
 
 このゲームは配達の際にどのルートを進むのか、迂回するべきか、ツールでショートカットするべきか、今現在設定したルートからどれくらいずれているのか、ずれているとしたらこのまま進むべきか戻るべきか、道の状態によってどのような歩行手段を選択するのかと、大小の選択を四六時中迫られることで頭が常にフル回転し続け、しかも時折そんな悩みを一切忘れてしまうほどの絶景に出会いふと足を止めて見入ってしまうこともあるなど、移動が刺激的で楽しくて仕方がありませんでした
 
 ゲリラゲームズの好意で、こちらはこちらで爽快なアクションを楽しめる傑作『ホライゾンゼロドーン』でも使われている超美麗な景色を眺めてもよし、アクションさせてもよしなゲームエンジンであるDECIMA(デシマ)を利用させて貰っていることで、歩く際の感動が倍増どころの話ではないほど強化されており、つくづくゲームの内側と外側のあらゆる場所にドラマが潜んでいる特別な一作だなと思います。
 

 

f:id:chitose0723:20191113194849p:plain

 

 本作をやるとゲームのグラフィックは一体どこまでキレイになるのか恐ろしくなるほどで、お金がないから通常版でいいやと妥協せず、PS4proでプレイすれば良かったと後悔させられました。
 

 

f:id:chitose0723:20191113195214j:plain

 

f:id:chitose0723:20191113200116j:plain

 

f:id:chitose0723:20191113195528j:plain

不満あれこれ

 
 本作は優れた箇所は突出しているものの、さすがに小規模なスタジオであるコジマプロダクションが無理をして大作オープンワールドゲームを作っているせいでそこかしこに問題が山積しています。
 
 まず最初に立ちはだかるのが序盤の異常な退屈さです。他のゲームと比べても、さすがにどうかと思うほどの単調さで、ここだけだと完全な失敗作にしか見えません。小島監督のファンである自分ですら「このゲームは危ないんじゃないのか」と不安になるほどの退屈さな上に、面白くなるまで5~6時間はかかるため、場面によっては眠気を堪えながらのプレイを強要させられます。
 
 序盤以外にも、とにかくゲーム内のあらゆるシステムの説明が意味不明という問題もあり、まともにテストプレイしたのかと思うほどシステムの理解に時間がかかります。
 
 自分の場合、血液というものがHPなのだと気付いたのが10時間以上プレイしてからでした。それ以外もインベントリ画面が煩雑極まりないほどぐちゃぐちゃで、装備を少し変えただけで決定を選択、ないしは○ボタンの長押しをさせられ続け、序盤はアイテムの出し入れをしたと思ったらされておらず、配達途中でツールを使おうとしたら装備をほとんど置き忘れてきたことに気付くなど散々な目に遭いました(これは慣れてくるとほとんど気にならなくなります)。
 
 それに十字キーの長押しでホイール式のメニューを開いている際にR3ボタン(右スティック押し込み)で次のページに移動できるということをしっかり説明してくれない(画面に表示されていても文字が小さすぎてまったく見えなかった)ので、所持しているはずのアイテムがなぜかメニューに表示されないことに焦りました。
 
 

f:id:chitose0723:20191113194533j:plain

 
 プレイヤーがここで混乱するだろうという問題点を先回りして説明するなどのユーザーフレンドリーな配慮がないため、ここはどうやっても擁護できないほどの酷さです。
 
 さらに視力の悪い人間にとっては文字が異常なほど小さく、ゲーム内のあらゆる文字がまったく読めません。4Kを優先したせいか、デザインとしての見映えを優先したのか、メールの文字が見えない、ドキュメントも見えない、フィールドでスキャンして落ちているアイテム名が画面に表示されているのに見えない、見えない、見えない、何も見えないと、ふざけているのかと思うほど見えません。
 
 それ以外も荷物を配達するゲームなのに肝心の配達先で荷物を人間が受け取る描写がないとか、セリフの一部が日本語としておかしい部分があるなど、このゲームをプレイすると小規模のスタジオが無理をして大作ゲームを作ろうとするとどの部分にしわ寄せがくるのかがよく分かります。
 
 それに、BTという敵との戦闘やボス戦もストレスまみれで、ここは小島監督の悪い癖が全開でかなりキツイものがありました。
 
 MGSⅤ:TPPで言うと高難易度版のスカルズ戦やサヘラントロプス戦、クワイエットのラストミッションで大量の戦車と戦わされる状況などと同じで、弾が切れたら支援物資を要請するということをさせたいために、とにかく敵の体力を異常に高く設定するなど、ただただ面倒なことをやらされるため、映像としての魅力はさておき、単純なボス戦まわりの印象は小島監督の歴代作品の中でも最低クラスです。
 
 小島監督のゲームのボス戦は国産ゲームのあらゆる欠点を全て盛り込んだような、敵が異様に硬くて弾切れしまくる上に連戦ばかりでしつこいものが多く、これは本作も大して変わりません。
 
 これ以外の文句も多々あるものの、ハッキリ言って本作が成し遂げたことの凄さに比べたらあらゆる全ての不満はどうでもいい些細なことでしかなく、不満の量のわりに別段この作品の価値を下げるほどのものではありませんでした。
 

最後に

 
 クリアまで約47時間ほど。別段急いだワケでもそこまで寄り道を大量にしたワケでもなく、そもそもプレイ中あまりにも楽しすぎて総プレイ時間なんてまったく気にもしなかったので、これが短いのか長いのか皆目分かりません(乗り物で移動すると歩く快感が味わえないのでほぼバイクにも車にも乗らず歩き続けていたのでその分長いかもしれません)。
 
 ただ荷物を配達するゲームと聞いてプレイ前に漠然と抱いていた不安を残らず吹き飛ばしてくれるほどの配達の中毒性と、SFとして超一級のストーリーを味わえプレイ中は至福で、もうほぼ余暇はDSに費やし、プレイしていない時間もひたすらDSのストーリーや設定、メッセージ性について思いを馳せと、完全なDS漬けの日々を過ごしました。
 
 自分がこれまでプレイしたあらゆるゲームの中でもぶっちぎりで一番好きという生涯ベストを更新しただけでなく、この世の中の全創作物の中でもトップクラスに好きな大切な一作になりました。
 
 今後の人生、この作品の問いを抱えながら生きていけることが嬉しくて仕方がありません。
 
 ゲーム史にステルスに次ぐ二度目のヒデオ・ストランディングを起こすほどの超傑作!
 

本作の意図が読み解ける副読本として最適なエッセイ集