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コレクションは資本主義を駆動させるエンジン 『コレクションと資本主義 -「美術と蒐集」を知れば経済の核心がわかる-』 著者:水野和夫 山本豊津 〈書評・レビュー・感想〉

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本の情報
著者 水野和夫
山本豊津
出版日 2017年9月8日

本の概要

 
 この本は、経済学者である水野和夫さんと、画商である山本豊津さんのアートと資本主義についての対談をまとめた本です。対談の書籍化といっても、一冊の本として読めるように対談としての臨場感(やり取りが噛み合っていないとか、話が脱線する、など)はほぼ取り除かれ、ひたすら要点だけを繋ぐのみで、二人の人間性が垣間見える瞬間は皆無です。
 
 ページ数は控えめですが、話が最初から最後までほぼ途切れず繋がっており、どこか一箇所でも理解につまずくとその後の流れも把握できなくなるほど濃い内容で、読み進めるのに若干苦労します。
 
 コレクション(蒐集しゅうしゅう)というキーワードを中心に、歴史の流れに沿いながらアートと資本主義の関係を探っていくという試みは知的興奮に満ちており、この本を読む前と後では資本主義というものに対して考え方が劇変します
 
 ただ、全体的に経済の話が中心で、アート史はその補完のような関係なため、アートの話を求めている場合は若干物足りなさも感じます。
 

資本主義という暴れ馬

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 この本の主旨は、博物館や美術館に象徴されるコレクション(蒐集しゅうしゅう)という欧米的な価値観を中心に、様々な世界史の事件とその当時の経済やアート史を並べて語ることで互いにどう影響を与え合っているのかを探っていくというものです。
 
 中でも一番面白かったのが、コレクションという考え方で世界中の資本の流れを追うことで、徐々に資本主義が自らの意思で蠢く生き物のような振る舞いを見せる摩訶不思議さでした。
 
 国内で発展の余地がある産業に投資が行き渡ると今度はまるで意思を持ったかのように資本が国外へと飛び出し、技術革新が起こると経済のスピードを加速させより富を集めようと暴走が始まり、物理空間の産業を食い尽くすと今度はデジタル空間へと投資先を移し、それすら限界が見えると今度は手付かずのアートを投資の対象とし飛びつくと、まるで資本主義が新鮮な獲物を求めさまよい歩く空腹の獣にしか見えなくなります。
 
 この本は、序盤から終盤までほぼヨーロッパ史の話が途切れず続くため、ローマ帝国の時代から絶大な影響力を誇ったキリスト教がいかに資本主義の勢いに敗北を喫したのか、その後は現代の神として君臨する資本主義がいかに投資先を求め暴走を繰り返したのかという流れが追いやすく、これまで知っていた歴史に対し異なる視座が持て刺激的でした。
 
 次に、コレクション(蒐集)は、資本主義の拡大の結果ではなく原因という指摘も衝撃でした。富を求め世界中を植民地とした結果としてイギリスの大英博物館やフランスのルーヴル美術館という略奪品を展示するための場所が生まれたのではなく、そもそも蒐集こそが目的であり、蒐集欲が人を動かしているという考えは恐怖すら覚えます。
 
 このコレクションという考え方で現代社会を見ると、大量の商品を扱うAmazonも、一生掛かっても視聴しきれない動画を用意するネットフリックスやYouTube、一生プレイしても無理な量のゲームが集まるゲームプラットフォームのsteam、どこまでも無限に情報を集積し続けるデータベースであるWikipediaですらも全てコレクション欲の暴走の一端に見え、これらのサービスは人類が消費しきれないほどの富を求め無限に拡大していく資本主義の権化にすら見えてきます。
 

これらが全部コレクションの本場である海外から入ってきたサービスというのも不気味です

 
 それと、コレクションが得意な欧米と、コレクションが苦手な日本では、審美眼や批評力に影響が出るという話も興味深く読めました。
 
 画商として絵を長年売り続けてきた山本豊津さんが言うには、現代アートという比較的新しい形の作品を購入するのはほとんどが外国人で、日本人は評価がすでに確定した後の物にしか手を出さない保守的な人間が多くコレクターとしてのレベルが低いという話です。これも、ヨーロッパとコレクションの関係を知るとなるほどと思う説得力があります。
 
 コレクションとは優れた美術品を蒐集し選別する行為で、その過程で審美眼が自然と磨かれるのに対し、蒐集へのモチベーションが低い国はそもそも物を見る目が鍛えられず、どの美術品が後々価値が出るのか読めない、つまり投資のセンスが磨かれず後手にしか回れないと、そんな弊害もあるのかと考えさせられます。
 

アートは時代を映す鏡

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 自分は、少し前まで芸術で金を稼ぐということは汚らわしい行為であると漠然と思い、金の話をしたがるアーティストをうさん臭いと思っていました。しかし、様々な本を読むことで、世界史と経済、アートの関係を知り、なぜ最近のアートから強烈な金の匂いがし、そしてアートと経済が切っても切り離せない関係なのか、その理由が理解出来るようになりました。
 
 アートというのが時代を映す鏡である以上、ルネサンス以前のキリスト教が強かった中世は、アートからは宗教の匂いキリスト教の匂いが漂うのが普通で、宗教戦争や世界大戦が勃発した時代はアートからは死や暴力、度重なる戦争からもたらされる虚無感の匂いが漂い、現在の資本主義が暴走の極みに達した時代のアートから金の匂いがするのは当然と、その因果関係が手に取るように分かります。
 

むしろ現代のアートに金の匂いがしないほうが不自然ですね

 
 アートという人間の想像力を肯定する非常に前向きに思える営為が、実はあらゆる文化に金の匂いを付着させる資本主義と似た構造でもあるという話は『アートは資本主義の行方を予言する』で語られ、この本はその仮説を経済学者が世界史と経済学によって裏打ちをするような内容となっています。
 

 
 『アートは資本主義の行方を予言する』を読んだ際はアートが秘めるどこまでも価値を高められる可能性に希望を感じましたが、この本を読むと、果たしてアートが資本主義という腹を空かした獣の捕食にどれほど耐えられるのか心配にもなります。
 

最後に

 
 最低限のヨーロッパ史の知識(主権国家体制を確立させたウェストファリア条約くらいは理解していないとキツイ)は求められますが、読めば読むほど世界史と経済、アートの関係性が分かり刺激的でした。
 
 この本を読むことで、コレクション(蒐集)という概念を元に、資本主義が世界の果てまでも富を求め拡大していく様が手に取るように分かり、ヨーロッパ史がまた違った見え方をする、非常に知的興奮が味わえる一冊です。
 
 
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