PV
評価:75/100
放送期間 | 2015年7月~9月 |
話数 | 全13話 |
アニメ制作会社 | P.A.WORKS |
アニメの概要
この作品は、『Kanon』や『AIR』、『CLANNAD』など数々の名作アドベンチャーゲームのシナリオを執筆した麻枝准脚本のオリジナルアニメです。
作品の魅力をヒロインに頼り切るという強引さが気になるものの、その重圧に耐え抜くほど主人公に救いの手を差し伸べてくれるヒロインが輝いて見え確かな存在感がありました。
しかし、終盤になるとヒロインを軽視する上にストーリーも完膚無きまでに破綻し後味は最悪であまり褒められた作品ではありません。
あらすじ
妹を溺愛するシスコンの乙坂 有宇 は、中学生のある日たった5秒間だけ他人の意識を乗っ取り自由に体を操れる特殊能力に目覚める。
能力を散々悪用した挙句、カンニングを駆使して名門高校に進学する有宇だったが、自分と同様に能力に目覚めた者を捜索・保護・監視をしている星ノ海学園の生徒会に捕らわれてしまう。
生徒会に、能力は思春期の子供にしか使えず、大人になると自然と消えてしまう病気でそれゆえ能力が発現した子供への非合法な人体実験が横行し自然と能力が消える年齢になるまで学園で保護していると説得された有宇は、妹と共に学園に強制転入させられることに。
自分と家族である妹以外の人間に決して心を開かない有宇だったが、能力を見込まれしぶしぶ星ノ海学園の生徒会の一員として能力者たちの保護に協力する奇妙な学園生活が幕を開ける。
シスコンキャラの系譜
本作に対する第一印象はルルーシュみたいな主人公とナナリーみたいな妹とギアスのような能力が出てくる『コードギアス』の酷いパロディみたいなアニメ、でした。
ルルーシュにしか見えないシスコンの主人公が登場し、使う際に瞳がドアップになるというギアス以外何物でもない能力発動描写がされ、ひたすら特殊能力を悪用してルルーシュとは真逆の小賢しい悪戯に励むという一話の冒頭は『コードギアス』という名作をおちょくっているのかと誤解します。
主人公の見た目がルルーシュっぽいことの利点は(『コードギアス』を見ていれば)ルルーシュと同じで妹を溺愛しているシスコンという設定を一瞬で飲み込ませる効果が抜群なことで、これは元が重度のシスコンというイメージが定着したキャラデザを真似るとシスコン設定が成立しやすくなるのかと妙な感心も覚えました。
良作の香り漂うコミカルな序盤~中盤
序盤から中盤は脚本を担当している麻枝准さんの関わる作品にほぼ一貫する作風である、一見コミカルな青春ドタバタコメディをやっているように見えて背後ではいつか幸せな時間が無慈悲に終わりを迎えるであろうという儚い予感が漂い続け、ほぼ緊張状態が途切れませんでした。
若干各回の話の作りが甘く不満は感じるものの、それでも特殊能力者を仲間と共に探して回り、コミカルな能力を用いて問題を解決していくテンポの良いドタバタ劇は一定の面白さがあります。
ドタバタ劇を稼働させる歯車であり、本作を支える柱となるのはヒロインの友利 奈緒 の突出した存在感で、自分がプレイしたKeyのノベルゲーやアニメの『エンジェルビーツ』など、麻枝准作品の中でも上位の可愛さと魅力を誇り、正直このヒロイン目当てで最後まで見続けたと言っても過言ではないほどです。
悩み苦しむ主人公の傍に(文字通り)寄り添い、ベタベタしない距離感で叱咤激励し、自分と妹以外の他者を見下しバカにする利己的な主人公の固く閉ざされた心の扉を開け放ってくれる存在としてこの上ない説得力があります。
ただ、ヒロインに魅了され楽しく視聴できていた本作が、中盤以降はこのキャラの出番が回を追うごとに目に見えて減っていき、底の浅い特殊能力設定や中盤以降に登場するキャラに役割を奪われることで崩れ去っていきました。
『ガンダムSEEDデスティニー』化して崩壊していく中盤~終盤
最初は、特殊能力は『Kanon』で言うと舞ルートのようなややシュールレアリスティックなこぢんまりとしたスケールにとどめ、自己中心的な主人公が成長し、他人を思いやれるようになるというテーマ性を際立たせるためのサブ的な装置程度の手段として割り切って使うのかと思っていました。
しかし、中盤以降は何をとち狂ったのか青春ドタバタコメディが終わり、この特殊能力を中心とするシリアスな話が始まり、そのあまりの薄っぺらさに落胆させられます。
世界観設定はじめ主人公たちの使う特殊能力設定はディテールがゆるゆるで浅くとてもこれを前面に押し出して成立させられるほどの質に達していません。
オマケに、本作の魅力の大半を占めるヒロインや今までずっと生徒会の仲間として過ごしてきたクラスメイトたちが唐突にメインポジションを奪われるため終盤ほぼ登場せず、そのため知らない連中に作品を乗っ取られるようで不快でした。
終盤登場するキャラたちは主人公たち星ノ海学園の生徒会メンバーをアシストするのではなくポジションごと奪ってしまうのでこれまでコツコツ積み上げてきた青春ドラマが事ここに至って崩壊します。
特に作品の魅力を一手に担っていたヒロインが終盤役割がなくなりほぼ登場しなくなることで物語に対して興味が完全に消え失せました。
イマイチひねりの無い特殊能力を用いた大して深みもないスケール感を出し損ねた駆け足展開の終盤はこれまで積み上げてきたもの全てを無に帰し失望だけを残して終わりを迎えます。
特殊能力周りの根本部分の設定が致命的にアイデアと厚み不足なため、たとえ2クールに尺を伸ばしたところで結果はきっと同じだろうと思います。
特殊能力は頑固に心を閉ざす主人公が他者と心を通わせるキッカケとして機能する思春期にしか使えないささやかな奇跡程度にとどめ、あくまで中心は青春ものに絞っておけば良かったのにと残念でなりません。
せっかく『蒼穹のファフナー』のような、OP曲の歌詞が実は本編と連動し、回を重ねるごとに歌われている内容の意味合いが理解できるようになるという面白い仕掛けが施されているのに、終盤が酷すぎて完成度の高いOPアニメーションに本編が貫禄で負けているように見えます。
最後に
終わって見ると『世紀末オカルト学院』『フラクタル』『ガリレイドンナ』『翠星のガルガンティア』『残響のテロル』『パンチライン』『甲鉄城のカバネリ』、etc……と、タイトルを挙げ出したら枚挙にいとまがないほどありがちな、映像作品としては良質なのにも関わらず1クールという尺に合わせたシリーズ構成に失敗し話がぐちゃぐちゃだったという消化不良な印象を残して終わっていく1クールアニメの典型でした。
ただ、あらゆる欠点を許容したくなるほど突出した魅力を放つヒロインの存在感で嫌いにはなれません。
余談
悪徳TVプロデューサーを特殊能力で懲らしめるという展開がどことなく『水戸黄門』などの時代劇っぽいノリなので、そう言えばゲーム版の『クラナド』の藤林姉妹ルートも、話から受ける印象が大岡越前の三方一両損ぽかったなぁということを唐突に思い出しました。
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