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【Xbox360】志の高さをうまく活かし切れなかった佳作 |『CHAOS;HEAD NOAH(カオスヘッド ノア)』| レビュー 感想 評価

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OPアニメーション

 

評価:75/100

作品情報
ジャンル アドベンチャー
発売日(日本国内) 2009年2月26日(Xbox360版)
開発(デベロッパー) 5pb.(現 MAGES.)×
ニトロプラス
開発国 日本

ゲームの概要

 
この作品は、後の『シュタインズゲート』や『ロボティクスノーツ』へと繋がる科学アドベンチャーシリーズの1作目です。
 
主人公の自室をCGで立体的に見せることで生活感を出すというこだわりや、多数のメディアを駆使して物語を複眼的に語るという語りのセンス、オタクカルチャーと陰謀論を混ぜるという斬新なアイデアなど、次世代のノベルゲーを作ってやろうという熱い情熱とセンスが詰まった力作でした。
 
しかし、衝撃展開の連続が見所の割に事件解決のため自主的に動こうとしない腰の重い主人公や、物語を無理なく成立させるのに必要なディテールの弱さ、文章のスキップが遅すぎて周回プレイが拷問のように辛いなど、欠点を挙げだすとキリがないほど不満が尽きません。
 

あらすじ

 
渋谷のとあるビルの屋上に設置されたコンテナで美少女フィギュアとエロゲーに囲まれ引きこもり気味な生活を送るキモオタ高校生の西條 拓巳(にしじょう たくみ)
 
拓巳世間を揺るがす連続猟奇事件、通称ニュージェネの狂気には目もくれずネトゲと二次元美少女との妄想に勤しんでいた。
 
しかし、人間が壁に磔にされるというニュージェネ事件の一端を目撃してしまったことがキッカケとなり、拓巳の日常が徐々に狂気に浸食されていく。
 

ノベルゲーの歴史を変える? 主人公の自室演出

 
この作品で最も印象に残ったのは擬似的な3Dで表現される主人公の自室でした。立体的な3D空間は手書きの背景よりも遥かに無機質で圧迫感があり、拓巳というキモオタ主人公と相性が良くしっくりきます。
 
虚しく鳴り続けるPCのHDDのカリカリとしたシーク音。空虚に響き渡るイスの軋み。無音に近い部屋では暴力的とも思える音量で叩きつけられるキーボードのタイピング音など、これほどまでに自室描写だけで主人公の性格の暗さや救いの無さを表現し、主人公に感情移入させられたノベルゲーは初めてです。
 
序盤は、音をゲーム世界との接点として利用するサウンドノベルの鏡のような環境音演出に「これはとてつもない傑作なのでは!?」と期待に胸が膨らみました。
 
・・・しかし、その期待も徐々に失望へと変わっていきます。
 

複数メディアをスイッチさせながらの語り口が次世代の香りを漂わせる

 
本作で巧みなのが、多数のメディアを使った情報の提示手法です。
 
作文用紙をアップにしたり、ネットニュースサイトを丸々見せたり、チャットに貼り付けられたグロ画像を見せたり、動画投稿サイトにアップされた動画風に見せたり(厳密には動画ではない)と、時代に合わせるように自然なメディア選択がなされ、非常に効果的でした(過去の回想なら紙やTV、現在ならネットニュースや動画サイトなど)。
 
ここら辺の見せ方は他のノベルゲーの語り口とは格が違い、作り手の意識の高さが窺えます。
 

サスペンス+クリフハンガー

 
本作は事件が何一つ解決しないのにも関わず次から次へと途切れることなく新しい事件が起こり続けるクリフハンガー主体のストーリーテリングを採用しています。
 
自分はサスペンス大好き人間なので、これほど過剰なまでにプレイヤーを飽きさせないようサービス満点の姿勢で作ってくれれば、多少後々に辻褄が合わなくなろうとも大丈夫・・・と言いたいところでしたが、あまりにも目に余る欠点が多く、途中から「これはダメだ」と脱力し、徐々に話しに対しての興味が失せていきました。
 

サスペンスなのに・・・

 
まず、序盤で感情移入させられた主人公のダメさ加減描写は素晴らしいのに、いかんせんサスペンスというジャンルの主人公としては致命的な欠陥があります。
 
それは、
 
 
事件にまったく興味を持たないこと
 
 
プレイヤーが調べて欲しいことには興味を示さず、事情を知ってそうな人に質問できる機会があってもことごとくコミュ障だから人に話かけられないという理由で聴けず仕舞い。中盤以降もまだ事件を避け続けたがる主人公に腹が立って仕方がなくなります。
 
この主人公は常にプレイヤーとズレたものにばかり興味を抱き、こちらがやって欲しいことはスルーで、プレイヤーがただのミスリードだろうと気付いている部分にばかり執着し続け、ストレスしか溜まりません。
 
プレイヤーの視点(物語の乗り物)としては完全に欠陥だと思います。
 
これほどまでにサスペンスの主人公として不適合なキャラは見たことがありません。全てのあからさまなミスリードに反応し続ける主人公に殺意すら芽生えてきます。
 
そもそもミスリードとはプレイヤーに対してなされるものであり、なぜそれに主人公のほうが積極的に喰いつくのか理解に苦しみます。
 
例えば、主人公はヒロインの一人をずっと悪魔だと言い続けますが、プレイヤーはプロローグやその他の言動でこのヒロインがそうでないことにかなり早い段階で気づき、主人公の過剰な恐がり方に辟易しだします。
 
もしこのヒロインを悪魔だと思い込ませたいのであれば、それは主人公ではなくプレイヤーに「もしかしたらこのヒロインには裏があるのかも」と思い込ませなくてはならず、主人公が勝手にそうでないものをそうだと思い込んで怖がっているのを延々見せられ続けるのは鬱陶しいだけでした。
 
怖がらせなければならないのは主人公ではなくプレイヤーのほう
 
しかも終盤になると序盤~中盤にかけて起こったほとんどの奇怪な出来事は作中設定のギガロマニアックスという特殊な能力を用いた妄想だったというのが明らかになり、マジメに文章を読むのがバカバカしくなりました。
 

ヒロインが空気だが、魅力的なシチュエーションもちらほら

 
このゲームは疑似ギャルゲー的な複数ヒロインスタイルを取っていますがヒロインの背景が掘り下げ不足でまったくもって魅力が皆無でした。
 
数少ないときめきポイントは、あからさまにあやしい美人の先輩が主人公に近寄ってくる、トキメキとサスペンスの入り混じった序盤と、イジメにあって失語症になってしまった少女とギガロマニアックスの力を使いテレパシーのように頭の中で二人きりで会話しお互いの心の傷を慰め合う中盤のシーンくらい。
 
特に序盤の美人の先輩が怪しさ全快で主人公に近寄ってくる展開はこのゲームの中で一番興奮したポイントでした。
 
キモオタに美人が謎のテンションで言い寄ってくるだけで十分サスペンスになるのだと妙な感心を覚えました。このゲームをプレイすると、エロゲーと美少女フィギュアだらけの部屋に美人の先輩を招くというシチュエーションがこの世界で最もサスペンスフルなのではないかと本気で考えさせられます。
 

スキップ遅すぎ!!

 
個人的なプレイ環境の話ですが、Xbox360のDL版を購入したのでマニュアル無し状態でやっていると妄想トリガーという普通のノベルゲーでいう選択肢的なシステムがあることに気づかず、中盤近くまでトリガーを一切発動させないまま進めてしまう事態に陥りました。
 
ゲーム内で妄想トリガーというシステムを一切説明してくれないのは不親切とも思いましたが、雰囲気作りが大事なノベルゲーで現実に引き戻されるシステム説明なんてするわけはないかと諦めました。
 
妄想トリガーのことは微々たる問題ですが、最大の問題はスキップの遅さです。
 
このゲームは初回プレイ時はEDまではほぼ一直線で、その後二週目から各ヒロインの個別ルートがオープンされます。そのため周回プレイで個別EDの回収になるのですが、いかんせんスキップのとろさが尋常でなく大してボリュームもない7人分のヒロインの個別ED回収に軽く10時間近く掛かりました。
 
しかもヒロイン別の個別EDも一部を除いてただの後付けのようなものがほとんどで、特にこれを見たからといって本編の印象が強化されるわけでもない薄い内容です。それにも関わらず多くの時間を奪われたまったものではありません(スキップが遅いのはXbox360版だけかもしれません)。
 
トゥルーエンドを見るためにはこれらの個別ED回収作業が必須なため、ひたすらスキップの遅さに耐え続ける時間は苦痛でした。
 

最後に

 
サスペンスが効いている序盤は十分楽しめますが、中盤~終盤にかけてのあれもこれも全部妄想でしたというトンデモ展開で一気に評価がガタ落ちしました。
 
ただ、後に『シュタインズゲート』に繋がる魅力的な要素も見受けられたので、こちらが種でシュタゲが実だとするならば、よくこんな怪しい種があそこまで熟れた果実に育ったものだという感慨も味わえます。
 

余談

 
ギガロマニアックスはKIDのインフィニティシリーズの一作である『NEVER7』に登場するキュレイシンドロームという設定と酷似しており斬新さは特にありませんでした。
 
しかし元KIDのスタッフが5pbに在籍していると知り、5pbの科学アドベンチャーシリーズに流れるインフィニティシリーズの遺伝子に密かに胸が熱くなりました。
 

科学アドベンチャーシリーズ 

 
 
 
 
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