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【ビジネス書】デザイン、それは発見力 |『ビジネスの武器としての「デザイン」』| 奥山清行 | 書評 レビュー 感想

本の情報
著者 奥山清行
出版日 2019年11月1日
難易度 普通
オススメ度
ページ数 約264ページ

本の概要

 
この本は、アメリカのGM(ゼネラルモーターズ)やドイツのポルシェ、イタリアのフェラーリ(の、カーデザインを担当するピニンファリーナ)と、世界中で工業デザインの仕事に携わってきた作者が、デザインをビジネスに活かす方法を語るビジネス書です。
 
そもそも工業デザインとはどのようなもので、創作意欲を満たすためのアートや製品の見た目を良くするスタイリングとどこが決定的に違うのかを解説しており、工業デザインへの理解が深まります。
 
ただ、これまで作者が様々な本で語ってきたデザイン論やブランド戦略に関する持論など、内容が被っているものが多く目新しさはさほどありません。
 

正直『100年の価値をデザインする』という新書のほうが内容が尖っており満足度は上でした

デザイン、それは掃除をエンタメ化する発想

 

この本の中で工業デザインを用いてビジネスを成功させたお手本として紹介される製品は電気機器メーカーであるダイソン社の透明なサイクロン式掃除機です。
 
普通、掃除機をデザインするといったら見た目が美しくオシャレな掃除機を作ることがデザイナーの仕事であると勘違いするところを、作者と同じく工業デザイナーであるジェームズ・ダイソンは掃除機を透明にすることでどれだけゴミを吸い込んだのかその成果を目に見える形にし、掃除そのものを楽しむという価値を創造したことが革新的だったと解説されます。
 
このようにデザイナーの役割とは見た目を美しく整えるスタイリングに終わらず、人々が無意識に求める「こういうものがあったら人生がもっと楽しく豊かなものになる」という願望を発見し、それを手に取れる形に仕上げることが最も大切というのがこの本のデザイン論です。
 
このダイソンの透明なサイクロン式掃除機から工業デザイナーの役割を解説するというくだりが非常に分かりやすく、たった一つの優れたデザインが人々の生活を一変させるほどの力を持っていることがすんなり理解できました。
 
このようにただの面倒な家事労働だった掃除を娯楽へと生まれ変わらせ掃除機をブランド化させたように、隠れた需要を発見しデザインをビジネスに結びつけ利益を生むアイデアが全編に渡って紹介されています。
 

フラッグシップ(旗艦)ブランドの重要性

 

元々カーデザイナーとしてフェラーリの車をデザインしていた奥山清行さんらしく、今回もお馴染みのフェラーリのブランディング戦略や、日本のセイコーが作る高級ダイバーウォッチを例にしたストーリーデザインなど、様々なブランド論が語られています。
 
奥山さんのフェラーリで徹底的に叩き込まれたブランディングテクニックの話は毎回刺激的で面白く、このブランド論が読みたくて本を買っているといっても過言ではありません。
 
今回の本で最も印象的だったのがフラッグシップ(旗艦)・ブランドがいかに大切なのかという話です。フラッグシップ・ブランドとは、数あるブランドの中でも最も高級で力を入れた企業の看板となる製品のことです。
 
意外だったのはフラッグシップ・ブランドで利益を上げる必要はないという持論で、あくまでブランドのイメージを高く維持するための投資であるという指摘がされます。
 
さらに、フラッグシップ・ブランドに力を入れると社員が自分たちはどんな製品を作っているのか理念が可視化され、それが社内で共有されることでもの作りの方向性が定まることと、フラッグシップ・ブランドに憧れて優秀な人材が集まるためリクルートが優位になるという考え方も新鮮でした。
 
この社内に向けてもフラッグシップ・ブランドを大切にしなければもの作りの方向性を見失ってしまうという考え方は、実際に海外の超一流ブランドを扱う企業で働いていたデザイナーならではの視点で説得力があります。
 
この本を読む前は漠然と企業の看板製品とはその企業の中で一番の稼ぎ頭というイメージがありましたが、フラッグシップとなる製品は企業のブランドイメージを形作るためのものであり、利益を求めてブランド価値を下げては企業イメージの低下や優秀な人材が確保できなくなるなど、後々に影響が出るという考えのほうがしっくりくるようになりました。
 

最後に

 
工業デザインに関する説明や、フラッグシップ・ブランドなどブランディングに関する話以外も、日本はデザイナーをアーティスト扱いし、海外はコンサルタント扱いするという、世界を股にかけるデザイナーらしい話が楽しく、あっという間に読めてしまいます。
 
優れたデザインとは見た目が美しいだけでなく誰も気付かなかった未知なる価値を発見しそれを形にすることで世の中をより良く変えることであるというデザイン論は普遍的でこの本を読んで工業デザインに対してより興味が湧きました。
 
 

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