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【サイエンス】ビットコインのカラクリが分かる! |『ブロックチェーン -相互不信が実現する新しいセキュリティ-』| 岡嶋裕史 | ブルーバックス | 感想 レビュー 書評

本の情報
著者 岡嶋裕史
出版日 2019年1月17日
難易度 普通
オススメ度 ☆☆
ページ数 約256ページ

本の概要

 
この本は、情報セキュリティの専門家が、暗号通貨ビットコインに使われるブロックチェーンというセキュリティについて解説するブルーバックスの科学本です。
 
最初にコンピューターはどのようにデータの改ざんを見破るのかというセキュリティに関する基礎や、デジタルの判子はんこであるデジタル署名というブロックチェーンを理解する上で必須となる知識を説明した後に、最後はビットコインを例にブロックチェーンとはそもそもどのような仕組みで動くのか解説されます。
 
情報セキュリティという著者にとって得意分野ということで解説が分かりやすい上に、コンピューターのセキュリティに関する仕組みがメチャクチャ面白く読んでいて快感でした。
 

基礎→応用という流れがスムーズでいつも難解なブルーバックスにしてはスラスラ読めます

 
この本を読むと、データの改ざんや不正な取引が不可能となるブロックチェーンの利点や、逆に維持するのが困難かつ効率が非常に悪いというメリット・デメリットが把握でき、ブロックチェーンというセキュリティがどのような用途に適する適さないという判断が可能となる、非常に有益な一冊でした。
 

ブルーバックスなのにつまずかない、徹底した読者目線

 

この本で一番勉強になったのは、実はブロックチェーンの解説ではなく、そもそもコンピューターはどのようにデータの改ざんや破損をチェックするのかという基礎的なセキュリティの説明でした。
 
なぜかと言うと、そもそもブロックチェーンとは従来のセキュリティを応用したものに過ぎず、原理としては特に目新しいワケではないためです。なので、セキュリティの基礎部分さえ理解してしまえばブロックチェーン自体にそこまで新鮮な驚きがありません。
 
この、本来なら難解であろうセキュリティの話が面白いと感じる要因は、何よりも徹底的な読者目線を貫き、コチラがつまずきそうな部分は先回りして疑問を潰してくれる丁寧さです。
 
これは、著者が普段から人にセキュリティの知識を教えることに馴れており、読者がどこで頭を抱えるのか事前に予想できるからだと思います。
 

 
冒頭で、ハッシュ値という情報セキュリティの基礎中の基礎をPCのスクリーンショット画像で何度も繰り返し見せてくれるため、その後もハッシュ値を用いるセキュリティが出てきても役割がイメージがしやすく、理解に手こずることはほとんどありません。
 
このハッシュ値に関する説明は冒頭約60ページも続き、そのおかげで本の最初から最後まで自分は何を説明されているのか見失うことなく楽しく読めました。
 
ただ、唯一手こずったのは公開鍵暗号の説明とデジタル署名の説明が連続している箇所で、この部分だけ理解に約2~3時間かかりました。ここは明らかに前後の繋がりの説明が足りておらず、先程の説明といきなり真逆のことが書かれているように見え、非常に混乱します。
 
それ以外は、もう少し詳しい説明が欲しいと感じる箇所(RSA暗号の仕組み、など)もあるものの、概ねいつも難解で読むのに苦労するブルーバックスとは思えないほどスラスラと内容が頭に入ってきました。
 

ハッシュが分かるとゲームの『ドラゴンクエスト』の初期にあった“ふっかつのじゅもん”がなぜゲームデータを不規則な文字列で出力するのかなんとなく分かります

ブロックチェーンのメリット・デメリット

 

この本の主旨はブロックチェーンとはどのような仕組みなのかを解説することですが、前述した通りセキュリティの基礎が分かるとブロックチェーン自体は既存のアイデアをうまく組み合わせたものであり、それ自体に目新しさはさほどありません。
 
個人的にブロックチェーンに対する事前の印象と大きく異なったのは、そもそもブロックチェーン(ビットコイン)は日常的に利用する用途に不向きということです。
 
ビットコインに使われているということから海外への送金を容易にするためなど、インターネットの長所を生かし金銭のやり取りを簡易化・高速化する目的に作られた効率の良いシステムだと思っていましたが、実際は莫大なコストや電気代がかかり、そもそも日常生活やビジネス用途にあまり向かないという解説は予想外でした。
 
さらに、ブロックチェーンとはお互いに一切相手を信用していない者同士が相手を信用しないままでも公正な取引が行えるという特殊な状況を想定したセキュリティであり、互いに信頼関係がある場合においては効率が異常なほど悪いだけであまり役に立たないという話も驚きでした。
 
例えば、北欧のような国家が国民に政治情報を公開するような開かれた国においては役に立たず、日本のように腐ったゴミ役人が平気で公文書を改ざん・偽造するような国においては不正が全てブロックチェーンで保存されるため有効という、実際は役に立つケースがあまりに限定されるため、知れば知るほどなぜブロックチェーンが儲け話の一環として話題になるのか疑問に思うほどです。
 

どちらかというとブロックチェーンはビジネス向けというよりは権力の監視や不正の監視など、監視システムとして有用といったイメージを持ちました

最後に

 
事前の予想と異なり、実はブロックチェーンというセキュリティはビジネスにおいてはさほど応用が効かず、腐敗した国家や組織を監視する目的など、特殊な用途において有効という極めて扱いづらいものであることが分かり、非常に勉強になりました。
 
それに、セキュリティの基礎が丁寧に説明されるおかげでブロックチェーンをベースに作られているNFT(非代替性トークン)などの仕組みが類推できるようになるというオマケもあり、ブロックチェーンというセキュリティを理解するには有用な一冊です。
 
 

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