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[映画]黒い家 〈レビュー・感想〉 森田芳光監督による黒い家のようなもの

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評価:70/100
作品情報
公開日 1999年11月13日
上映時間 118分

短評

 
 原作小説と話の筋は一緒なのに、作品の勘所である保険会社の社員を疑似体験するようなドキュメンタリータッチな作風や、一見普通に見える人間がサイコパスとしての異常性を垣間見せる怖さ、生命保険を通じて現代人のモラルが低下しているという問題に警鐘を鳴らすテーマ性など、小説版の長所を根こそぎ排除し、森田芳光映画として作り変えた、原作とはほぼ別物の作品。
 
 黒い家の実写映画版としては完全なる失敗作だが、サイケな映像を堪能できる森田芳光監督作品としては最低限の魅力がある。
 

サイコパスの意味がまるで分かっていない映画版

 
 この映画は生命保険会社に務める主人公が、保険金殺人の疑いのある案件の担当となり、客から保険金を支払えと脅迫され追い詰められていくというホラー小説を原作とした作品です。
 
 映画版は登場人物やストーリー自体はほぼ原作小説をなぞっているものの、ホラー小説として恐怖を感じる部分や、犯人の描かれ方原作から大幅に改変されており、作品から受ける印象自体はまったくの別物です。
 
 特に、犯人の描かれ方が原作とは真逆な点が深刻で、外見は普通の人間なのに実は人間性が完全に欠落しているという設定から、見た目も言動も全て異常な変人になっているため、黒い家を見ているという実感がほとんどありませんでした(原作の設定を忠実に映像化するなら、最近の映画だと『クリーピー 偽りの隣人』の香川照之さんの役柄のような、場面によってまともな人間にも異常者にも見えるという不気味さが近い)。
 
 このせいで、主人公を追い詰める夫婦役の大竹しのぶさんと西村雅彦さんが映画中ずっとコントのような動きやしゃべり方で無理に変人を演じるため映画全体にふざけた空気が蔓延し、ホラー映画としてはほとんど成立していません。
 
 それに、生命保険を通じて現代社会のモラルの低下を浮き彫りにするという原作のテーマやメッセージ性は根こそぎ消失しているため、犯人夫婦はモラルが低下した現代人の氷山の一角で似たようなケースが他に山のようにあるのが真に恐ろしいという社会派ホラーという原作の重みはなく、記憶にも残りません。
 
 ただ、黒い家の映画版としては不満でも、終盤は奇怪なイメージや映像の連続で、ホラーとコメディが融合したような傑作である『家族ゲーム』を撮った奇才森田芳光監督らしい、もはやシュールレアリスティックにすら見える光景に笑ってしまい、トータルではそこそこ楽しめました。
 
 原作にはまったくない、犯人の狂気のメタファーである月が、黄色いボウリングの球になり、それが最終的に凶器になって襲いかかってくるというアイデアを見ると森田芳光監督はシュールレアリスム寄りの作家なんだなとこの映画を見て改めて気付かされました。
 

最後に

 
 全編昭和の映画のような古くささで映画としての完成度は低く、ホラー小説として傑作である原作と同等の完成度を期待すると落胆させられるだけで、黒い家の映画版としての魅力はまったくありません(原作者である貴志祐介さんはここまでメチャクチャにされたら怒ってもいい出来)。
 
 しかし、森田芳光監督の常識に囚われない自由な作風を堪能する映画としてはそこそこの価値があり、見て後悔はありませんでした。
 

小説版