評価:75/100
公開日 | 1999年11月13日 |
上映時間 | 118分 |
映画の概要
この作品は、貴志祐介原作のホラー小説『黒い家』の映画版です。ストーリーは、保険会社の社員が、保険金目当ての殺人の疑いがある案件の担当となり、客に保険金を払えと脅迫を受けるという内容で、話の筋は原作と同じです。
しかし、作品の勘所である保険会社の社員を疑似体験するようなドキュメンタリータッチな作風や、ごくごく普通に見える人間がサイコパスとしての異常性を垣間見せる怖さ、生命保険を通じて現代人のモラルが低下しているという問題に警鐘を鳴らすテーマ性など、小説版の長所は根こそぎ排除されています。
そのため『黒い家』の実写映画版としては完全なる失敗作ですが、サイケな映像を堪能できる森田芳光監督映画としては最低限の魅力があります。
サイコパスの意味がまるで分かっていない映画版
映画版は登場人物やストーリー自体はほぼ原作小説をなぞっているものの、ホラー小説として恐怖を覚える部分や、犯人の描かれ方が原作から大幅に改変されており作品から受ける印象自体はまったくの別物です。
特に、犯人の描かれ方が原作とは真逆な点が深刻でした。外見は普通の人間なのに実は人間性が完全に欠落しているという設定から、見た目も言動も全て異常な変人になっているため、『黒い家』を見ているという実感がほとんどありませんでした。
原作の設定を忠実に映像化するなら、映画『クリーピー 偽りの隣人』の香川照之さんの役柄のような、場面によってまともな人間にも異常者にも見えるという不気味さが近いです
このため、主人公を追い詰める夫婦役の大竹しのぶさんと西村雅彦さんが映画中ずっとコントのような動きやしゃべり方で変人を演じるため、映画全体にふざけた空気が蔓延し、ホラー映画としてはほとんど成立していません。
それに、生命保険を通じて現代社会のモラルの低下を浮き彫りにするという原作のテーマやメッセージ性は根こそぎ消失しており、犯人夫婦はモラルが低下した現代人の氷山の一角で似たようなケースが他に山のようにあるという真の怖さが消え去せ、社会派ホラーとしての重みもありません。
森田芳光の作家性
本作は『黒い家』の映画版としては不満しかありまんが、単にイチ映画としてはそこそこ楽しめます。
終盤は奇怪なイメージや映像の連続で、ホラーとコメディが融合したような傑作『家族ゲーム』を撮った奇才森田芳光監督らしい光景の連続に思わず恐怖するより笑ってしまいました。
最初は、犯人がやたらボーリング好きという原作には一切存在しない設定が謎でしたが、犯人の狂気のメタファーである月が黄色いボウリングの球になり、それが最終的に凶器になって襲いかかってくるというアイデアを見ると森田芳光監督は設定より映像で語るシュールレアリスム寄りの作家なんだなと、この映画を見て改めて気付かされました。
最後に
全編昭和の映画のような古くささで映画としての完成度は低く、ホラー小説として傑作である原作と同等の完成度を期待すると落胆させられるだけで、『黒い家』の映画版としての魅力はまったくありません。
原作者である貴志祐介さんはここまでメチャクチャにされたら怒ってもいいと思います
しかし、森田芳光監督の常識に囚われない自由な作風を堪能する映画としてはそこそこの価値があり、見て後悔はありません。
小説版
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