発光本棚

書評ブログ

発光本棚

【海外ドラマ】新旧神々たちの狂宴 |『American Gods(アメリカン ゴッズ)シーズン1』| レビュー 感想 評価

トレーラー

評価:100/100
作品情報
放送期間(アメリカ) 2017年4月~6月
話数 全8話
アメリカ
ネットワーク Starz

ドラマの概要

 
この作品は、ニール・ゲイマンの小説『アメリカンゴッズ』を原作とするTVドラマのシーズン1です。原作は未読です。
 
ストーリーは、古き時代の神々とテクノロジーやインターネットといった新興の神々が現代人の信仰心を賭けて戦争するという寓話です。
 
話の推進力はほとんどなく、世界最先端の映像イリュージョンを堪能するためのドラマであり、あまり見やすい作品ではありません。
 
神の威厳を役者の演技力と研ぎ澄まされた映像美のみで表現するという非常に困難な課題を見事達成しており、紛う事なき大傑作でした。
 

あらすじ

 
移民者たちが信仰とともにアメリカへ持ち込んだ古き神話の神々たちは時代を経るごとに人々から忘れられ、過去の存在へと追いやられていた。
 
そんな古き神の一人ウェンズデイはかつての信仰を取り戻すため、テレビやインターネット、ソーシャルメディアを駆使しアメリカ国民の関心を独占する新時代の神々たち(テクノロジーの神やメディアの神、グローバリゼーションの神、など)に戦争を挑むべく、古き神々たちに集結を呼び掛けていく。
 

神々が座するに相応しい妥協なき映像美

 
本作の見所は何と言っても役者が人間の姿のまま神々を演じるという困難な設定を成立させるための、演出、撮影、編集、役者の演技とテクニックを総動員した圧巻の映像美の数々です。
 
ちょっとしたカメラアングルの工夫や照明の当て方、手作りの特撮技術で画面に不自然さを生じさせる古典的なテクニックと、ハイテクを駆使した最先端のVFXやCG技術を融合させた、古めかしくもあり、斬新でもあるという相反する魅力が詰め込まれた画面の圧には気圧されます。
 
信仰の荒々しさや狂気性、麻薬性を体現するかのような毒々しいほどのOPも見応えがあり、何十回も繰り返し摂取したくなるほどの中毒性があります。
 
人の姿をした神という成立させるのが困難な設定を神々しい深みのある佇まいで演じ切って見せる役者陣の迫真の演技力も冴えに冴えており、一瞬たりとも普通の人間に見える隙がありません。
 
古典的&革新的、荒々しさ&神々しさと、それぞれ異なるベクトルの技巧やトーンが喧嘩せずに仲良く作品内で同居しており、この映画を易々と凌駕してみせる映像センスを初めて見た時はこれがテレビドラマなのかと驚きました。
 
この新旧の映像技法の融合ぶりは、古き神々と新しい神々との戦争という対立構図をさらに飛び越えて、古きも新しきも全てを受け入れてしまう神の懐の深さを表現しているようにも見えます。
 

ドラマ版ハンニバルとの共通点

 
設定やセリフではなく、画面の違和感や不穏さだけで、そこにいるのが人ならざる超常の存在であるということを納得させてしまうという手法は、本作の(1話~3話までの)監督であるデヴィッド・スレイド監督が同じく監督を務めていたドラマ版『ハンニバル』でやっていた手法をさらに発展させたものだと思います。
 

 
アメリカンゴッズを体験した後にドラマ版ハンニバルを見直すと、「これはアメリカンゴッズならぬ、アメリカンサイコパスだったんだ!」と気付け興奮します。
 
普通の人間のフリをして一般社会に溶け込んでいる殺人鬼のサイコパスっぷりを映像だけで説得力を持たせて描いて見せるという手法に本作に通じる志を感じました。
 
ハンニバルと同様の、何度も特定の言葉やイメージを、回をまたいでセリフや映像で反復させるという手法が本作でもそのまま使われています。それは単純に伏線として機能するものもあれば、何か巨大な存在の手の平の上で踊らされ、運命を自分以外の何者かに握られているのではないかというパラノイアックな不安を誘う効用もありました。
 
両作品ともあまりにも高度過ぎて一回通して見ただけだと情報を把握し切れない複雑なストーリーテリングを試みている点も共通しており、映像美ともども繰り返し視聴するのが非常に快感です。
 
本作の日常性というものをごっそり剥ぎ取られたかのような、良い意味で不自然極まりない映像群は魔性の中毒性があります。
 

最後に

 
間違いなく世界トップクラスの底が見えない恐ろしいほどの才能を持つデヴィッド・スレイド監督始め、その他映像作家たちの手腕が発揮され尽くした珠玉の映像体験をこれでもかと堪能できる大変贅沢な作品でした。
 
 
 
 
TOP