はじめに
今回は2022年8月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
今月はPC版のxboxゲームパスで『トゥエルブ ミニッツ』という俯瞰視点のアドベンチャーゲームをプレイし、これが当たりでした。
このゲームは、ごく普通のアパートの一室を舞台に時間が無限ループし続ける状態から脱出を目指すというアイデアが素晴らしく、クリアまで一気にプレイしました。
一見なんの変哲もないアパートの一室でループを繰り返すたび、なぜ警察を名乗る謎の男がアパートを訪ねてくるのか、そして妻はなぜ自身の過去をひた隠しにするのかという謎が徐々に明らかになっていくというシチュエーションに作り手のセンスが凝縮されています。
ただ、細かい不満が山積しており、ゲーム開始直後は試行錯誤の楽しさがあってもしばらく続けるとプレイが作業化してしまうという重大な欠点もあります。しかもチュートリアルがなく、難易度も非常に高いのでほぼ自力クリア不可能で攻略サイトを見ないと高確率で先に進めなくなり詰みます。
『エコーナイト』シリーズの1、2、ネビュラなど昔のフロム・ソフトウェアのアドベンチャーゲームを思い出すような不親切&高難易度ぶりです
自分の場合は携帯でメールを読めることに気付けず、ある地点から先に進めなくなり数時間グルグルと同じループを繰り返すという状況に陥り結局ネットで攻略情報を調べました。
このゲームは部屋の色々なアイテムを移動させられるため、最初は部屋の中のアイテムを移動させることで新しい状況を作りゲームを先に進めるというコンセプトなのかと思いきやそうではありません。実際はループを繰り返す過程で妻との会話に新しい選択肢が発生し、この選択肢を選ぶことが主な進行フラグとなっており、プレイすればするほどただ会話の選択肢を増やすためにループを繰り返す単調さが顔を出し、そこは惜しいなと思います。
さらに高難易度に拍車をかけるのがリアルタイム進行という点で、このせいで刻一刻と時間が過ぎゆく中で的確にアイテムの使用を迫られ、しかもノーヒントです。そのため自力でゲームを進めようとすると状況の分析以外にもアイテムの使い方に多少の閃 きも要求され、多分プレイヤーの大半は自力クリア不可能だと思います。
アパートの一室で起こるタイムループ状態を脱出するため試行錯誤する過程で夫婦が抱える問題が徐々に明らかになってくという状況設定や俯瞰視点というアプローチは斬新かつセンスも抜群で新しいゲームをプレイしているという満足感があるのに、難易度設定は昔の高難易度アドベンチャー然といった癖の強さで、一筋縄ではいかない難しいアドベンチャーゲームが好みならハマると思います。
正直、インディーズゲームとしてはシュールレアリスティックなストーリーテリングなら『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』のほうが圧倒的に上で、俯瞰視点のインディーズゲームという点なら『ホットラインマイアミ』の完璧なセンスには劣ります。
しかも、シチュエーションの作り方は確かな才能を感じさせるのにストーリーそれ自体は凡庸で、かつ中盤以降はやたらセリフでベラベラ真相を説明され、個人的にここはまったく好感が持てませんでした。
しかし、ありそうでなかったごくごく普通のアパートの一室を舞台にした俯瞰視点のタイムループアドベンチャーゲームというコンセプトは、ズバ抜けたセンスのインディーズゲームをプレイしているという確かな手応えを感じさせてくれ、プレイして絶対に損はありません。
ここ最近プレイしたゲームの中ではダントツのセンスと面白さでした
ちなみに、このゲームをプレイして思い出したのが初代PSの『UFO -A day in the life-』というゲームでした。もしハイセンスな本物のアドベンチャーゲームを探しているなら、コチラもオススメです。
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プレイ動画
このゲームは、お笑い芸人の伊集院光さんがニンテンドー64『風来のシレン2』と同時に生涯ベストゲームの一本として挙げており、完成度は初代PSのゲームの中でもベスト10に入る紛うことなき本物の傑作です。
厳密にはループ系ではありませんが、リアルタイムでキャラクターの行動を繰り返し観察し、洞察力と想像力を駆使して答えを導くという点においては共通しており、ハッキリ言って『トゥエルブ ミニッツ』よりゲームデザインのセンスは遙かに上です。
これをベストゲームに挙げる伊集院さんは他のゲーム好き芸能人の中でもゲームを見る目が突出して優れていることが分かります
タイムループから脱出するというシチュエーションとしてはこのゲームもほぼ同じです
伊集院さんはこの本で『風来のシレン2』と『UFO -A day in the life-』をベストゲームとして紹介しています
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小説 2冊
・『夢をかなえるゾウ 1』 著者:水野敬也
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うだつの上がらない平凡な会社員が、ゾウの姿をした謎の神様ガネーシャから成功へのヒントを授かるという大ヒットベストセラー自己啓発小説です。
この本は最後まで読み終えるとなぜベストセラーになったのかという秘密が分かります。
中身は至って単純で、成功するために必須なのは他者への思いやりや感謝、そして何よりも重い腰を上げて実際に行動することというシンプルなメッセージが貫かれており、最初はうさん臭く感じても読み終わる頃にはこの本で伝えたい真の想いが汲み取れ静かな感動に包まれます。
大人でも子供でも両方それぞれに訴えるように書かれており、多分自分の年齢に応じて感動の質が変わると思います
ただ、自己啓発小説と書かれていますが、これが小説かと言われるとさすがに疑問です。単に自己啓発書に小説もどきをくっつけただけで、小説としての魅力は特にありません。
読み始めてしばらくは文章が拙くありがちなポジティブメッセージが続き「何だコレ?」状態ですが、ラストまで読むと自分が忘れていた人として大切なことを思い出させてくれ、読後は優しい気持ちになれる一冊でした。
・『夢をかなえるゾウ 2』 著者:水野敬也
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『夢をかなえるゾウ』シリーズの2作目で、1作目同様にゾウの姿をした謎の神様ガネーシャが成功するためのヒントを教えてくれるという自己啓発小説です。
主人公が1作目の平凡な会社員から売れないお笑い芸人へと変わり、成功のヒントを授ける神様もガネーシャの他に貧乏神の幸子が追加されと、悪い意味で続編らしくごちゃごちゃしています。そのせいで肝心のガネーシャの存在感が前作より大幅に薄れ、ただの狂言回しになった感すらあります。
1作目はお金に目が眩み忘れていた本当に自分がやりたいことを思い出すというシンプルな内容だったのに比べ、2作目はお笑い芸人が主人公で自分ではなく他者を幸せにすることの意味や大切さを説く話となり、1作目よりコミュニケーション論に比重が置かれています。
2作目はつまらないというほどではありませんが、1作目に比べるとやたら登場人物を増やしたり、笑い成分を盛りに盛ってくどくなっていたりと、余計な贅肉がついてシンプルさが損なわれており、あまり好きにはなれませんでした。
ゆるいやり取りで油断させておいてふいに鋭いメッセージを挟むというスタイルも同様で正直あまり変化を感じません
そのせいで1作目のラストにあった日常生活で軽視しがちなあることを読者自身がハッと思い出すという静かな余韻が消え、人工的な感動を押し付けられるようでイマイチ乗れませんでした。
書籍 6冊
・『伝説の7大投資家 -リバモア、ソロス、ロジャーズ、フィッシャー、リンチ、バフェット、グレアム-』 著者:桑原晃弥
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伝説的な7人の投資家の投資スタイルを知ることで投資の心構えを説く新書です。
基本は7人の人生をダイジェストで追いつつ、個々の経験から学んだ投資スタイルも併行して紹介するというスタンスです。なので投資家を個別に紹介する本に比べると一人一人の分量は控え目なため、あくまで有名な投資家の投資スタイルを手軽に知りたい人向けの内容といった感じでした。
ただ、7人連続で有名な投資家の人生を読んでいくと投資に対するこだわりに共通点のようなものも見えてくるため、これはこれで面白く読めました。
特に、自分の知らないものには絶対に投資すべきでないという点は全投資家に共通しており、これは『バビロン大富豪の教え』で知らないビジネスに手を出すべきでないという教えにも通じます。
そこから、人が手痛い失敗をする時とは自分でもよく分からないことをしている時だという教訓が学べ、いかに事前の勉強や調査が大事なのか改めて確認できました。
さすがにここまで有名な投資家が全員同じことを言っていると説得力が段違いです
・『教養としてのテクノロジー -AI、仮想通貨、ブロックチェーン-』 著者:伊藤穰一、アンドレー・ウール
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著者がまだMIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボで所長を務めていた時代(現在は退所)に書かれたテクノロジーが社会にどのような影響を与えるのかを語る新書です。
と言っても、ほとんどが著者の思い出話なため、あまり最新のテクノロジーに切り込むようなスリルはありません。
それとテクノロジーはテクノロジーでも、アートや都市デザインなど、文化方面に特化したテクノロジーの話が多めで、期待していた金融やビジネス寄りの話ではありませんでした。
それでも、車とは遠くに出かけるための乗り物であり都市は本来は歩行で移動することを前提にデザインするべきというネイバーフッド(ご近所さん)を大切にする都市デザインの話は斬新で、この話は興味深く読めました。
ただ、全体的には方向性がバラバラな話の羅列で、読んでいる最中は面白くても読み終えると結局この本は何が言いたいのか分からないというモヤモヤした気分になる一冊でした。
・『お金に困らない人が学んでいること』 著者:岡崎かつひろ
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社会人をターゲットに“学び”という手段の自己投資をオススメするビジネス書です。
著者がセミナー講師のためかワンフレーズで要点を説明したり、他の著作から文言を引用するセンスが優れていたりと、読んでいて退屈する瞬間は無く一気読みするほどスルスルと内容が入ってきます。
ただ悪い本ではありませんが、どこかで読んだことがあるようなアドバイスのオンパレードでこの本独自の勉強法のようなものは皆無でした。
目先のフローな流行より長く持つストック型の知識を優先して学習しようとか、脳が活性化する朝の勉強や、ながら学習が可能な耳学問のススメ、とにかく考える前に行動しようなど、特に目新しい情報はありません。
読みやすい反面学びは浅く、正直これを読むくらいならもっとヘビーなビジネス書か自己啓発書、本当にビジネスで成功している人の本などを読むほうがマシです。
色々なビジネス書のいいところをつまみ食いするような薄さです
・『改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん』 著者:ロバート・キヨサキ
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アメリカ(ハワイ州)の日系4世の実業家・投資家であるロバート・キヨサキが、子供時代に出会った金持ち父さんというメンター(指導者)から学んだお金持ちになる極意をレクチャーする本です。
『金持ち父さん 貧乏父さん』というタイトルから父親が二人いる複雑な家庭で育った人の話なのかと思いきやそんなことは無く、そこは若干期待ハズレでした。
内容はまさに現代でもそのまま通じるマネーリテラシー本の古典といったものですが、あまりにも色々な人が内容をパクリまくっているので、逆に目新しさがまったくありません。
多分リアルタイムでこの本を読んでいたら自分の人生観も変わったかもしれないと思うほどお金の哲学が詰まっており、マネーリテラシーを高めたいと願うなら必読の一冊です。
・『改訂版 金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』 著者:ロバート・キヨサキ
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同じくロバート・キヨサキがお金持ちになるための極意を授けてくれる『金持ち父さん』シリーズの2作目です。
この本ではキャッシュフロー・クワドラントという4つの属性が登場し、前巻の金持ち父さんと貧乏父さんの二人はどのクワドラントに属し、各クワドラントに属する人々はそれぞれどのような思考方法なのかが解説されます。
本としての完成度はコチラが圧倒的に上で『金持ち父さん 貧乏父さん』が面白いと感じたなら続けて読むのがオススメです。
この本を読むと、なぜお金持ちと非お金持ちはそもそも会話がまるで成立しないのかという長年の疑問に対して、属するクワドラントが異なるからというシンプルな解答がなされ、疑問が氷解しました。
それ以外も、各クワドラントで成功していない人のアドバイスは聞く価値がないという考え方もしっくりきました。
ネットを見ていると明らかに投資で生計を立ててているように見えない人が投資のアドバイスをしていたり、到底ビジネスで財を成したように見えない人がビジネス論を語っていたりと、初心者をカモにするような怪しい人物が大勢いますが、クワドラントに当てはめて見るとなぜそのような人たちがうさん臭く見えるのか一発で分かります。
なぜファイナンシャル・プランナーを名乗る人は詐欺師にしか見えないのかという疑問も解決します
・『金持ち父さんのアンフェア・アドバンテージ』 著者:ロバート・キヨサキ
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この本も『金持ち父さん』シリーズの一冊で、アンフェア・アドバンテージ(知っている人だけが得をすること)というタイトル通り、お金を稼ぐ上で知らない人と知っている人では差が出るやや裏技的なテクニックが語られます。
『キャッシュフロー・クワドラント』と同様で過去に語られた話をもう一度掘り下げて語り直すというスタイルなため、正直新しい情報は希薄でした。
基本は、金本位制が終わった後に刷られるお金は全て国の借金証書でしかないニセ金であり、現金をそのまま貯金してもインフレで価値が減るだけなので銀や金といったコモディティに投資したり、現金を無限に生み出す資産に変えて所有するべきと言う、過去シリーズとさほど変わらない主張が繰り返されます。
なぜ不労所得を生み出す資産を持つべきかという過去シリーズから一貫する考え方に対して、なぜなら紙幣(お金)とは国の借金でしか無く、国の借金のために生涯働き続けるのはバカげているからという解答がなされるのがこの本最大の主旨です。
それ以外も、全ての人間は給料の良い雇用先を探す労働者側になるのではなく、高給を雇用者に支払える経営者側となり世の中に雇用を創出するべきという、なぜBやIクワドラントが重要なのかその根拠が語られます。
他にも、税金とは国民が国に対して支払う不労所得という考え方には思わず笑いました
全体的に、早くお金持ちになることで、給料を貰う側から支払う側になり、世の中に雇用を創出して社会貢献して欲しいというメッセージが強めです。
最後に
今月は『トゥエルブ ミニッツ』をプレイしてリアルタイムによる緊張感の出し方やプレイヤーをあえて待たせる間の溜め方などから『UFO』を連想し、その流れから伊集院さんのゲームに対する独自の美意識に強い影響を受けたことをふと思い出した月でした。
伊集院さんのような元落語家のお笑い芸人という特殊な経歴を持つ人らしく通常のゲーム好きとは変わった視点でゲームを捉え、プレイする際は想像力を駆使した独自の遊び方を実践し、決して効率を重視せずマイペースにゲームを楽しむ姿勢に強い影響を受けられたのは今思うと幸運だったなと思います。
『UFO』のような古典落語家がプレイすると大胆な間の溜め方に衝撃を受けるなど、特定の感性に特化した人ゆえのゲーム論こそがなにより貴重で、そのような意見こそ自分のゲーム観を広げてくれるのに、そこを忘れていたなと『トゥエルブ ミニッツ』が思い出させてくれました。
ゲームはテレビ的な沈黙を嫌うセコセコした間の取り方ではなく古典落語的な大胆な間の取り方や溜め方が出来るなど、元落語家としてのゲーム論は参考になり、伊集院さんのゲーム美意識は確実に今の自分の一部になっています
『金持ち父さん』シリーズもメンター(指導者)を持ち、メンターから多くのことを学ぶことの大切を繰り返し語りますが、自分にとってのゲームのメンターは伊集院さんだったなとこの歳で初めて気付けました。
ちなみに伊集院さんが『トゥエルブ ミニッツ』をプレイした際の感想です