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【#18】クロエ・ジャオの『ザ・ライダー』で映画熱復活の2月

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はじめに

 
今回のミニ・ブックレビューは2022年2月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
 
今月は、AmazonのファイヤーTVスティック 4K MAXを購入したため、色々なVOD(動画配信サービス)の使い勝手を試しました。
 
配信されている動画のラインアップで意外だったのが、AmazonプライムやU-NEXTで『爆走兄弟レッツ&ゴー』のTVアニメシリーズ(無印、WGP、MAX)と劇場版、さらに『激闘!クラッシュギアTURBO(ターボ)』が視聴可能だったこととです(2022年2月現在)。
 

 

 

 
これらの作品はDVDレンタルされておらず長年見る手段が限られていたので、サブスクで見放題になっていると知って驚きました。子供向けのおもちゃをモチーフにしているアニメは他にも無印ゾイドなど傑作が数多くあるので、もっと増えて欲しいと思います。
 

久しぶりに『レッツ&ゴー』の劇場版を見たらストーリーのあまりの適当さに笑ってしまいました

 
それ以外に、2月はVODでそこそこ映画を見ましたが、中でも飛び抜けて大傑作だったのがクロエ・ジャオ監督の『ザ・ライダー』です。
 

 
落馬して大怪我をしたカウボーイがロデオを続けるか辞めるかをひたすら悩み続けるだけという地味な映画ですが、最初から最後まで全ショット完璧に映画しており、これぞ映画の中の映画という渾身の一作でした。
 
ここ1、2年は映画から離れており、クロエ・ジャオ監督も『ノマドランド』というロードムービーを撮った人程度の認識で、ここまで映画を撮るために生まれてきた映画の申し子のような天才とは知りませんでした。
 
『ザ・ライダー』があまりにも衝撃的すぎて、続けてアカデミー賞の作品賞と監督賞を受賞している『ノマドランド』も見ましたが、コチラは手法が『ザ・ライダー』のただの焼き直しなことと、批評家ウケや賞狙いが露骨すぎて好きになれず、結局『ザ・ライダー』が最高という結論に至りました。
 

しかも『ザ・ライダー』は日本でブルーレイが発売されていないという酷い有り様で、こういう時は日本って映画後進国なんだなと残念な気分になります

 
ここ数年は急激に記憶力が衰え、昨日見た映画の内容を次の日全て忘れているということがザラにあり、映画への熱が冷めていました。しかし、クロエ・ジャオ映画の、主人公を精神的にとことん追い詰める作風は、宮尾文学に通じる人間観察力と人間への深い愛情が感じられ、自然と映画への欲求が再燃し、今後はリハビリがてら映画を見る量を増やしたいと思います。
 
そして、2月末にはついにロシアのウクライナ侵攻が始まってしまい、そちらの情報を追うだけで精一杯となりました。第二次世界大戦のキッカケであるナチス・ドイツのポーランド侵攻を当時の人はこのような気分で目の当たりにしたのかと思い、暗鬱としたまま2月を終えることに。
 
ロシアの隣国であり、ロシアと領土問題を抱える日本にとっても他人事では済まされず、当たり前だと思っていた平和がいつ崩壊するか分からないという恐怖を突きつけられる忘れられない月となりました。
 

小説 5冊

 
・『朱夏』 著者:宮尾登美子
 

 
日中戦争の末期、満蒙まんもう開拓団の一員として満州国へと移民し、日本敗戦後は大陸から日本へ過酷な引き揚げをした、作者の実際の体験を元に書かれた小説です。
 
この小説は実際にそのような事態に遭遇していなければ書けないシチュエーションで埋め尽くされており、空想で書かれた小説とは感触が別物でした。
 
例えば、現地の満人が突如部屋に侵入してきて何かされるのかと身構えると、かまどで卵を茹で始め、それを食べたら何事もせずそのまま退出して去っていった話など、一応その後に起こる展開の予兆という役割はあっても出来事としては意味不明で、作者が本当にそのような謎の場面に遭遇したという困惑がありのまま伝わってきます。
 
配給される食べ物がごく僅かなため餓死寸前までガリガリに痩せていく描写も悲惨で、それゆえ異国の避難生活で不意に出会った大好きなうどんの匂いに思わず泣きそうになるというエピソードも実際に経験していないと書けない切実さがありました。
 
それに、この小説を読むまでは移民者の引き揚げは敗戦後すぐに始まったのだと思い込んでいましたが、実際は敗戦から一年経ってようやく日本への引き揚げが決まったとあり、移民者たちは一年もの間異国の地で途方に暮れ絶望の淵を彷徨っていたのだと知ることも出来ました。
 
満州から引き揚げてきた人たちが味わった苦難の追体験とともに、作家・宮尾登美子のルーツを知ることも出来る貴重な一冊です。
 

 
・『仁淀川』 著者:宮尾登美子
 

 
満州から故郷の高知県に引き揚げた後の暮らしが描かれる『朱夏』の直接的な続編です。
 
満州での非現実的とも言える過酷な避難生活とは打って変わり、都会の嫁と田舎の姑というまるで価値観が噛み合わない嫁姑問題の息苦しさや、同じく自伝小説である『櫂』の主人公でもあった大好きな義理の母・喜和との死別など、地に足着いた純文学的な作風となっています。
 
小説全体が母への愛と感謝で溢れており、『櫂』が好きであればあるほど心に突き刺さるアフターストーリーでした。
 
ただ、ラストが宮尾小説の中でもワーストの粗さで、ここさえうまく締めていれば傑作だったと思います。
 

 
・『山の霊異記 赤いヤッケの男』 著者:安曇潤平
 

 
・『山の霊異記 黒い遭難碑』 著者:安曇潤平
 

 
・『山の霊異記 幻惑の尾根』 著者:安曇潤平
 

 
山岳ホラーと言うか、山にまつわる怪談が収録されたホラー短篇集です。
 
ホラー小説としては怖さがまるで足りず不満もありますが、作者の山を愛する想いが文章からストレートに伝わってくるため、読んでいると自然と山が好きになるという副次効果があります。
 

この『山の霊異記』シリーズを読んだことがキッカケで山の雰囲気が知りたくなり、今月は登山やキャンプ関連のYouTube動画を大量に見ました

書籍 3冊

 
・『東大合格生のノートはかならず美しい』 著者:太田あや
 

 
東大合格生たちが実際に使っていた効率的なノートの取り方テクニックをレクチャーする本です。
 
この本はノート術を扱うビジネス書だと思って購入すると主なターゲットは現役の受験生で、受験の心構えが大量に書かれており、若干困惑します。それに思っていたより本のサイズが大きくかさばるのも誤算でした。
 
ただ、通信教育の教材を販売する仕事をしていた著者が、色々な大学生と実際に会ってノートを見せてもらうと東大合格生のノートはやたら美しく、頭の良さとノートのキレイさは関係するのではないかと仮説を立てこの本の執筆に至ったという経緯は非常に興味を惹かれました。
 
実際に読むと、明らかに東大生はノートの使い方を熟知し、頭が良い人はノートを効率的に使いこなす能力も高いという著者の仮説の正しさを証明しており、仮説と検証や企画の作り方のお手本としても参考になります。
 

ただ、東大以外の有名大学に合格した人たちのノートと比較がないので完全にフェアとも言えません

 
自分もノート術を実践しており、特に気を付けているのは疑問に思ったことや自分なりの解釈をノートに片っ端から書きまくり、再び読み返した時にかつての自分の理解への道筋を再現できるようにする工夫です。
 
東大合格生のノートにも最初は理解できなかったことがどのような過程を経て理解するに至ったかという、理解への道筋をノートに記録し読み返すことで再現するという工夫が多く見られ、やはりノート術の本質は理解への再現性にあると再認識させられた一冊でもあります。
 

結局色々なビジネス書を読んで自分なりにカスタマイズしたノート術の正しさを東大合格生のノートで実感するという遠回りな結果になりました

 
中には、重要な情報ごとに大見出し・中見出し・小見出しと文頭を変えるなど、自分が実践していなかった細かいノート術テクニックも紹介されており、参考にしたいと思います。
 
 
・『読むだけですっきりわかる戦国史』 著者:後藤武士
 

 
“応仁の乱”から始まり“大坂冬の陣 夏の陣”で終わる戦国時代をダイジェスト的に解説する本です。
 
特に最初の“応仁の乱”の解説が非常に分かりやすく、この本を読んで“応仁の乱”がいかに歴史的に見てもトンデモな戦いであったのか知ることができました。
 
しかし、その後の関東や、東北、中国、四国、九州地方などの情勢に対する解説はいかにも駆け足のダイジェストで、さすがに何一つ予備知識がない状態で読んでも“すっきりわかる”ことは不可能だと思います。
 
自分の場合、歴史小説(『天地人』、『秀吉と武吉』など)や大河ドラマ(『風林火山』、『真田丸』など)で得た断片的な知識を総動員してようやく流れが分かる程度で、完璧な理解にはほど遠いです。
 
文章は講談調でユーモラスなため非常に読みやすく、すでに知っている知識の復習をする分には申し分ありません。ただ、どうしてもダイジェストのため、この本を読んで戦国史をイチから勉強するというのは困難だと思います。せいぜい戦国時代のあらすじを学べる程度です。
 

大河ドラマ全50話ですら一人の武将の一生をダイジェストで描くのが限界なので、さすがに本一冊で戦国史を細かく網羅するのは不可能です

 
・『教養としてのお金とアート 誰でもわかる「新たな価値のつくり方」』 著者:田中靖浩 山本豊津
 

 
画商と公認会計士の二人がアートと会計(簿記)の意外な関係について語り合う対談本です。
 
この本は、画商である山本豊津さんのアート寄りの話が読みたくて手に取りましたが、読んでいると中東からヨーロッパへ伝わったアラビア数字が会計を飛躍的に進化させたという会計の歴史にも惹かれ、結果的にアートと会計、両方への興味が深まりました。
 
基本はアートと会計のプラットフォーム進化史の話であり、どんな技術がどのようなプラットフォームを生み、それによってどのような文化的な影響が広がるのかが解説されます。
 
読めば読むほどこれまで頭の中に乱雑に散らばっていた情報がリンクし、新しい回路が形成されていくような快感があり、読書の醍醐味を十二分に堪能できました。
 
ただ、タイトルがありがちなアートを題材にしたビジネス書のようなパッとしないもので、ここだけ勿体ないなと思います。
 

これほど知的興奮に溢れた本ならもっとセンスの良いタイトルにして欲しかったです

最後に

 
2月は珍しく読書生活が充実していたのに、ロシアのウクライナ侵攻のせいで全てがひっくり返ってしまい、来月はウクライナ侵攻の最新情報を追い続ける日々になりそうです。
 
 
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