はじめに
今回のミニ・ブックレビューは2021年11月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
今月の前半は、先月から引き続きプレイしていた『フォールアウト4』のトロコンに費やしました。
トロフィーの中でも“大型居住地の満足度を最大にする”という条件が非常に難しく、これを達成するためにはレベルを上げてよりグレードの高い施設を建造できるPERKを解放し、どのくらいの人数を配置しどのような施設を建てるのか試行錯誤する必要があります。そのため、このトロフィーを獲得するためだけに数日は掛かりました。
攻略サイトにも明確な正解というものがなく非常に手こずります
他にも“ターミナルを50台ハッキング”というトロフィーも、ストーリーを進める際は面倒なためほとんどロックされたターミナル(コンピューター)を素通りしたせいで、結局クリア済みの場所を再び訪れ隅々まで探して回る羽目になり膨大な時間を浪費しました。
ただ、トロコンを目指すとプラチナトロフィーを取得した瞬間にモチベーションが失われるため、そのゲームと長く付き合いたい場合はあえてトロコンせずに放置するという選択もありだなと思います。もっと『フォールアウト4』をやりたかったのに100時間もプレイせずトロコン出来てしまったせいで目標を失い、急激にゲームそのものへの興味が失せたので、もっとトロコンを先延ばしすれば良かったと後悔しました。
『フォールアウト4』をトロコンし終わるともうやりたいソフトが見当たらなくなりゲーム熱が急激に冷め、また読書中心の生活に戻ることにしました。
と言うか、PS自体が完全にオワコンな雰囲気でこの状態からどうやって立ち直るのか皆目見当も付きません
小説 4冊
・『岩伍覚え書』 著者:宮尾登美子
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作者のデビュー作『櫂』に登場した人物を主役としたスピンオフ小説です。『櫂』では妻に暴力を振るう夫として描かれていた岩伍を別の角度から切り取る攻めた内容で、コチラのみ単独で読むことも可能ですが、出来れば『櫂』を先に読んでいるほうがより楽しめます。
女を遊郭・料亭に紹介する女衒 という、現代で言うと金貸しに近い職業を営む岩伍が体験した様々な暴力・人情事件を振り返る回想録となっており、面白さは『櫂』にも劣りません。
この小説は、読む前は『櫂』のオマケの外伝くらいの認識で特に期待していませんでしたが、読み始めたら予想の10倍くらいの完成度で非常に驚いた一冊でした。
ちなみに宮尾小説の映画版はほとんどこの『岩伍覚え書』が原作となっています。黒澤明の映画『羅生門』は、タイトルが『羅生門』なだけで中身は『藪の中』とまったく同じパターンですね
・『陽暉楼』 著者:宮尾登美子
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かつて高知に実在した高級料亭“陽暉楼”と、そこで働く舞妓“桃若”の幸薄く過酷な人生を描く純文学です。
徹底してリアリティにこだわる宮尾登美子作品らしい陽暉楼の実在感が凄まじく、本当に文章を通じて陽暉楼という料亭を知ったような気分になれる大傑作でした。
さすがに『櫂』に比べると見劣りしますが、宮尾登美子小説の中でも間違いなくトップクラスの完成度なので読んで損はありません。
ちなみに映画版は原作とはまったくの別物で、何の関係もありません
・『寒椿』 著者:宮尾登美子
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4人の芸妓(芸者)の人生を4つの短篇としてオムニバス形式で描く短篇集です。
『櫂』と同様に作者である宮尾登美子さんの実人生が濃く反映された自伝的な作品でもあります。
『櫂』や『陽暉楼』の怪物級の完成度に比べると一段劣るものの、オムニバスの短篇小説としては文句なしの完成度で安心して読める傑作です。
『寒椿』の映画版も中身は『岩伍覚え書』なので原作小説とはまったく無関係の内容です。宮尾作品の映画はタイトルと中身がまったくの別物なので原作小説を読んでいればいるほど映画を見た際の混乱が増して厄介です
・『東福門院 和子 の涙』 著者:宮尾登美子
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江戸幕府2代将軍・徳川秀忠の娘である徳川和子 が、後水尾 天皇の元へ嫁ぎ、武家と宮家の文化の違いに苦労する様を、和子の侍女である“ゆき”の視点で描いた歴史・時代小説です。
和子が置かれる境遇が『天璋院篤姫』に登場する和宮 の立場をひっくり返したような関係なため、同作を知っているとより楽しめます。
それに篤姫と言えば、大河ドラマ『真田丸』ではほとんどコメディ要員として登場した小野 お通がコチラでは篤姫をサポートした幾島のような立ち位置で登場し和子を支えるため、大河ドラマ繋がりで見ても異なる面白味が生まれます。
ただ、登場人物の内面に深く深く潜り、その人物が押し隠す感情を美しい文章で掬 い取って見せる宮尾作品として見るとキャラクターの魅力が乏しく、ハッキリ言って完成度はあまり高くありません。
宮尾文学の素晴らしさは小説の最初と最後で登場人物への印象が劇変することで、その点においてこの小説はかなり物足りません
書籍 3冊
・『ルネサンス -歴史と芸術の物語-』 著者:池上英洋
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14~16世紀にイタリアから発生した古代ギリシア・ローマ文化の復興運動ルネサンスについて解説される新書です。
この本の魅力は美術史ではなく政治や経済からルネサンスを説明する切り口で、なぜルネサンスが古代ギリシア・ローマへと強い憧れを抱いたのか謎が解けました。
ぺージ数は控え目ですが、内容が濃いため一冊読むだけでルネサンスに対する理解が深まります。
・『篤姫の生涯』 著者:宮尾登美子
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2008年にNHKの大河ドラマにもなった歴史小説『天璋院篤姫』について、作者が執筆してから20年以上ぶりに自作を回顧するという主旨の本です。
基本的に小説に書かれていることをそのまま忠実に振り返るだけなのでこれといって目新しい発見はありませんでした。そもそも、小説自体が補足を加える必要がないほど篤姫や幕末情勢に関する膨大な説明で埋め尽くされており、すでに小説を読んでいるなら特にこちらを読む必要もありません。
ただ、原作小説を読むと作者は篤姫側に肩入れしているように感じましたが、この本を読むとやや見方が変わります。
宮尾登美子さんは17歳で結婚しているため、篤姫だけでなく若くして徳川に輿入れさせられた和宮側に対しても自分を重ねていることが分かりました。小説で描かれた晩年の篤姫と和宮の睦 まじい関係は、作者自身が嫁と姑両方の立場を経験したことで至った境地でもあり、両者ともに宮尾登美子さんの分身であると理解できます。
それ以外も、島津斉彬 がお由羅 騒動の際に、自身と対立していた者たちに罰を与えなかったのは、父・斉興 が薩摩藩の財政を立て直したことに対する斉彬 なりの配慮でもあるという仮説も非常に面白く、このアイデアは大河ドラマ版でぜひ反映して欲しかったなとも思います。
このアイデアを採用したら険悪な関係である斉彬と父・斉興の関係性にぐっと深みが増したので残念です
・『わかったつもり -読解力がつかない本当の原因-』 著者:西林克彦
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文章を読んで、つい“わかったつもり”になってしまうメカニズムを子供が読んでも理解できるように優しく解説するという主旨の新書です。
この本は学生が読むことを想定して書かれているため、大人が読む場合はやや物足りません。それでも書かれていることはためになるものが多く、読書する際本当に自分は本の内容を正しく理解できているのだろうかと不安を感じるなら読んで損はありません。
基本は、文脈の読み間違いや過去の経験に基づく認知心理学的な思い込み“スキーマ”によって、なぜ本来文章には書かれていない勝手な解釈を読み手がねつ造してしまうのかという問題の解説が主です。適切な例題が多いため、なぜ読み手は文章の意味を正しく読み取れず、自分にとって分かりやすい解釈をねつ造するに至るのか、そのプロセスが段階的に理解できます。
中でも特に有益だったのは、文章の解釈に関する記述です。
ある文章に対して、整合性が取れた解釈は正解が一つではなく複数存在するが、書かれた文章に対して整合性が無い解釈は全て間違いという、“正しいと間違いはシンメトリーではない”という指摘は非常に腑に落ちました。
この、整合性のある解釈は無限に成立できるが、整合性のない解釈は一つたりとも成立しないという、解釈の整合性で正しい・間違いを判定するという考え方は、これからレビューを書く上で気を付けたいと思います。
この考え方を採用すれば荒唐無稽な解釈でも文章との整合性さえ取れていれば大丈夫なため、より柔軟な捉え方が出来そうです
最後に
今月から読書中心の生活に復帰したので、来月は埋もれるくらい本を読み漁りたいと思います。