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月刊ミニ・ブックレビュー #12 2021年8月号

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はじめに

 
 今回のミニ・ブックレビューは2021年8月に読破した本をブログでのレビュー記事あり・なし問わず紹介します。
 
 今月は大河ドラマ『義経』を中心とした一ヶ月で、ずっと平安時代の勉強をしたり、原作小説を読んだり、関連アイテムを買ったりと、『義経』で始まり義経で終わった感があります。
 

 
 このドラマは悲劇的なストーリーに泣き続けた上に、レビューを書く際もドラマの名場面を思い出しては泣いていました。さすがに、レビューを書いている間中ずっと涙が止まらなかったのは初めての経験です。
 
 この作品の何かが自分の涙腺を刺激するスイッチを押し、何かがガッチリと心を掴んで離さず、その正体が分からないまま、正体を掴もうと泣きながら必死でレビューを書いていると、なんとか好きを言葉に落とし込めたので一安心でした。
 
 その後に、原作小説である『宮尾本 平家物語』を読むと、こちらは2000ページを超える超絶ボリュームで、全49話の大河ドラマを見るよりも遙かに時間がかかり、結局8月はほとんど『義経』で終わりました。
 
 大河ドラマは見始めると他のことがなにも手に付かなくなるほど没頭してしまうため、あまり連続して見るのは危険だと判断し、今後はもう少しゆったりしたペースで見ようと思います。
 

小説 5冊

 
・『黒塚 -KUROZUKA-』 著者:夢枕獏
 
 
 源義経が不老不死の力を手に入れ、人類がほぼ死滅した未来世界でサバイバルするという異色の伝奇サスペンス小説です。
 
 この小説は、物語の深みよりもノンストップサスペンスとしての先が気になる展開と軽快なテンポ、異能を有する敵との小気味よいアクションを重視しており、ほぼ一気読みしてしまいました。
 

特に意識したわけでもないのに、今月はなぜか義経が関わる作品ばかり読んだ月でした

 
・『陰陽師 鬼一法眼 -今かぐや篇- #3』 著者:藤木稟
 
 
 鎌倉時代の初期、はぐれ者の陰陽師・鬼一法眼が、怨霊たちから鎌倉の都を守るべく奮闘する伝奇小説です。
 
 この巻は、鎌倉幕府と朝廷の謀略を巡る話の合間に唐突に『竹取物語(かぐや姫)』のアフターストーリーをねじ込むという、まさしく藤木稟作品らしい予測不可能なトンデモ展開があり、シリーズでも1、2位を争う異彩を放っています。
 
 偶然ですが『黒塚』から二回連続で不老不死という設定が登場し、しかもこの3巻のあとがきに『黒塚』に登場する不老不死の秘密とまったく同じアイデアが書かれているため仰天しました。
 

 
・『陰陽師 鬼一法眼 -切千役之巻- #4』 著者:藤木稟
 
 
 4巻は、鎌倉幕府のトップである頼朝が謀殺されるという衝撃的な展開がある割にこれといって盛り上がりもせず、ひたすら武家同士の権力争いが描かれる地味な巻です。
 
 毎度毎度このシリーズは何も事件が起きないか、起きても地味で記憶に残らないかのどちらかで、そろそろ迷走感が強くなり始めました。
 

 
・『陰陽師 鬼一法眼 -鬼女之巻- #5』 著者:藤木稟
 
 
 5巻も4巻同様にこれまでの主要人物が次々に暗殺されていくのにまったく盛り上がりもせず、誰が殺されても何も感じたいため、段々話に興味が無くなります。
 
 政治劇なのに登場人物がバカだらけで互いの考えを読み合ったり牽制したりといった高度な駆け引きがなく、最初から勝つ人間と負ける人間が確定し、ただただ歴史上負ける人が負け、死ぬ人が死んでいくだけで退屈です。
 
 この巻を読んでいる時、自分はキャラクターにあまり思い入れを持たないため、つくづくシリーズものと相性が悪いということに気付きました。多少ボリュームがあっても単体作品として終わってくれるほうが好ましいです。

 
・『宮尾本 平家物語 #1~4』 著者:宮尾登美子
 
 
 
 
 
 鎌倉時代に作られた平家の盛衰を描く軍記物語『平家物語』を下敷きに、平家の女たちがどう生きどう死んだのか、その壮絶な生き様を描いた歴史小説です。大河ドラマ『義経』の原作小説でもあります。
 
 全4巻で2000ページを軽々と超える凄まじいボリュームで、このブログでレビューした小説の中でも単体作品としてはダントツの長さでした。これまでは『村上海賊の娘』の文庫版全4巻の1300~1400ページが最高でしたが、それを一気に倍くらい上回る量です。
 

 
 元の平家物語が持つ叙事詩的な壮大なスケールと、あらゆるものは最後には滅びゆくという諸行無常のはかない余韻を大切にしつつ、平家の女たちがどんな思いで平家の盛衰を見守ったのか、当事者たちの思いを追体験するような繊細な視点も加えられた大傑作でした。
 
 小説もさることながら、作者の宮尾登美子さんの、小説の完成度を高めるためならありとあらゆる努力を惜しまないという作家としての姿勢の良さにも胸打たれます。
 
 こんな傑作が原作なのだから大河ドラマ『義経』の出来が良いのも大納得でした。
 

書籍 4冊(雑誌がオマケで2冊)

 
・『NHK大河ドラマストーリー 義経 前・後編
 
 
 
 
 これは大河ドラマ『義経』のガイドブックで、本というか雑誌です。
 

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 中身は大変充実しており、ドラマが好きになったのであれば絶対に買いな一冊です。
 
 自分が大河ドラマを見て好きだと思った箇所はこの本のスタッフインタビューを読むとことごとく狙って作られたものだと判明し、ますます『義経』が好きになりました。
 
 それに、作中に登場する福原をイメージした屏風びょうぶは、既存のものを利用したのではなく、なんとNHKの美術スタッフが平安時代の美術作品を研究して作った完全オリジナルのものであるとか、義経の郎党たちがいつも陽気に歌っている歌も、わざわざこのドラマのためだけに当時の流行の歌(今様いまよう)の特徴を盛り込んで作られた特注のものであるとか、かなり衝撃的な情報がいくつも載っており、これを読むとドラマの見え方が劇的に変わります。
 
 それ以外も、なぜこの場面でこのような歌や踊りなのかという細かい芸能描写にもキチンと意味付けがされており、大河ドラマってこれほど細部の小道具一つ一つや、何気ない芸能描写まで、NHKの美術スタッフや歴史考証として参加している専門家が協力しストーリーの流れに自然に沿うよう作られていると知らなかったので、これからは大河ドラマを見る際はもっと一瞬しか登場しない小道具や歌や踊りにも注目しないと失礼だと反省しました。
 
 大河ドラマの中毒性が強いのは、これほど美術の細部にこだわりそこに意味を含ませ、脚本も徹底的に時間をかけブラッシュアップしているからだと改めて気付け、大変有意義な本でした。
 
 
・『義経』 著者:宮尾登美子
 
 
 同名作品である大河ドラマ『義経』の二作ある原作の一つで、こちらは小説ではなく随筆(エッセイ)です。
 
 さすがに宮尾登美子という作家の集大成である『宮尾本 平家物語』に比べると小粒な本で、ボリュームも数時間で読める程度のあっさりしたものでした。
 
 全体的に『宮尾本 平家物語』の感想戦のような内容で、自作を振り返ったり、源氏サイドの細かなエピソードを補足したりと、オマケのような一冊です。
 
 ただ、この本を読んでいる途中で大河ドラマ版のお徳が実は宮尾さんの分身として描かれていることに気付けるなど、様々な発見もあり読んで損はありませんでした。
 

 
・『平家物語の女たち』 著者:宮尾登美子
 
 
 エッセイとして書かれた『義経』とは異なり、こちらは宮尾登美子さんが『宮尾本 平家物語』について語った講演を書籍化したものです。
 
 最初は、宮尾登美子という文章の美しさにとことんこだわり文体に工夫を凝らす人の書いた本とは思えないほど適当にサラッと書いたような文章で困惑しました。しかし、最後まで読み講演を書籍化したものだと分かると納得します。
 
 この本は、タイトルの付け方がやや問題で、正しくは平家物語の女ではなく、『宮尾本 平家物語』という小説内に登場する人物の設定を元にした解説なため、これだと元の平家物語について語った内容だと誤解する可能性があると思います。
 
 そのため『宮尾本 平家物語』を読んだ人用の内容であり、元の平家物語について語る本ではありません。基本は、作家が自作を振り返りながら、なぜそのような描き方をしたのか解説する本です。
 
 『宮尾本 平家物語』を読んでいるのであれば、小説の裏話を読むような楽しさがあり、なぜこの人物が元の平家物語とは異なる描かれ方なのかや、なぜラストの「灌頂かんじょうの巻(大原御幸おおはらごこう)」がバッサリ削られているのか、疑問が解けます。
 
 
・『平家物語 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典
 
 
 『平家物語』の原文を現代の言葉に訳し、要点をコンパクトにまとめた入門書のような本です。
 
 現代の言葉に翻訳された訳文は可もなく不可もなくな文章で、『平家物語』を楽しみたいというよりは、軽くあらすじを知りたいという用途に向いていると思います。途中途中のコラムも『平家物語』の理解の手助けになりました。
 
 ただ、残念なのは各章ごとに代表的な原文が一つだけしか記載されておらず、全ての章で現代の言葉に翻訳された文章と原文とを比較できないことです。
 
 それに、コンパクトにまとまっているので読みやすい反面、要点だけ抜き出しているため元の話からかなり省略されており、正直この本だけ読んでも『平家物語』の奥深さも面白さも理解できません。あくまで軽くあらすじを知るための本といった感じです。
 
 
・『教養として学んでおきたい神社』 著者:島田裕巳
 
 
 神社神道についての初歩的な歴史が解説される入門書といった本です。
 
 読む前は神社の建物や敷地内にある施設の名前や意味、神社にまつられる祭神さいじん(天照大神、稲荷神、八幡神など)を説明するような神社ガイドブック的な内容だと思っていました。
 
 しかし、どちらかというと昔の神社と今の神社は何が違うのかという神社の歴史に関する話題や、神道や仏教が融合する“神仏習合”についての解説が主で、やや知りたかった情報とは異なりましたが、これはこれで満足です。
 
 特に驚いたのが、現代の日本人が神社に抱くイメージというのは、実は明治時代以降に作られた比較的新しいものだということ。
 
 幕末から明治にかけ尊皇攘夷が盛んになり、王政復古が叫ばれると、外来の宗教である仏教が“廃仏毀釈”で排斥され、仏教伝来以前の古代から日本に存在する土着の宗教である神道が国の中心となる国粋主義的な流れがあり、それが今日の神社へのイメージへ繋がっているという話は興味深く読めました。
 

いつの時代も海外から入ってきた文化を叩く習慣が変わりませんね

 
 それ以外も、『平家物語』を題材にした小説を読んだ直後だったので、平安時代に平清盛が平家とゆかりの深い厳島いつくしま神社の格を上げろと朝廷に圧力をかけたという話が出てきたのも個人的にタイムリーな話題でした。
 

最後に

 
 今月はずっと大河ドラマ『義経』や、それと関連する平家物語と平安時代にかかりっきりで、他のことに一切手が回らない月でした。
 
 あまりに大河ドラマと平家物語に熱中しすぎて一瞬で一ヶ月が過ぎ去ったという感覚なので、さすがに大河ドラマを見すぎると生活が崩壊するという危機感を覚えた月です。
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